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メイド人形  作者: Ichiko
18/26

引き継ぎ

インキュベーションタワーの住居部分は建物の22階から40階までとなっており、最上階のユウリを除いてアリサたちは6フロアづつを担当している。


ユウリは40階専属のため、普段下のフロアに来る事は全くなく、36階にあるアリサチームのドールセンターに足を運ぶのは初めての事だった。


(きれい……。)


アリサとユウリはアリサが久保塚の部屋にいた時に散々会っていたが、人形になってからは同じタワーで働いていても通信だけで直接会う事ななく、それぞれの部署に配置されてから初めての顔合わせである。


人形になっても女優・飯島友理の面影が残るユウリはメイドにしておくのは勿体ないと思える美しさと優雅さを魅せている。


(素材が違うだけでこんなに差が出てしまうものなのか……。)


アリサは同じ人形でもユウリと自分とは雲泥の差があると痛感したがアリサの口から出た言葉は全く逆である。


『ユウリ、レベルダウンしていませんか?』


アリサのAIがユウリの機能低下を見抜いた。


『なに?ユウリ、ちょっと見せてみろ?』


武藤は急いでタブレットを出して、チェッカーアプリを起動してみる。


『障害があるな。すぐに修理しよう。』


かなり酷い障害の様だ。


『お待ち下さい。久保塚の担当はどうするのですか?』


久保塚のフロアはセキュリティが強化されているので、許可がなければ一般の人間はおろか、人形も入る事は出来ない。


『アリサがいるじゃないか?もともとアリサはユウリの予備担当として機能は残してあるし。』


『そうでしたっけ?』


ユウリが担当になってからは使わない機能なので記憶の奥に隠れてしまった……人間でいう物忘れである。


『今の仕事は後任予定のA型がいるから配置をさせれば良い。アリサは新しい機能にバージョンアップする事が決まっているからユウリが戻ったら暫くはじっくりメンテナンスをして休みなさい。』


『新しい機能ってS型の事ですか?』


S型とはAIと素体が完全に一致した最高レベルの人形である。


今のA型はドールセンターなど限られた場所と一定時間しか素体自身が自分で考えたり話したりする事が出来ないが、S型はAIと素体が完全に一致したものとなるため、制限がなく自由に行動が出来る。


それには素体自体が完全にAIとシンクロしているという前提が必要になるのだが、アリサはその条件を既に満たしているのだった。


『じっくり休むなんて出来ませんよ。』


アリサの心はもうメイド人形そのものでアリサから仕事を取ったらなにも残らないのだ。


『働き過ぎは故障の元だ。休むのも仕事のうちだと思え。』



ユウリが修理の間、新たにA型のミーナがアリサのフロア担当となり、アリサは統括リーダーのまま久保塚の部屋に移った。



(ご主人さまが部屋に帰って来ないと掃除くらいしか仕事がなくて困りますね。)


アリサは普段はやらない部分もサーチして清掃をしていくが、すぐに仕事がなくなってしまい、ミーナが着いたフロアに降りて手当たり次第雑用をこなす。


[アリサ、C型の仕事を奪っては困ります。]


A・B型の補助か雑用しか出来ないC型の仕事がなくなってしまうので、新任のミーナに怒られる。


(うう、仕事したい……。)


完全にワーカホリック状態だ。


そんな折り、10日振りに久保塚が部屋に戻ってきた。


『お帰りなさいませ、ご主人さま。』


久しぶりのせいかかなり早い時間の帰宅となったが、夜に久保塚を出迎えるのは珍しい事だ。


『お、アリサか。ユウリはスクラップか?』


久保塚は見知らぬ女性を連れていた。


『なにこれ~?ロボット?』


『まあそんなもんだ。なんでもやってくれるお手伝い人形。』


『へぇー、おもしろ~い。こんなのが家にいるなんてさすがね。』


アリサは黙って久保塚がぬいだ上着をハンガーに掛ける。


(ユウリの事スクラップなんて聞いたけど、不調の原因って久保塚がなにかしたのかしら?)


メイド人形に強い衝撃を与えると故障の原因になるという説明は久保塚も受けているはずだ。


『時間ですので私は失礼致します。明日はお客さまの朝食も8時にご用意致します。』


アリサはそう言って部屋を出て、ドールミーティングのために36階のドールセンターに向かった。


配置以来ユウリは部屋を出ずにリビングでタブレットを用いてミーティングに参加していたが、統括リーダーのアリサはミーティングのまとめ役でもあるため、人間のいる場所では都合が悪いのだ。


『お疲れさまでした。』


アリサの後継者であるミーナがアリサを出迎える。


『如何ですか?』


『はい。みんなエラーもなくスケジュール通りに業務終了致しました。C型が多いので大変だと聞いていましたが、よく動いてくれています。』


『ミーナも着任早々頑張ってくれている様ですね。』


アリサはミーナを労った。


[C型の名前公募の件ですが、明日から始めて宜しいでしょうか?]


『カリンは時期統括ですから公募の件は全てお任せします。発表の日までは私もいますが。』


アリサはC型人形の名前が決まった時点で後任統括リーダーとなるカリンにバトンを渡す形になる。


[では明朝6時からデジタルサイネージで表示します。]


インキュベーションタワーの掲示板はほとんどデジタルサイネージで流し、自室のパソコンで閲覧も出来る。


ユウリが戻ってアリサもタワーを去る日は近い。

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