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メイド人形  作者: Ichiko
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或るメイド喫茶

世界中から注目されている様々な文化の発信地・秋葉原。


新藤司も秋葉原のとある文化に憧れている一人である。


駅を出て信号を渡った先に目指す場所はあり、次第に心臓の鼓動が大きくなるのが分かった。


(あ、メイドさんだ。)


信号待ちをしているとメイド喫茶の女の子が道行く若者や外国人観光客にPRをしている。


(良いなぁ……。)


実は司の目指す場所もメイド喫茶なのだが、ネットで調べて自分の行きたい店は決めてあり、PRをしていたメイドたちを素通りして信号が変わると道を急いだ。


路地裏にあるビルの3階にそのメイド喫茶はあるが、他の店の様に入口で客を呼び込むメイドは立っていないし看板もなく、司は多少不安になった。


(ネットではこの店が良いと思ったけど大丈夫だろうか?)


エレベーターのボタンを押し、中に入ると確かに[3Fメイド喫茶 ピュア★ラブリー]と札があったので3階のボタンを押した。


胸の鼓動は最大限に高まるが、チンという音が鳴ってエレベーターの扉が開くともう逃げられない。


『お帰りなさいませ、ご主人さま。』


店の入口で待ち構えていたメイドはピンクのスカートで、髪もスカートと同じピンクのストレートロングにメイドらしいカチューシャをしていた。


声は声優が演じるアニメより機械的で、きらきらピンクの目をしているが口は動いていない。


彼女はアニメの様なマスクをして司に相対しているのであった。


『……あ、あの……初めてなんですけど……。』


『初めてのお帰りなさいませですね。緊張されなくても平気ですよ。さ、ご主人さま、どうぞこちらに。』


そのメイドの表情は全く変わらないが如何にもご主人さまを待ちわびていたという顔に見える。


ソファーに座り、おしぼりを手渡されると案内してくれたメイドが自己紹介を始めた。


『改めまして、お帰りなさいませ、ご主人さま。私は当メイド喫茶のピュア★ラブリーのメイド、マリーと申します。宜しくお願い致します。ご主人さま、お名前を聞かせて戴いても宜しいでしょうか?』


ご主人さまという呼び方以外は語尾に『にゃん』を付けたりはせず、敬語で接客する程度なので初心者には良いかもしれないが、問題は機械的な声質の方である。


『……つ、司です。よ、宜しくお願いします。』


『司さまですね。とても素晴らしいお名前です。司さまとご主人さま、どちらでお呼びしたら宜しいのでしょうか?』


あまり誉められるのは逆に気持ち悪い。


『ご……ご主人さまで良いです。』


『かしこまりました。メニューをどうぞ、ご主人さま。』


司は定番のセットであるミルクティーとオムライスを注文すると逆に質問をする。


『マリーさん、どうしてその様な声なんですか?ここのメイドさんってみなさんそうなんですか?』


『マリーと呼び捨てにして下さいませ、ご主人さま。この様に喋るのは()()私だけです。他の子たちは普通のバイトの女の子ですから。』


とすると、マリーは普通のバイトの女の子ではない→ボイスチェンジャーの様な機械で声を変えている男の娘なのだろうか?


マリーは席を外し、ミルクティーとオムライスを持ってくる間に別のお客が来店していた。


『お帰りなさいませ、ご主人さま!』


確かに別のメイドの声は作ってはいるが普通の女の子の様だ。


しかし、司は女の子が目的ではなく、自分もいずれメイド服を着てみたいと思ってこのメイド喫茶に来たのであり、マリーの話の続きを聞きたくなった。


『お待たせ致しました、ご主人さま。』


マリーの顔はマスクなのになぜか豊かな感じだ。


『マリーは男の娘なの?』


いきなり聞いてしまったが言った後に普通のバイトの女の子ではない=男とは限らないという事に気付いて、失敗したと思う。


『どうしてそう思われるのですか、ご主人さまは?』


マリーが怒っているのかなと思い、司はうつむき加減になる。


『いや、だって普通のバイトの女の子ではないと言ったから……。』


一瞬、嫌な空気が流れた。


『……私、人形ですから……。』


静寂の後、ぼそっと言ったマリーの言葉に司は愕然とする。


『えっ?』


『正確には元人間なのですが。……ご主人さまはこの先のお話を聞きたいと思いますか?』


ものすごく興味があるが、その話を聞いたら自分もなにか得体の知れないものに巻き込まれる様な気がする。


司は、マリーのピンク色の瞳を凝視した。


(もしかしたら自分もマリーの様にメイドの人形にされてしまう?……でもなってみたい!)


『き、聞きたいです!お願いします!……というより僕もマリーみたいになりたいんです!』


聞く前に言ってしまった。


もう後には引き下がれない。


『……分かりました、ご主人さま。せっかくですからオムライス、召し上がって下さいませ。ご主人さまとお呼び出来るのはこれが最後になるでしょうから。』


つまりは司とマリーは対等の立場になるという予告なのだ。


司は人間として最後の食事を味わった。



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