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メイド人形  作者: Ichiko
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絶望から希望へ

『呼び止めてごめんなさい。あなたが電車に飛び込みそうな反応がありましたので。』


駅務室には駅長の黒山も立ち会っている。


アリサが間違って保護をしてしまえば大きな問題になるので、黒山も不安なのだ。


『……はい……。急行が来たら飛び込むつもりでした。』


既に触れられただけで自分の個人情報を知られた早人は、アリサには隠し立て出来ないと観念していた。


『死にたくなるくらい辛い思いがあったんですね。良かったらお話をしてもらえますか?』


A型のままではここまで突っ込んだ会話は出来ず、通常なら黒山が聞く事だろうが、S型となったアリサは自分自身の言葉で早人の辛い思いを聞く事が出来、また同時に録音機能があるので後から再生も出来る。


『駅長。早人くんのご自宅と学校に連絡をして戴けますか?』


『はい、アリサさん。』


これではどちらが駅長だか分からない。


『あなたは本当に人形なんですか?』


一通り早人の聴取を終えたアリサに早人は逆に質問をする。


『はい。今は人形ですけどもとはあなたと同じ男子でした。私は自分から人形になったけど、あなたの様に人生に悲観して自殺を図った人を助けた事があります。今その人は人形になるための教育をしているの。死んだらそれでおしまいだけど、人形になるという事と死ぬ事は違うから。ただ、あなたはまだ高校生。お父さん、お母さんもいるし自分でなんでも決める事は出来ないからまだ人形にはなれないですけどね。』


『僕は学校にいても死ぬより辛い毎日だから、死ぬか人形になりたい。お願いします!』


早人は切実だった。


『とりあえずうちの研究所にご両親と一緒に来てみますか?人形になるための教育も受けている人もいますし、技術者になる人もいます。まだ人生を悲観するには早いですよ、早人さん。』



この後早人は母親に引き取られ、高校は退学する事となり、代わりにカスタムドール社の宿舎で高校卒業の資格を得るために通信教育を受けながら同時に人形になるための教育や製造の技術を学ぶ事になった。


後日、早人と両親が研究所の見学に訪れ、ユウリと新入社員の可奈が案内をして回る。


『こんな立派な施設でただで勉強が出来るなんて。』


早人の母親・幸子は感激した。


『しかし、早人くんが技術者ではなく人形になりたいと言ったら親子ではなくなるんですよ。私たちは教育はしますが強制は致しません。覚悟はしていて下さいね。』


自らが望んで人形になれば両親には多額の金額が入る代わりに息子とは会う事が出来なくなってしまう。


『私は人間のままカスタムドール社に就職しましたが、どちらの気持ちも分かる立場です。出来るだけ話を聞いて早人さんの考えを尊重します。』


大学時代は着ぐるみを着て人形としてバイトをしていた可奈だからこそ分かる部分もあるのだ。


『私たちは普通のお給料で良いから人間のままでいてほしいと思います……。でも、早人がなりたいなら仕方がありません。』


もし、アリサに呼び止められなければ早人は自ら命を絶ち、両親は鉄道会社から多額の損害賠償を請求される。


自殺の原因が第三者にあったとして裁判で慰謝料を勝ち取ったとしても、到底追い付けない負債に苦しめられるだろう。


幸子は早人に人間としていてほしいと願いながら、人形になる決断をした時はその判断に従うつもりである。


『可奈さんは優しいですね。』


ユウリは可奈が人形なら一足飛びにS型になるだろうと思った。


『私はここでアリサさんやユウリさんと一緒に仕事が出来るのが楽しいから。人形になるのも楽しいと思うけど、今は私の気持ちをここにいるみんなに伝えたいの。』


ここで今教育を受けている人たちの多くは人生に絶望を感じて自ら命を絶とうとしていたのだ。


可奈はそんな人たちに人間の立場で希望を与えたいと感じている。


『素晴らしいですね。私、可奈さん大好きです。』


『あの……私飯島有理さんの事憧れていました。今はユウリさんとして一緒にいますけど、飯島有理としてサインしてもらえませんか?』


可奈は照れながらユウリに聞いた。


『私、人間だった時の事は忘れようと思っていました。でも、可奈さんの様な方たちに応援して戴いた事は忘れてはいけないんだと気付きました。ありがとうございます。喜んでサインさせて戴きます。』



悩み事相談のサイトの開設以降、研究所には多くの人が教育を受ける様になって、アリサやユウリも忙しくなってきた。


教育を受け社会に復帰していく人、技術者や職員として研究所に残る人、人形になりたい人とそれぞれの道を選択出来る様になっている。


そんな中でみかんも人形になる決意を固め、一時的に研究所で教育を受けてきたが晴れてA型人形になる日が来た。


『みかんさんも人形になっちゃうのかぁ~。私だけ残っちゃった。』


コマンドブースにはアリサや可奈たちの他、教育を受けている研修生たちも集まっていて、その中には志茂田も早人もいる。


『いつでもS型のAIを用意してお待ちしています。』


『可奈は絶対に渡さんからな!』


ユウリと武藤は争奪戦を繰り広げている。


『2人とも静かに。みかんさんが来ましたよ。』


オペレーションルームにボディスーツを着たみかんが入ってきた。


『みかんくん。ライフユニットに入り、マスクを被って下さい。』


佐伯の指示でみかんはマスクを被る。


『このマスクを被ると呼吸が出来なくなり、外部の情報は遮断されてしまいます。ここが人間と人形の境い目となり、呼吸はしなくても大丈夫なのです。』


アリサが自分の経験をもとに研修生たちに説明をし、技術員がみかんを寝かせてライフユニットの蓋を閉める。


『この中で人間の身体がボディスーツに侵食され、2時間後には人形化が完了します。その時点で人として戸籍抹消、人形としての契約が自動的に行なわれ、ご家族の方に人形化手当が支給される訳です。この時点で夏木みかんという人は存在しなかった事にされ、新たに製造番号A0000035号、通称アンナという人形になります。』


みかんは起きたらアンナというA型人形になるのだ。



アリサとユウリが教育係になり、メイド服を着る事はなくなって暫く経った。


『アリサはメイドになりたかったのだから、淋しいでしょう?』


『そう思う事もあるけれど、いろいろな人と出会えて毎日忙しいから楽しいわ。』


その中でも仲良しのユウリとはいつも一緒にいる。


『ユウリ、ありがとうね。』


『何を言ってるの、アリサ。私は散々アリサに助けられたんだからお礼を言うのはこっちの方です。』


ユウリはぼろぼろにされて死ぬ寸前のところをアリサに助けられたのだ。


『これからも宜しくね。』


『はい、宜しくお願いします。』


2人は研修生の待つ教室に向かった。

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