決断
アリサと武藤が40階の久保塚の部屋に入ると、部屋は酷く荒らされていた。
『これはどういう事だ?』
『微かですがユウリの電波を受信しました。執務室の様です。』
部屋全体はアリサも認証キーを取得しているのでアリサも入れるが、執務室だけは久保塚しか認証キーを持たないので入る事は出来ない。
『この中にいるのは間違いないのですが。』
『ユウリは認証キーを持っているのか?』
『中にいるなら持っていると思いますが、電波が微弱なので通信出来るか分かりません。』
執務室に入るにはユウリから認証キーを聞き出すしかない。
『アリサもかなりエネルギーを消耗するだろうが出来るか?』
『やってみます。』
アリサは自分のエネルギーを最大出力にしてユウリとの通信を試みる。
『G45n……。』
アリサはユウリから発せられる微弱な電波を捉え、認証キーを聞き取る事に成功した。
『開きました。』
急ぎ、執務室の扉を開けると他の部屋同様に荒らされた跡があり、誰もいない。
『アリサ、あれは?』
部屋の隅にジュラルミン製の大きなスーツケースが置かれていた。
『あの中にユウリがいる様です。』
ケースにはTSAロック式の南京錠が掛けられていたが、アリサは難なく番号を読み取りスーツケースを開けると、そこには見るも無惨な形に壊されたユウリの姿があった。
『ユウリ!』
『…………。』
ユウリは微かに反応しているが、人間でいうところの虫の息状態である。
『……チケン……ソウ……サ……ク。』
『何だって?』
ユウリは普通の人間では聞こえないくらいの電波を振り絞りなにかを伝えようとしていた。
『地検の特捜部がこれからここに来るみたいです。』
『なにぃ?』
アリサが外部からメディアの情報を取得する。
[今日午前、東京地検特捜部はネクストシティ株式会社を家宅捜索致しました。同社社長の久保塚祐三42歳は脱税や詐欺など合計13の容疑があり、特捜部はこの後久保塚氏の自宅も捜索する予定ですが、久保塚氏は既に早朝の便で国外逃亡をしており、捜索は難航すると見られます。]
『今ここに特捜部が来たらうちも調べられる。アリサ、今すぐユウリを36階に連れて行け。』
『かしこまりました。ユウリ、このまま少し我慢して下さい。』
アリサは重いジュラルミンケースを力の限り持ち運んだが、アリサも36階のドールセンターに到着した時にはエネルギーが消耗してほとんど動けなくなっていた。
身体を動かす事は大した事がないが最大出力で通信をし続けた事が原因である。
(とりあえずユウリだけでも……。)
渾身の力を振り絞り、アリサはユウリをライフユニットに収容した。
『……供給されない?』
ユウリのAIは修復不能に壊されて給電が出来なくなってしまっている。
(このままではユウリは死んでしまう!)
アリサ自身ももう自分で動く事が出来なくなる程バッテリーが消耗しており、生命維持のために省電力モードに切り替わっている。
武藤やカリンに連絡したくてもこの状態では無理なのだ。
(……早く……しないと……。)
意識が朦朧としているその時、突然省電力モードが解除された。
『……C1018……?』
目の前にはC0001018号とマスクを外した可奈がいて、コンセントからアリサの身体に給電をしてくれたのだ。
コンセントからだとライフユニットとは違い低速でしか充電出来ないが、とりあえず機能は使える。
『どうして?』
『武藤部長からカリンさんに連絡が入って。アリサさん、無理しないで下さい。』
可奈はアリサを心配したが、無理は武藤も承知である。
『ユウリを助けるには仕方なかったの。1018はもう名前発表があるんじゃないの?』
『私は大丈夫です。』
数少ないAIの言葉でしか帰ってこないが、C0001018号がリーダーのアリサのために命名式を放り出して来たのが分かった。
『ありがとう、1018……いえ、サーヤ。』
『サーヤってC0001018号の名前ですか?』
可奈はC型人形の名前発表前に飛び出してきたから名前を知らないが、アリサは通信機能が復活したのでC0001018号が正式にサーヤと発表された事を知っている。
『アリサさんもユニットに入って下さい。』
『いえ、今ユニットに入ったら充電が終わるまで出られないからこのまま武藤さんを待っています。それよりサーヤ、紗矢菜さまが待っていますからステージに戻りなさい。』
『かしこまりました。』
リーダーの命令は絶対なので、サーヤは命名式のステージに戻っていった。
『可奈さん、ありがとうございます。素顔の魔法少女姿、可愛いですね。』
可奈はマスクだけ取っていたが、ステージ衣装の魔法少女の衣装のままである。
『もう!心配して慌てて駆け付けたんだから感謝して下さい。それよりここでサーヤさんの名前言っちゃったらサプライズにならないんじゃないですか?』
アリサは可奈に怒られた。




