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メイド人形  作者: Ichiko
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S型アリサ

カスタムドール社ではアリサやユウリを交えて会議が開かれていた。


『まず、今後についてですが、今引き合いが来ているのは観光地の施設での案内係、地方役場の受付、飛び込み事故の多発している私鉄駅の駅務掛兼デスペアーチェック等合計17件です。』


傀儡社長の梓川が発表した。


『素体確保の方はどうなの?』


影の社長であるローラが尋ねる。


『はい。東尋坊と青木ケ原で合わせて3名、ピュア★ラブリーで2名、法務省から3名の合計8名が現在研究所におり、そのうち法務省からの3名についてはC型人形化が終わっています。』


法務省からというのは死刑囚で、タワー入居時に一気に死刑囚が減った事もあり今後この方面からの人形化はなくなる予定だ。


『ピュア★ラブリーも閉店すると聞きましたが、それで素体は確保出来るのでしょうか?』


アリサが立ち上がって質問した。


『素体もそうだけど、AIの製造が追い付かないぞ。』


技術部長の佐伯も泣きを入れる。


『ピュア★ラブリーも南雲可奈くんが卒業して本社に来ると、セリナと人間のバイトが夏木みかんくんしかいなくなってしまうんです。夏木くんも人形になりたいという話もあるから素体確保はともかく、人間がいない事にはどうにも……。』


まだ正式に決定された訳ではないが、梓川の言葉はどうも歯切れが悪い。


『要するに赤字の垂れ流しなんでしょ?私の道楽で始めた店だけど、この会社がここまで大きくなったのはあの店のおかげだという事を忘れたのかしら?』


ローラは閉店させたくないみたいである。


『いっそ人形だけで経営しても良いんじゃないですか?人件費め掛からないし。もし続けるなら私、ピュア★ラブリーに戻りますよ。』


アリサは暇で固っ苦しい本社研究所より古巣のメイド喫茶の方が好きなのだ。


『私もアリサと一緒にメイド喫茶やってみたいな。』


ピュア★ラブリーを知らないユウリも続いた。


『ちょっと待って下さい。S型が2人ともピュア★ラブリーに行ったら困ります。それにユウリはアニメマスクの顔で良いんですか?』


ピュア★ラブリーの売りはアニメ風の美少女マスクなのだ。


もともとユウリのマスクは素体である飯島有理がモデルだったので、人形化といってもさほど違和感がなかったが、アニメマスクは大きなギャップがある。


『アリサと一緒だし楽しそうだから構いません。』


『駄目です。研究所の教育も大事な仕事ですから、2人は残って下さい。』


AIに支配されなくなったユウリは発言が自由過ぎる様で、申し入れは却下された。


『しかし、ピュア★ラブリーは残す方向で考えてみましょう。』


『ピュア★ラブリーで無理にスカウトしなくても良いんじゃないですか?代わりにネットで悩み事の相談とかをやって、人を集めれば如何でしょう?』


武藤の考えはあくまで普通に悩み事に答えていきながら、例えば仕事が見つからない、長続きしない人がいたら研究所の職員として一旦雇い、研修しているうちに人形化したいと思う様になれば素体となってもらうというものである。


『その方が良いわね。アリサ、ユウリ、あなたたちの任務は重大よ。私がピュア★ラブリーに戻ろうかしら?』


ローラも社長よりメイド喫茶の方が好きみたいだ。


『今の社長がメイドやったらお客さまにタメ口で会話してしまうから駄目です。』


以前のA型ならAIが勝手に会話をしてくれたが、改良されたローラはメイドとしてはC型より始末が悪いと梓川に言われ、ローラも却下されてしまった。



数ヶ月が過ぎ、アリサ用のS型AIが完成して換装される日になった。


『もう、なんでこんなに見に来るの?恥ずかしいから止めてよ。』


新設されたオペレーションルームにいるのは技術師の2人しかいないが、大きな窓の向こう側には部長の佐伯が指示するコマンドブースがあり、見学も出来る様になっていて、ユウリやローラ、武藤や可奈の他、セリナやみかんも店を臨時休業して来ている。


アリサは一度電源を強制的にシャットアウトされて眠ったが10分ほどでS型AIが搭載された新しいボディに換装された。


『遅い!素体が死んでしまうぞ。5分以内に完了させろ!』


佐伯の怒鳴り声がルームに響くが無事換装は終了し、15分程度各種試験が続いてアリサはライフユニットから出てきた。


『どうだ?調子は?』


『良い感じです。』


ユウリの時は換装より修理に時間が掛かり2週間掛かったが、アリサはたった30分でS型に換装されたのだ。



アリサは研究所で教育係をしながら、お呼びが掛かると新しい仕事のデータ採取のために引き合いのある企業に出向いているが、S型として初めて向かったのは私鉄駅の駅員であり、アリサは私鉄の女子の制服を着ている。


朝は2分起きに列車が来て溢れかえる乗客の整理をこなす傍ら、飛び込み自殺を図りそうな人がいたら直ぐに引き止めるのだ。


アリサはS型に換装される時に自らの希望でデスペアーチェッカーを体内に内蔵してもらったので、タブレットを持たずにそれらしき人物がいたら分かる様になっている。


(でも月曜日とか気だるい感じの人が多いみたいね。)


月曜日の朝は絶望するほどの大きな反応がなくても憂鬱な気分の通勤・通学客が多く、薄い反応だがホーム全体に拡がっている。


(あ!)


そんな時、改札から大きな反応をする人物がホームに降りて来た。


(男子高校生……。)


うつ向き加減でアリサの前を通り過ぎようとしたその高校生にアリサは声を掛ける。


『すみません、ちょっと宜しいでしょうか?』


突然男子高校生は声を掛けられたために逃げようとしたが、アリサは直ぐに引き止めた。


『急に声を掛けて申し訳ございません。私立幸の台高等学校三年B組、養田早人さんですね。』


『どうして僕の名前を……?』


手を握った瞬間、デスペアーチェッカーの追加機能で個人情報が分かる様になっているのだ。


『駅務室に来て戴けますか?』


アリサは優しく早人を連れて駅務室に案内した。

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