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第二章-64『邂逅』

 十五分経過。


 採掘基地近くの平地にて。草木も生えていない荒涼とした大地のある地点、陥没した部分に開いた穴から、キヨシのオーダーを聞き入れたリオナが、姉妹を抱えて脱出した。


「……ハァッ、ハァッ…………もうそろそろ、日の出か。夏は流石に早いな──むンッ」


 抱えていた二人を静かに下ろし、キヨシから受け取ったソルベリウムをポケットから取り出してチャクラを込める。するとソルベリウムは眩いばかりに輝き、辺りの空気が微かに渦を巻き始めた。


「ちょっと込め過ぎたか? まあいい。ティナさん、飛行機の台座にとのことでしたが……」


 リオナが飛行機の操縦方法を聞き出そうとしたティナは、リオナが降ろした場所から全く動いていなかった。いや、動いてはいる。ただうずくまったまま、災禍のど真ん中に置き去りにしてしまった男を想い、小刻みに肩を震わせていた。


「ぐすっ……ひぐ…………きよし、さんっ…………」


「……ティナさん」


 その余りにも悲愴な様子に、いたたまれなくなったリオナは直ぐ側にひざまずいて、ティナの肩にぽんと手を置いた。


「……大丈夫、使徒様ならきっと生きて戻ってくる。嘘をついている風ではなかった。直接話した私には──」


 リオナが今口にしたセリフや、その行動の意図、リオナの胸中など最初からティナは理解していた。今、現実に打ちのめされて泣くことしかできない自分を見かねて、励ましの言葉をかけようと、慰めようとしてくれているのだと。リオナが持つ生来の優しさから来る気遣いなのだということは、ちゃんと理解していたはずだった。


 だが、ティナがその優しさに対して感じたのは、


「~~~~~~ッッッ!!!!」


 毛先までぞわりとするような、激しい怒りだった。


 何故か。その答えをティナは手にしていながら、上手く言い表すことができなかった。『どうして放してくれなかったのか』──違う。『人の気も知らないで』──より違う。分からない、そして助けてもらった人に対して苛立ちを覚える自分にさえ深く失望し、余計に頭の中を掻き混ぜられるような心地になった。


 ──分かんない……なんで私は…………。




















【きー君のことを何も知らないくせに、知った風なこと言わないで!!】

























「……ッ!?」


 ティナは驚愕の余り、顔を上げて辺りを見回す。


 それは、確かに聞こえた女性の声は自分でもリオナでもない、第三者の声だったから。そして、その第三者の声が、ティナの気持ちを非の打ち所もない程、正確に表現してみせたからだ。


「だ、誰ッ!?」


「ッ!? 誰かいるのかッ!!」


 ティナの声にリオナは機敏に反応し、大槍を構えてティナたちの前に立つ。だが、待てど暮らせど人影一つ現れない。


 ──幻聴……? でも、そういうのにしては、スゴくハッキリ聞こえて……。


【びッ……くりしたァ。また敵かと思っちゃった】


「や、やっぱり! また聞こえた!!」


「あ、あの……ティナさん? その、大丈夫ですか?」


「え? えっと……リオナさん。今、何か聞こえませんでしたか?」


「何か、と言いますと?」


「人の声とか」


「いえ、特には……」


 ティナの言動に怪訝な顔をするリオナ。畳み掛けるように、カンテラから飛び出したドレイクがティナの頭に陣取って、リオナ以上のとびきり怪訝な表情を見せた。


「いやいや、今喋ったのはティナだろ? さすがに助けてもらっといて、その物言いはどーなんだと思うけどよ」


「え? ち、違う! さっき怒鳴ったのは私じゃない! 声だって、私よりもちょっと高くて……」


「俺には全く同じに聞こえたけど……待て、待てよ? ティナお前、そのチャクラ…………なんだ?」


「チャ、チャクラ?」


「だってホラ、なんかお前のチャクラにまた違うチャクラが混じってる感じするぞ」


「ん……」


 そう言われて、自分の中に意識を集中した。この世界の人間は、自分のチャクラ、そしてエーテル体を感知できる能力が備わっている。そしてティナは、確かに自分のエーテル体に別の、しかしとてもよく似た何かがくっついているような感覚をキャッチできた。


 一方、ティナとドレイクの問答に、リオナは付いてこられていないようだった。ティナの言う"怒鳴り声"など、リオナには全く聞こえていなかった。だが、ティナとドレイクには確かに聞こえている。


 否。ティナはほぼ確信していた。『リオナには聞こえない』ではなく、『自分と繋がっている者にしか聞こえない』のだと。


【……もしかして! ティナちゃん、私の声が聞こえてんの!?】


「この声、誰の……ううん。聞いたことがある……」


【私はティナちゃんの声をいつも聞いてたし、いつもティナちゃんを見てたんだけど……話しかけるのは、最初の一回以外できなくって。ちょっと歯痒かったり……なんてね】


「やっぱり……そうなんだ。あなたは──」


 それは、あの暴竜の意思に呑まれていた時のこと。キヨシの介入によって正気を取り戻したその時、共に暴竜を抑え込んだ、自分と瓜二つの容姿をした少女の声。自分の耳で聞く自分の声よりも少しだけ高い、歓喜の中にほんの少しだけ緊張が混じったその声で、ティナに優しく語りかけた。


【初めまして、ティナちゃん!】


「……はい! 初めまして、セカイさん! やっとお話できた……!」


【トカゲさん……じゃないや。ドレイク君にも聞こえてるんだよね? こーいうやり方は初めてなんだけど、どう? うるさくない?】


「別に外にいてもうっせーだろテメエ」


【くふっ、そだね】


 なんと、ティナには内に潜むもう一つの人格──セカイの声が、聞こえるようになっていたのだ。恐らく、暴竜の意思との戦いの中で可能になったのだろう。先程確かめた、自分のエーテル体に別の存在が繋がっているような、これまでにない不思議で温かい感覚が、それを確信させた。


 そして、繋がっているのはセカイだけではない。今は遠く離れてしまったからか弱々しい、か細い繋がりではあるが──


【嬉しいのもそこそこに。本当はもっと色々お話したいけど……今はそんな場合じゃないし】


「セカイさんも、キヨシさんが何をしようとしてるか──」


【うん、分かってる。ちゃんと聞こえたよ。そんなこと、絶対にさせたくなかったけど……】


「……はい」


 セカイもまたティナと同じく、繋がっているもう一人──キヨシの恐るべき計画を知っていた。


【でも大丈夫。きー君が考えている通りにちゃんと進むんだったら、何か手はあるかも】


 ティナとセカイは、この惨状がここに至るまでの引き金を引いてしまった張本人。無論、暴竜の意思に取り込まれ、従ったに過ぎないというのも間違いないが、客観的に見るとどうしてもティナたちの責任になる。ティナは、余りに重すぎるその事実に耐えかねていた。心が折れる寸前だったのだ。


 だが、セカイはどうだ。恐らく、助かる確証など一切ないし、具体的な方法など一切見えてもいないだろう。それでも尚キヨシの生存も、オリヴィーの安全も、何も諦めてはいない。やれる限りを尽くせば、もしもそれが全て無駄に終わったとしても、悔いは残らない──決して捨て鉢ではない覚悟を持っていた。


「……セカイさんは、スゴいです」


【ん?】


「私なんか、もうダメだって……皆死んじゃうんだ、私が殺したんだって思ってたのに。キヨシさんもセカイさんも、私を人殺しにしないようにって、頑張っていたのに──」


【あ。そろそろリオナさんに変な目で見られちゃう頃、かな?】


「へ?」


 なお罪悪感に苛まれ続けるティナの口から漏れる言葉を、セカイはあっけらかんとした態度で遮るが、その内容はティナにとってある意味背筋の凍りつくような内容だ。よもやと背後を恐る恐る見やると、リオナが心の底から哀れみの目を向けて、


「あ、あの。ティナさん、本当に……本当に大丈夫ですか? 一人で虚空に向かって……いえッ、衝撃を受けるのは当然とは思いますが……」


 ──完全に可哀想な人になってるぅ!


【フフ。これからは心の中で、私を呼んでね。ちゃんと聞こえるから】


 ──~~~ッ! 早く言ってくださいよぉ!


【だから言うんじゃなくって、心で思うんだってェ~】


 ──もう! そんな場合じゃなかったんじゃないんですか!?


【ティナちゃん、緊張し過ぎっ】


 ──へ?


 この一刻を争う状況で、セカイはまだ余裕綽々の態度を崩さない。


【うじうじしてたって、イイことなんかなんにもないしね。楽にやればいいんだよ】


 ──楽にって、セカイさん……。


【あ、でも"楽に"っていうのと"手を抜く"ってのは同じじゃないよ? 鼻歌歌っちゃいそうな楽な気持ちで、それでも全力。ティナちゃんには、きっとできるよ】


 ──そんな……私なんて。


【ティナちゃんは私を"スゴい"って言ったけど、私も、ティナちゃんはスゴいと思う。私はただ、助かる根拠もなく、今起きていることに対して足掻いてるだけ。でもティナちゃんは賢いから、一旦落ち着いて、少し緊張がほぐれるだけで──もう見えてるんでしょ? 『どうするのが最善か』】


 セカイの言う通り。聡明なるティナの思考は、今現在手にしている札を、どのタイミングでどれだけ切れば、キヨシを救う手立てになり得るか、朧気ながらすでに導き出していた。ほぼこれ以外の手立てはないと、キヨシがどんな気持ちで地下に残る決断を下したのか、なんとなく分かったような気さえしていた。


 その答えを手にしていながら、ティナは決断を下せずにいる。


 ──……分かりません。今、私が考えている可能性が、正解かどうかが分からないんです。もしキヨシさんが成功したとしても、私が失敗したら、キヨシさんは、私たちだって、と……そう思うと怖いんです。どうしても、足が竦んでしまうんです。私は……キヨシさんやセカイさんが思っているほど、立派な人間なんかじゃないんです!


 ティナは賢い。賢いが故に、あらゆる可能性をごく短時間の内に導き出す──いや、『導き出せてしまう』と言ったほうが正しいかもしれない。それら一つ一つを手繰り寄せた先に、少しでも失敗する可能性が見えてしまうと、事を成す前から気持ちが萎えてしまう。こんな状況ともなれば尚の事。


 必要なのは、一歩踏み出す勇気だ。それをくれたのはキヨシだった。だが今、彼はここにいない。ティナが自分の手で、最も危険な場所へと残ることを強いてしまったのだ。それがどうしても、ティナには許し難かった。


 それでも、セカイはティナを責めたりはしない。それどころか、逆に背中を押そうとさえしていた。


【……そっかなぁ。ティナちゃんは立派な人だと思うけどな。誰よりも近くでティナちゃんを見てたから、私には分かる。自分が小さく見えて、自分が許せなくて、自分が誰かの目に映っているほど、立派な人間だなんて思えないんだよね? これ、ティナちゃんがきー君に言ってくれた言葉なんだよ? 分かる? ティナちゃんは、きー君と同じ。だから、私はティナちゃんの判断を信じるよ。それでもしも本当にダメだったら、私も一緒に死んだげる】


 ──死ッ……!? どうしてそこまでッ……!


【……私は、何もできないから。きー君が言ってたの。あの指の能力と私が出ていられる時間は、連動してるんだって。できるとしたら、こうやって『頑張れ』って言ってあげることぐらい。私だって──こうしてるの、結構辛いんだから。一緒に死ぬぐらいさせてよ】


 ──セカイ、さん……!


 そう。今この状況の中、誰よりも己の無力を痛感しているのはティナではなく、セカイだったのだ。今セカイはティナの精神の奥底で文字通り手も足も出ない、という状態に置かれている。それでもまだ諦めず、今最も信頼できる者に可能性を託した。


 ティナは思った──諦めるワケにはいかない、と。


【だからお願い、きー君を助けて! あの始まりの日に、見ず知らずの人だったきー君を助けてくれた勇気で、カルロッタさんの悪口を言った騎士に向かって、啖呵を切った勇気で!】


 ──…………!


 覚悟はもう、決まっていた。


「リオナさんッ!!」


「はいッ!!?」


 突然叫ぶように呼びかけられて、裏返った声で応じたリオナだったが、その態度はすぐに改められた。ティナの真剣な眼差しを見て、ただ事ではないと感じたからだ。


「私、キヨシさんを助けたいんです! そのためにリオナさんの力が、どうしても必要で……お願いします、どうかお話を聞いていただけませんか!? キヨシさんは──『ここに戻ってくる気がありません』!」


「何ッ……!?」


 ティナはリオナに対し、話すべきことを全て話すことに決めた。現在の状況、そしてキヨシが何をしようとしているのか、その詳細を。


「状況としては……概ね、キヨシさんの言った通り。オリヴィーの地下にはマグマだまりが眠っていて、それが目覚めてしまった。爆発まで、約十分──止めることはできません」


「……未だに実感が湧きませんが、この地下から迫る強大なチャクラ。事実なのでしょうね。しかし、となれば『オリヴィーを救う』など、夢想でしかない。使徒様は何故、地下でロンペレと戦う選択を?」


「それは……」


──────


「『俺を噴火に巻き込んで殺す』つもりなんだろう? ええ?」


「ハァーッ……ハァーッ……!!」


 キヨシの意図はすでにロンペレの知るところとなっていた。キヨシは皆が脱出して以降十五分間、ロンペレを相手に大立ち回りを演じ、持ち堪えていた──いや、ただ持ち堪えているだけ、という方が正しいかもしれない。


 水のビットとビームによる激しい攻撃に、キヨシは防戦一方。ロンペレはこれまでとは違い、接近戦(インファイト)を挑もうとはしてこないため、キヨシが取れる行動が制限されているのだ。


「なるほど、確かに大自然のエネルギーが相手ともなれば、俺もひとたまりもねえ。テメエのことだ、それに至るまでの算段もついてるだろうな」


 ロンペレはキヨシを見下すように鼻を鳴らし、ポケットに突っ込まれて隠れた右手を指差す。


「まだ持ってるんだろ? 『手管』の力を持ったソルベリウムをよォ」


 ──お見通しか。


 苦虫を噛み潰したような顔をしているキヨシのズボンのポケットの中で、小粒のソルベリウムが微かに光を放っていた。だから、ロンペレは決して近付いては来ないのだ。


「俺とて、『手管』を受ければ動けねえ。その間に噴火が起きれば、命の保証はないだろう。だが分かっているのか? 『手管』の効果はどこまで続くか分からない。つまり、俺に打ち込むなら噴火のギリギリでなくちゃいけねェ……テメエ、俺の道連れになる可能性の方がずっと高いんだぜ?」


「……それがどうしたよ『人でなし』。俺の生き死になんてのは些細な問題だろうが。肝心なのは、この世の害悪であるテメエの生死、そして──」


 キヨシはすでに脱出した皆を思う。走馬燈のように脳内を巡る、彼女らと共に過ごした日々──そのどれもが、輝かしい尊い思い出だ。だからこそ、キヨシは彼女らを巻き込まなかったのだ。作戦の()()()()が成功すれば、皆助かるだろう。


 ──悪いな……俺にとって、皆は何より尊敬すべき……守るべき、同率一等賞なんだよ。俺は……ついででいい。


──────


「フザけるなァッ!! 私たちが『守られる』などッ!!」


 激昂したリオナから漏れ出でる風のチャクラが、辺りの石ころを弾き飛ばす。リオナの怒りも当然だ。ここまで共に必死になって戦ってきた者に、『邪魔だ』と言われたようなものなのだから。


「大体、結局噴火は止められないという元々の話には変わりないだろう! 何が『オリヴィーを救う』だ、格好だけつけたところで──」


【ぬンだとォこのロリおっぱいが! 頭地面に擦ってきー君に詫びろォ!!】


「るッせェェェーーーッ!! このニセティナ、黙ってろ!」


「ドレイクもうるさい! あーもう、ですからッ! もう半分が、キヨシさんの真意なんです!」


「も、もう半分……とは?」


 リオナからすれば、ティナとドレイクが唐突に癇癪を起こしだしたようにしか見えないため、またしても困惑されてしまう。しかし困惑しながらも、キヨシの作戦について、説明を要求してきた。ティナは気を取り直し、脳内で内容を矛盾なく組み立てて、順を追って話し始めた。


「以前、本人が実演して見せましたけど、ソルベリウムを生成する空間に物があると、それを消滅させて割り込むように生成されますよね? 生成されるソルベリウムの形や大きさは、キヨシさんのイメージ通りになります。やろうと思えば、街でロンペレの大きな水弾を防いだときのような──いえ、さらに巨大なソルベリウムを作ることもできます。それを地上に向けて生成すると、地上まで大きな穴が開くと思うんです。その出口を、ここから少し西の、ヴィンツ中央都側の砂漠地帯にすれば……」


「……ッ! 『マグマが砂漠に誘導され、オリヴィーは守られる』。そういうことですか?」


「恐らく、そうです」


「なるほど……確かに、使徒様にしかできないやり方。我々は邪魔ですね」


「そ、そこまで思ってないと思いますけれど……」


「しかし、その方法にもいくつか穴がある気もしますが」


「へ?」


 リオナはキヨシの作戦に感心しつつも、聞いただけですぐに見つかるミス──と思われる部分を指摘する。


「まず、巨大ソルベリウムを生成し、地面を地盤ごと消滅させるにしても、そこには生成したソルベリウムが残り、塞がれてしまうのでは?」


「それは心配ありません。今昇ってきているマグマは、ここでも感じられる程に莫大なチャクラを帯びています。恐らく、作ったソルベリウムもチャクラを貯め込み切れず、接近するだけで破壊されてマグマに飲み込まれるので、阻害されることはないと思います」


「もう一つ。それで成功したとして、使徒様の命は?」


「……キヨシさんは、その噴火に合わせて、何かしらの方法でマグマに乗り、脱出するつもりです。けれど、地面から感じられる力を考慮すると……それが上手くいったとしても、キヨシさんは上空に放り出されると考えています」


「ハァ……それで、助かる保証は?」


 およそ返ってくる答えは分かりつつも、呆れ半分といった調子で溜息を吐き、リオナは作戦最大の穴について聞いた。ティナもまた小さな溜息を吐き、


「……ありません。別の道もありません。これ以外の道だと恐らく、噴火と共に採掘基地そのものが崩壊して、キヨシさんは助からない」


「限りなく低い確率でも、それに賭けるしかない……いや、それで『助かればいいな』程度にしか考えていない。諦めていないというのは嘘ではないが、諦めていない『だけ』。助かりたいともさらさら思ってはいない。なんたる!」


「……はい。そこで、私たちの出番なんです」


「というと?」


「地下で色々あって……キヨシさんの存在を、感知できるようになったんです。おおよその位置も、それで分かります。ですから噴火の瞬間、私たちも飛行機で空を飛んでキヨシさんに接近し──」


「然る後。視認した使徒様を、小回りの利く飛行が可能な私が回収する、と──よろしい。謹んでお受けします」


 リオナはティナの頼みを快諾し、カルロッタを最後部座席に放り込み座席に固定し始める。ぞんざいなようだが、間もなく噴火による被害を被るだろう大地に放っておくわけにはいかない。ここにだって、地下と繋がっている穴があるのだ。


 その最中、リオナは誰に言うでもなく吐き捨てるように、


「奴には一言、言ってやらねば気が済まん。死なせてたまるか」


「……全くです」


 バッチリ聞こえていた独り言に反応され、リオナは少し頬を赤らめて俯く。ティナはまだ知る由もないが、今の独り言は"レオ"としての素が出たもの──リオナの姿で、レオが喋るという状態そのものを客観視し、その滑稽さに気恥ずかしさを覚えたのだった。


 ともあれ。キヨシの伺い知らぬところで、もう一つの最後の作戦──オリヴィー抗争最終局面が始まった。

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