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メイド人形  作者: Ichiko
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変態の時

午後になり、この後司の身体となるスーツとマスク、タブレットなど一式が届けられ、司はタブレットにサインをした。


スーツといっても3歳くらいの子どもがちょうど着れるくらいの大きさの全身タイツの様な素材にしか見えない。


『まずは奥のシャワー室で全身をきれいにしてきて。』


マリーからタオルを渡され、司は言われるままにシャワーを浴びた。


濡れた身体をタオルで拭くが、着替えの下着などはなく、マリーの前に裸のまま出ていく。


『終わりました。これを着るのですね。』


脱衣篭に先程の全身タイツが入っている。


『首の部分を大きく伸ばして。片足づつゆっくり入れて。』


なるほど、ストッキングの様にタイツは良く伸びるので慎重に片足づつ通すと結構簡単に入る。


『胸も大きくなってる。』


タイツに着替え終えると、胸が盛り上がっているのが分かるが、全体的にはまだ男性の体型の状態である。


『マスクはこれで良いかしら?これからずっとあなたの顔になるの。』


用意されたマスクは目と髪が緑色で、髪の長さはセミロングくらいである。


『はい。』


マリーが司の後ろに回り、マスクの装着を手伝う。


マスクを被ると少し息苦しく感じ、外の世界が全く見えない。


『これで大丈夫?苦しいし全然見えないし。』


司は不安になった。


『今は少し苦しいけどお人形になったら息はする必要はないわ。後、少しの間喋れなくなるけど我慢してね。』


マリーはそう言うと目が見えない司を仰向けに寝かせた。


さっき言われた充電器のひとつに入れられた様だ。


蓋をする音が聞こえると今まで苦しかった息は楽になったが指先を動かす事も目を閉じる事も出来なくなった。


(息が楽になったというより呼吸していないみたいだ。本当に人形になったみたいだ。)


外部の音も心臓の鼓動すらも聞こえないが、不思議と不安や恐怖は感じなくなっている。


『私は人形(ドール)。』


心の中でそんな思いが繰り返し込み上げて来る。


どれくらい時間が経ったのだろう?


自分では動かす事が出来ない身体が徐々に変化している様な感覚を覚えた。


マスクとタイツが身体の皮膚になり、身体が少し縮小して本格的に人形化が進んでいく感覚。


0時になった。


時計は見るものではなく体内時計で正確な時間が分かるのだ。


すると、一気に人形化の契約の内容や人形としての心得、取り扱い説明書の様なものが頭の中に入ってくる。


いや、既に司の頭には脳みそというものは存在しておらず、タブレットに書き込まれたものが概念(イメージ)として頭に入る気がするのだ。


もう自分は新藤司という人間ではなく、製造番号A0000023号、通称アリサという名前だと書き込まれており、アリサ自身認識している。


(私はアリサ……。)


アリサは完成したが、まだ充電が終わっていないので身体を動かす事は出来ない。


タイマーは朝5時にセットされており、その時まで心を静かに休めるだけだ。


アリサが人間だった唯一の名残りなのである。


5時になった。


外の世界が普通に見える様になり、どうやら身体も動かす事が出来る様だ。


充電器の扉が自動で開くのを待ち、開き終えるとアリサは起き上がった。


隣の充電器にはまだマリーが寝ている。


マリーはアリサが充電器で寝てから夜までメイド喫茶の仕事をこなし、タイマーは7時にセットしてある様だ。


アリサのタブレットにマリーからの未読メッセージが入っているのに気付き、アリサは開いて読んでみる。


[おはよう、アリサ。今日からアリサも私たちの仲間ね。私ももう少しここに残るのでその間は一緒に頑張ろうね。昨日は遅かったからもう少し充電させてね。アリサのメイド服はクローゼットに用意してあります。]


人形とはいえ優しい心を持った先輩である。


アリサは洗脳され勢いで人形にはなったものの、心が生きていて良かったと思う。


クローゼットに行くと、緑色のメイド服と白いエプロン、カチューシャの他に靴下や下着も準備されていた。


(人形でもちゃんと下着はするのね。)


下着はドロワーズとお揃いのブラジャーである。


アリサの身長はマリーと同じで、これが人形の標準サイズなのだと理解した。


着替えが終わると朝の仕事が始まる。


洗濯機には他のバイトの従業員が着たメイド服が入っているので洗濯機を回し、その間に掃除を始める。


この部屋は基本マリーとアリサ以外誰も来る事はないので飲食はしないが、それでも掃除機を掛け、窓を拭く。


最初からメイド人形の基本作業が書き込まれているのだ。


掃除が終わると既に昨日洗濯、乾燥が終わっていた従業員のメイド服をアイロンでプレスをして畳み、3階の更衣室に持っていく。


エレベーターの鍵もちゃんと用意されているのだ。


4階に戻るとちょうど7時になるところでマリーが目覚めるところだった。


『おはようございます、マリー。』


『おはようございます、アリサ。今日から宜しくね。』


マリーはメイド服を着ると、アリサに抱き付いた。


『え?こんな風に出来るの?』


感情を勝手に表現出来ないはずだ。


『昨日、ハグが出来る様に私のタブレットに上書きしたの。ご主人さまに喜んでもらえるオプションなんだけどね。』


後でどんな事が出来るのか確認しておこうとアリサは思った。


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