心の解放
[最近、アリサさんが担当しているフロアのエラーが少なくなりましたね。]
毎晩、アリサたちA型のリーダーたちはその日の総括を報告し合い、それをまとめて本部に送るドールミーティングを行なっているが、最初は目を覆うほど多かったC型のエラーが最近はほとんどなくなっていた。
[C型の人たちとは常に個人面接しているの。確かに人間だった時はみんな酷い事をした人ばかりですが、心は生きています。別に慰めたりはしないけど、たまには心を解放するだけで結構素直になるんですよ。]
心を閉じ込められて人形として生きるのは死ぬより辛いという。
ならば心を解放してやれば良いのだ。
[さすがアリサですね。さっそく私のところでもやってみます。]
1日の業務は朝から各部屋を回りごみ出し、朝食の後片付け、クリーニングに出す衣類の受け付けと仕上がった衣類の配達、その他衣類の洗濯、部屋の清掃など多岐にわたる。
アリサは料理を作れるが、人形不足という状況もあり料理のサービスは休止していた。
アリサや他のB型の人形たちが1~2体のC型人形を補助として組になって行動し、残ったC型の人形たちは廊下など共有スペースの清掃や雑用が宛がわれる。
アリサは毎日組むC型人形をローテーションで変え、その日に組んだ人形と夜面接を行なうのが日課とした事でC型人形の心に溜まっている不満を解放していた。
が、元は殺人を犯した死刑囚であり、意思を持たせればわがままな人形も多い。
[いつまでこんな事させるんだあ?てめぇ、何さまのつもりだよ!]
『さあ、何さまなんでしょうね?』
話にならない人形は適当にあしらうが、いくら凄まれてもタブレットを通じての表現だし反抗が出来る訳もなく怖くもなんともない。
『C0001015号はそんなにL型になりたいのですか?』
[……だ、誰が素性の分からない男に抱かれるだけの人形になるかよ!]
あまり言う事を聞かなければ脅しを掛ける事もあるが、通信機能を外してしまえばAIに支配されて日常業務をこなしてくれる大事な戦力なので、出来れば改心して楽しく仕事をしてほしいと願っている。
[殺人を犯して後悔の毎日でした。いよいよ死刑という時にこんな姿にされ最初は思い通りに殺してほしいと思っていましたが、アリサリーダーを見て私も多少人のために働ければと思い直しております。]
最近ではこんな風に心を入れ替える人形もいるのだ。
C0001018号も最近はだいぶ変化をしてきている。
『おはよう。メイドさん。』
『おはようございます、高田紗矢菜さま。行ってらっしゃいませ。』
廊下で登校する小学生から声を掛けられる。
『ねぇ、なんでC1018さんってアリサさんみたいな名前が付いてないの?』
『私は雑用担当の人形だからです。』
AIは模範解答しかしない。
『なんか覚えつらいね。あなたの名前付けてあげよっか?』
紗矢菜は最初の頃にC0001018号が作業中に接触してエラー案件となった娘である。
その時はメイド人形に対して恐怖感しかなかった紗矢菜であったが、次第に慣れ、こうして自ら人形と会話するのが楽しくなっていた。
『ありがとうございます。学校に遅れますからまたの機会にお願いします。』
易々と子どもが名前を付けてもC型人形が受け入れてはいけないのでとりあえず回避したが、これも報告案件となる。
アリサチームのB型にはそれぞれ[ラン][チェリー][フラン]という名前が付いているが、C型人形は名前がない。
[確かに住んでいる皆さまもだいぶメイドたちに親しんでくれていますからね。でも27体いるC型全部に通称を付けるのですか?]
『製造番号で呼ばれるよりやり甲斐が出て改心する人たちが増えるかもしれません。』
[逆に「俺にこんな名前付けやがって」なんて反発するのではないですか?]
27体の素材は全員元死刑囚の男性である。
[住人の子どもたちに名前を付けてもらったらどうでしょう?]
ティアラが提案した。
『公募ですか?それは面白いですね。より子どもたちもメイドに親しんでくれそうですね。』
いつになく報告会は盛り上がる。
『ユウリからは報告はありますか?』
ユウリは久保塚専属のため、会話に加わる事が少ない。
[久保塚さまは3日間ご帰宅されておりません。]
通常オフィスには週2日くらいしか出社せず自宅にいる事がほとんどの久保塚が3日もマンションに帰らないのは異常だ。
『特に連絡とかはありませんか?』
[ございません。]
インキュベーションタワーの最大の出資者でもある久保塚が音信不通というのはカスタムドール社にとっても問題である。
すぐさまアリサは本部に報告を入れた。
翌日、武藤がすぐに回答する。
『久保塚氏は毎日オフィスに出社しているとの事だ。ここだけの話だが、愛人の家から通っているらしい。』
ユウリは昔の恋人・飯島友理ではないが、元カノそっくりな人形がメイドとして四六時中自分の回りをうろうろしている部屋にいたくないという理由も考えられる。
『主が帰ってこないならやる仕事もないだろう。タブレットではなくここに呼んでみようか?』
さっそく、武藤とアリサの待つドールセンターにユウリがやってきた。




