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第二章-30『リオナ』

「リオナ・キャスティロッティです。以後、どうぞよろしくお願いいたします」


「あ、ああ。どうぞよろしく。アレ、そんでレオさんは?」


「まあ、入れ替わりということで了解ください」


 最早お決まりとなっているムズ痒さに耐え兼ね、レオに呼ばれてここへやってきたというその少女──リオナにやめるように促すと、素直に姿勢を解いて立ち上がりつつも、ペコリと一礼した。


 顔は立った襟で半分以上隠れていたが、目元だけ切り取ってみても確かにレオにそっくりで、背の高さ、声、どこを取ってもよく似ていた。恐らく得物の槍はそのままだろうが。


 が、明らかに違う部分が二つある。


 まず、ぶかぶかの鎧を着込んでいたレオとは違い、全身黒ずくめの装束を身にまとっている事。そしてもう一つ。


 ──デケェ……。

 ──デッカ……。

 ──おっきい……。


「あの…………もし? 何か?」


 その体に密着した装束で描き出されるボディラインはとても美しい曲線で、特にティナと同等かそれ以下の低身長にはあまりにも不釣り合いな胸部の豊かな双丘は、同性である二人の視線を釘付けにする。キヨシは視線を逸らしたが、それが逆にどこか情けないというか、恥ずかしいことになっていた。


 とはいえ、向けている視線とその種類というのは、向けられている側には案外すぐにバレるものだ。自分の胸にいっているそれを鬱陶しいと感じたのはおよそ察せられる。


「……なんでしょう?」


「す、すみません! 何でもないんです、本当に何でも──カルロ?」


 むにゅん。擬音にするならそんな感じ。


「へ?」


「は?」


「……あ…………」


 カルロッタがおもむろにリオナに近付いたかと思えば、なんとその胸に指を深く沈みこませてかなりじっくりと揉み始めた。


 むにむにたぷたぷと、その魅惑の感触を生み出す柔肉を好き放題に弄ぶカルロッタを、その場にいる誰もが、当のリオナ本人でさえも止めることすらできないまま、カルロッタは勝手に納得したような表情で一つの結論を導き出す。


「……本物よッ!──ひゃんっ!?」


「当たり前でしょ、バカっ!! すみませんすみません! うちの姉が本当に!!」


 キヨシは全力で目を逸らしていたので何が起こったのかは理解できなかったが、後に聞こえたカルロッタの悲鳴からして、ティナがカルロッタに何かをしたようだ。恐らく弱点とやらを突いたのだろう。


「い、いや、そのゴメン。あんまりにも大きいもんだから、何か詰めてんのかと思って」


「触って確かめる奴があるか──う!」


 背筋が凍るような感覚に、恐る恐るリオナの方を窺うと、鉄仮面が如き無表情でこちらを、特にカルロッタを睨んでいた。こんなときなんと声をかけていいのかと頭を抱えるキヨシを待たず、リオナは制裁を受けて尻餅を突いていたセクハラの主犯の方へと歩を進め、


「……ゴ、ゴメンて。好奇心を抑えらんなくってさ」


「そんなにも気になりますか」


「へ? え、ええ。まあ──ちょっ、ちょっと!!?」


 突如として、リオナはカルロッタの腰に馬乗りになり、狼狽する彼女の首に腕を回し──















































──────


「満足ですか」


「はい」


「これに懲りましたら、二度と私を性的にからかうことのないように」


「……はぃい…………」


 何をされたのかは敢えて示すまい。少なくとも、ティナが前髪の上から両手で顔を覆い、指の隙間からガン見する程の事柄だ、とだけ。


「あ、あー……スミマセン。少しやり過ぎたかな」


「されたことを考えりゃ、何をしたってやり過ぎなんてこたあないでしょ。こっちこそスミマセン、よく言って聞かせますんで」


「大丈夫ですよ。ちょっと驚いただけで、もう何とも思ってませんから」


「いや本当にスマン。つーかやっぱ後でティナちゃんから弱点聞き出してお仕置きだわコレ」


「ハハ、程々にどうぞ」


 もみくちゃにされた胸を乱れた服の上からさらに腕で隠すリオナの声は、上ずってはいたものの先程聞いたレオのそれとよく似ていた。流石は双子といったところだ。


 しかしながら、それはそれとして不可解な点にキヨシは気付く。


 ──なんだ、別に良い奴じゃんか。レオさんが言ってたのは何だったんだ?


 リオナを呼びつけるとジェラルドが言い出した瞬間レオが激しく狼狽えたのは、曰く『協調性も無く、態度も劣悪な最低の愚か者』とのことらしいが、胸を凝視された後、好き放題に弄ばれたにも関わらずそれを『気にしていない』と水に流すというリオナに、そういった印象は受けなかった。協調性が無いなどとんでもない、むしろコミュ力の塊では? とすら思った。というか非常に申し訳ない。


 まあとはいえ、今から考えてもあのレオの狼狽ぶりは尋常ではなかった。一応警戒はしておくに越したことはないか。


 そんな取り留めないやり取りをしていると、その姉弟の父親たるジェラルドが遅れてやってきて、


「よう、来たかリオナ……なんだ? 顔真っ赤だぞ」


「なんでもありません、父上。よくも私を呼びつけてくださりました。逐次私に頼らねば事態に介入することすらままならぬとは、情けない限りで」


「いつにも増して辛辣だなオイ。グレちゃうぞ、あるいは拗ねちゃうゾ☆」


「勝手にどうぞ? 端女のようにさめざめと泣く騎士団長というのも、それはそれで」


「ハッハッハ、本当に涙出てきた」


 ──だ、大の大人がマジで泣いとる!


 なお父親への態度は確かに劣悪だが、それはレオも同じなのでノーカウントとする。


「まあこのように人の心を抉ることにかけては超一流、他の追随を許しません。仲良くしてやってください」


「いやそんなもんの実力求めてないんだけど……ていうか、おたくはそれでいいのか?」


「ううん、よくない」


 父親の威厳、絶無。


──────


「さて、これで人員の確保は完了です。そちらの目的である小型飛行機……でしたか? ともかくその設計図の確保も完了と。しかしこの巨大な機械が空を飛ぶなど、にわかには信じがたいですが……それもまた主の御業、といったところでしょうか? もしよろしければ私も一度──」


「父上、遊びではないのですよ。浮ついたことを言わぬよう」


「はい」


 不満気に口を尖らせながらも、口数も少なめにリオナに従うジェラルドを見て、キヨシたちは苦笑いを隠せなかった。


「いやあ、まあ。先達の知恵ですかね。この国の人々も、夢見ればいずれ到達すると思いますよ」


「ハハハ、それは楽しみですな」


 キヨシがカルロッタたちに伝えた、飛行機が飛ぶ仕組み自体は、キヨシが今自称している『創造の使徒』としての力とは何ら関係がない、いわば人類の叡智。


 ある一定のレベルを超えた技術というものは、魔法と見分けがつかないものなのだと誰かが言った。この飛行機とそれを取り巻く要素は、異世界の魔法が当たり前な風土で生きてきた人々のお墨付きをもらったと言えるだろう。


「で、今後の方針について。話すまでもないかもしれないけど、とりあえず俺たちは元々の計画通り、飛行機を作ろう。まだ設計段階だから、カルロッタさんはそっちに注力しててくれ」


「それはいいけど、アンタは?」


「飛行機周りでの俺の出番は、もう少し先。後で詳しく話すけど、その間にちょっと野暮用を済ませてくる。ジェラルドさんとレオさんにはその間、また連中が攻め入ってきた場合に備えてもらいたい。あっちから仕掛けてくるとなれば、流石に話は変わってくるでしょ?」


「了解しました。有事の際は我々も動きましょう」


「よろしくお願いします。それとは別に、リオナさんとそれから……ティナちゃんにも、付き合ってもらいたいことがある。一緒に来てくれ」


 恐らく自身に白羽の矢が立つとは思っていなかったのだろうか、ティナは少しびっくりした様子でこちらを窺う。段取りを脳内で整理しつつキヨシは立ち上がり、


「ちょっと行ったり来たりになるようで申し訳ないんだけど……もう一度街に行く。そして情報を手に入れよう」


「情報、といいますと?」


「ああ、『ドッチオーネ空賊団の主要拠点(アジト)』に関する情報を、だ」


 再び、三度(みたび)の街。行動開始だ。

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