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第二章-17『ドッチオーネ空賊団』

 状況はまさに、混迷の極みといった様相を呈していた。


 それら全てがキヨシたちの目に映る。逃げ惑う人々、ガーゴイルたち、戦う騎士。


 そして──知己(ちき)たるハルピュイヤ。


「オイ、大丈夫か!? こんなとこで何やってんだ、おたくは!」


 キヨシの呼びかけにハルピュイヤのアレッタは応じなかった。というより意識そのものがまるで感じられず、ピクリとも動かない。重症の色が濃く、深刻な事態なのが見て取れた。


 アレッタに駆け寄ろうとすると、上空から白銀の騎士が勢いよく降り立ち砂埃を立ち昇らせる。


「クソッ! 『四対一』というのは流石に……」


 ふと聞こえてきた『空飛ぶ騎士』、レオ・キャスティロッティの弱音から、この騎士の猛威が窺える。普通の人間は魔法を使う亜人種四人を相手に、持ち堪えたりしないのではなかろうか。


 いや、そんなことはどうでもいい。アレッタやレオが襲われている理由については何となく想像がつくものの、それでも状況がつかめないのだ。


「やい騎士さん! こいつは一体どういう状況なんだ!?」


「ン……ああ、君か。わざわざ御足労頂いてすまないが、今は説明している暇がない。あちらで倒れているお嬢さんを連れて、ここを離れてもらえないか? 今度はこちらからトラヴ運輸に出向く」


「なっ、おたくなあ!」


 キヨシの反論をガーゴイルは待ってはくれず、超高圧の水鉄砲が騎士を穿たんと放たれ、余波をもろに受けたキヨシはその場に尻もちをつく。舞い上がった鬱陶しい塵芥を払うと、キヨシの爪先から数センチの地点に小さな弾痕がいくつも刻まれていた。連中は明らかに殺しに来ている。


 ──丁度いい機会だ。


 しかしここでキヨシは、立ち上がりニヤリと笑った。


「……まさか、加勢しようというのではないだろうな」


「よく分かったな……あ、そういう魔法?」


「いや、魔法はそういった超能力染みたことは……ではなく! 邪魔だからさっさと消えろと言っているんだ!」


 確かに、キヨシとティナ─実のところ、キヨシとセカイだったが─の戦いぶりを昨日レオは見ていただろうが、酔っ払いのガーゴイルを数瞬の内に叩き伏せたレオからすれば、大した戦力にもならない足手まといと判断されて当たり前だ。


 ただし、それは昨日程度の力しか発揮できないならの話。


「オイオイオイオイ、お言葉だな。おたくは俺たちの身分も、強さも、何も知らんのでしょう? だからこそここに呼んだんでしょうが」


「それはそうだが……ちょっとした好奇心で首を突っ込みたがっているのならば、多少手荒な手段に出ざるを得ないぞ」


「突っ込むも何も、俺たちは昨日の件の当事者だ。ティナちゃん、アレッタさんを!」


「は、はい!」


 キヨシの号令でティナは倒れ伏すアレッタに向かって、一直線に走り出す。


 と、それを阻むように地上のガーゴイルが何匹となく立ち塞がるが、


「ドレイク、加減は任せるから!」


「邪魔すんなコンパチ面共ォォォーーーーーッ」


 ティナの身体が一瞬だけポッと光ると、ドレイクを中心に炎の壁が形成され、アレッタとガーゴイルたちをまとめて分断した。術者のティナは炎の壁をものともせずにすり抜けていき、アレッタに駆け寄ってキヨシに目配せをする。


 いやにあっさりし過ぎな気もするが、とりあえず確保完了だ。


「……口だけではないようだな。お嬢さんの方は」


「栄えある国教騎士団の重鎮からお褒めに与かり光栄の至りだろうよ、お嬢さんは。さてと……なるほど確かにどいつもこいつもコンパチ面だな。おまけに格好まで同じとあってとても個人を判別できたもんじゃないが、あの空にいる奴らの内、二人!……見覚えがある」


 遥か上空、水の塊の真下でこちらを見下ろすガーゴイル。さらに内二匹が口を開く。


「それはこちらとて同じこと。その白髪……中央都で逃した考古学者だったな」


「俺はそれだけじゃないぜ兄貴ィ~~~~~~ッ。本当に世話になったよなああああ~~~~~~~昨日はよおおおおお~~~~~~~~~ッ」


 そう、彼らはキヨシがこの世界にやってきた日に初めて遭遇し、考古学者という難癖をつけて暴行を加えてきたガーゴイル。そしてもう片方の間延びした喋り方のは、昨日も会っている。


「……ん? ちょっと待てオイ。昨日この騎士さんにボコられて、なんで娑婆にいるんだアイツ……公的機関に連行とかしなかったんスか?」


「無論、したとも。したが、連行して叩き込んだ留置所は『ドッチオーネ』の手にかかり、今や壊滅状態だ。混乱に乗じて逃げ出した囚人は既にあらかた拿捕しているが、今この街は非常に危険な状態だと認識すること。ハルピュイヤ族のお嬢さんもその被害者だ」


「……で、そのドッチオーネっていうのは? あの連中の内どいつのことだ?」


 レオの状況説明で、キヨシは心中にふつふつと何かがこみ上げてくるのを抑えながら、空の異形たちを睨む。しかしレオはそんなキヨシに対し、何か無知なる者を見るような視線を送っていた。


「知らないのか? ドッチオーネはあいつら全員だ。マフィアなんだからな」


「マジィ!? マフィアなんて存在するのかこの世界!」


「……君の中の世界には、マフィアは存在しないのか? きょうび珍しい、平和な世界だな」


「いやまあ、いるからこそオッたまげてるっていうか……いやいやそれはともかく。昨日も聞いたが、なんなんだよドッチオーネというのは」


 昨日もレオの口から聞いている、そのドッチオーネという固有名詞と思われるそれ。聞いている限りでは、少なくともロクな集団ではなさそうだが、レオの尖り耳に向かってヒソヒソとその実を問いただす。


 すると背後から中年の男が息を切らして近付いてきて、レオの代わりに話し始めた。


「『ドッチオーネ空賊団』。ここ近年、このオリヴィーに巣食って成長した、構成員が全てガーゴイルの無法者集団だ。こうして暴れるだけではなく、街の住民の生活や自治にも関わりがある、困った奴らさ」


 男の名はジェラルド・キャスティロッティ。ヴィンツ国教騎士団団長であり、レオの父親でもある男だ。


「ジェラルドか。そっちは片付いたのか?」


「いやぁ無理無理。こっちはただの棒っ切れで戦っているんだぜ? むしろ、我ながらよく生きて戻ってこられたと思うよ、ホント」


「フン。僕のように、常に武器を携帯していないからそうなるんだ」


「だーかーらーッ!! 休暇中だっつってんだろォ!?」


 ──こいつら緊張感ってもんがねえのか!?


 友人が酷い目に遭って心中穏やかでないキヨシの眼前で、頭の悪い口喧嘩を展開する親子に、苛立ちを隠せず歯噛みした。が、それも一瞬。というのも、ジェラルドがここにやってきたことで、ティナに話しそびれたキヨシの目的が果たせそうだと感じたからだ。


 まだキヨシの素性を知らない国教騎士団員と、この世の鼻つまみ者のガーゴイルたち。そして、街の住民たちはこの暴動でこの場からは掃けている。


 この状況で成立し得る、絶好の条件と言っていい。キヨシはそう感じたのだ。


 ──問題は、果たしてこの()()()()が上手くいくかどうかだが……。


「いや全く驚きだぜ。ただの棒っ切れでこの俺とまあまあいい勝負するなんてなァ。流石はヴィンツ国教騎士団団長サマ、ウチの下僕共にも見習わせてェとこだ」


 そんなキヨシの逡巡を遮るが如く、いずれかから別のガーゴイルが飛んできて、


「もっとも……まだ全ッ然、足りねェがな」


 上空の水の塊のそのまた上で、その場にいる全てを見下してふんぞり返った。

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