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メイド人形  作者: Ichiko
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社長の真実

『可奈くんもアリサもロビーに行きなさい。イベントの最後に挨拶をするんだろう?ユウリは俺と佐伯で見てるから。』


武藤はそう言ってアリサたちを追い出した。


『アリサさん、もう大丈夫なんですか?』


『ライフゲージは60%に回復しましたから今日1日は問題ありません。可奈さん、ありがとうございます。』


人形同士のつながりも大事だが、可奈の様な娘が人間の社員として関わってくれたら心強い事この上ない。


『本当はサーヤの命名式も見たかったでしょ?』


『はい。』


サーヤの様に直接名前を付けてもらった人形は名付け親から手書きの命名書を授与される。


当然命名書自体に意味はないのだが、人間として烙印を押された人形が人間らしさを取り戻せる機会となってほしいと考えられた儀式だ。


アリサはイベントの最後にメイド人形の総責任者として挨拶をしてタワーを去った。



アリサはつくばにある本社に身を移し、ユウリに譲った代わりのAIが完成するまで退屈な日々を送る事になる。


先に工場に送られたユウリも、新しいボディの換装が終わり、アリサと共に新たなプロジェクトまで各種試験をこなしながら過ごしている。


問題は武藤の処分だ。


『武藤さんはどうなりましたか?』


こうした社内の情報は人形には直接伝わらないので人づてに聞く必要がある。


『社長預かりとか言ってたな。人形にされるんじゃない?』


社内でも機密事項だが、そうなると悪い噂の方が先行するのが常である。


さすがに人形が直接社長に直談判する訳にはいかない。


『アリサ、どうされましたか?』


声を掛けたはA0000001号、つまり一番最初に作られたメイド人形の大先輩・ローラである。


ローラはピュア★ラブリーでメイドを務めた後、出荷されずにずっと本社にいる重鎮だ。


『ローラは武藤さんのお話は聞いていますでしょうか?』


『私も知りません。社長に聞いてみたらどうですか?』


まさかローラにそう言われるとは思わなかった。


『それは社長に楯突く事にならないでしょうか?』


『あら?聞くだけなんでしょ。なんでしたら私も一緒に行きましょうか?』


人形らしからぬローラの言葉に戸惑いながら社長室に行く事にした。


『ローラは社長室にはよく行かれるのですか?』


『はい。毎日行きますよ。』


アリサは武藤の事などよりローラがいつも社長とどんな話をするのかが気になった。


社長室の前に着くと、ローラはノックもせずに社長室の扉を開ける。


(こんな無礼でこの人本当にメイド人形?)


『あっ、社長。』


そう言ったのはアリサが社長として認識している梓川隆文だった。


『え?』


社長であるはずの梓川がローラを社長と呼んでいるのだ。


『どういう事でしょうか?』


アリサは何がなんだかよく分からない。


『ごめんなさい、アリサ。梓川は私の相棒で登記上は代表取締役社長なのですが、もともとは私が社長だったのです。』


梓川はローラの影武者だったのか?


『ローラは私の兄でした。もとは大学で電子工学を専攻して物凄く優秀で所謂天才でした。独自にAIを開発して、どうにか人間に組み込めないかを考えてボディスーツまで開発して、自分で人形になってしまったんです。』


天才だったが、同時におたくだったために自らメイド人形になったという事だ。


『私は兄みたいに優秀ではなく、細々と兄が望んだメイド喫茶を経営するだけでしたがある日政府の特務機関を名乗るお客さまがお見えになり、あなたの研究は世の中の役に立つからと政府の特務機関という形で研究所が作られ、私は兄の代わりに社長になった訳です。』


『でもローラが人形になってどうやって研究を続けたのですか?』


優秀ではない弟が研究を続けられるはずはないのだ。


『佐伯さんや武藤さんは兄の同級生で、彼らに後を継いでもらい、私は傀儡社長に就任しました。』


優秀なブレーンによって研究は引き継がれたのだ。


『その武藤さんの事ですけど……。』


優秀なブレーンの一人である武藤が処分されたら困るのは会社だ。


『いや~、武藤さん、俺が責任を取るってきかないんですよ。さすがに武藤さんを人形にする訳にはいかないって言っているのに。』


なんとも権限のない社長である。


『望み通りL型にしてやるって言ってやりなさい。』


『え?本当になるって言うかもしれませんよ。』


この元兄弟の話を聞いているとこの先大丈夫か心配してしまうが、とりあえず武藤の処分はなさそうだ。


『アリサ。私はこんな性格だからS型は無理なんだけど、あなたやユウリがS型になってくれて、是非これからのプロジェクトを牽引してほしいの。』


ローラはAIに支配されたくはないのである。


『AIに支配されるのではなく、AIと完全に同期が出来れば次のステップに進めるの。S型も今は最初にAIに奉仕というキーワードを覚えさせていて、アリサたちも最初からメイドとしての心得を持っているから同期出来るの。私の理想は、素体の方が最初のキーワードを書き込める様になる事なの。』


ローラの考えでは身体の一部を失った身体障害者や病気で身体を動かす事が出来ない人が自由に動かせる身体を作りたいのだ。


今はA型としてメイドスキルを上げたアリサやユウリみたいな人形しかS型AIと同期出来ず、結局AIに支配されている事に変わりはない。


『そういう人たちの第2の身体を作る事が政府からの一つ目の課題。それからもう一つあるんだけど。アリサ、暇な様だから研修に行ってみない?』


アリサはローラのいう研修を断る事は出来なかった。


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