第二章-5『提案』
「む、無理ってどういうことよ!」
「どうもこうも、そのまんまの意味だ。俺の故郷じゃ、こういうの『天地が引っ繰り返っても』って言うんだぜ」
困惑、怒り、呆然。ずけずけと物を言うキヨシに対し、カルロッタたちは文字通りの三者三様の反応を示した。その中でも特に怒りをを露わにし、キヨシに掴みかかろうとするカルロッタを、ティナが慌てて後ろから捕まえて制止した。キヨシは感謝を込めてティナを一瞥し、
「色々話す前に聞いておきたいんだけど、カルロッタさん。まずこの飛行機、どの程度の距離飛べたんだ?」
「……詳しく測ってないけど、ここから飛んでオリヴィーの中央街手前くらいで不時着したのが最長よ」
「旋回はできる?」
「……風のチャクラで無理矢理、だけど」
「よし……まず、あとで話がこじれないように先に言っておくけど。色々と説明するにあたって、俺はこのアレッタさんに、俺の出自と俺たちがここまで来た経緯を話すつもりでいる」
「んなッ!? キヨシ、アンタってヤツはどこまで!」
「落ち着いてカルロ!」
勝手に話を進めるキヨシに怒り心頭のカルロッタは、今にもティナの腕を振り解いてキヨシに猛進せんという勢いだ。しかしキヨシは一歩も退かず、
「むしろ何も話さないつもりでいたのか? そんなんで、どうやって協力を取り付けるつもりだったんだ?」
「そ、それは、アレッタなら何も聞かずに協力してくれると──」
「……それはちょっとズルいんじゃねえのか」
「ズ、ズルい!?」
逆にキヨシの方から非難されて一瞬呆けるカルロッタに、さらに矢継ぎ早と言葉を投げかける。
「例えば、『俺が異世界から来た』とか、『ティナちゃんには別の人格が芽生えた』とか、話したところで証明が難しい信じてもらえそうにない話ならいい。カルロッタさんがそうしたいんならその意思は尊重するつもりだ」
「だ、だったら──」
「けどな。今回俺たちと深く関わり合いになると、後々どういう目に遭うのかとか想像つかないのか? この一週間は運が良かっただけだ。俺たちは疚しいことがあって、今追われている立場だってのを忘れたのか? そういう危険性があるのを先に話さないってのはダメだ。国教騎士団の連中は『コイツ』の流出を防ぐために、俺たちを殺そうとしたってのを忘れちゃいないだろ。それでもなお、アレッタさんに寄っかかるのか?」
「う……」
騎士たちが追う右人差し指をピッと立てて諭すキヨシに反論すること叶わず、カルロッタはうなだれて黙ってしまった。
そう、一度通り過ぎた危機ではあるが、キヨシたちは死んでいてもまるでおかしくない状況を潜ってきているのだ。あの騎士──フェルディナンドの意向が国教騎士団の総意なのかどうかは判断しかねるが、追われている以上は今後もそういう危険が無いとは言い切れない。アレッタからすれば、知らないうちに国賊逃亡の片棒を担いでいると思われて、そんな災厄をおっ被るなんて堪ったものではないと、キヨシはそう考えた。
『信を置く誰かに寄りかかり過ぎている』。とどのつまり、キヨシはそう言いたいのだ。
「いいか、カルロッタさん。俺はそこんところの認識が欠けているんじゃないのかと言ってるんだぜ。『友人を頼るのはいいが、それなら全部伝えるべき』……これは提案だ。ここまでただついてくるだけだった俺は、強制できる立場にいないし、その必要もない。今アレッタさんを頼るのをやめると言うなら、話さずに済むんだからな」
「……キヨシさん?」
控えめな性格ながら鋭敏な感受性を持つティナは、キヨシ本人も気付いていない様子のおかしさに気付いていた。
この時、キヨシは自分の語気が強まり、声も少し荒げてしまっていることに気付いていなかった。口では『提案』と言いつつも、この場を見た百人が百人、『選択を迫っている』と見るのは間違いない。
「いいさ! 話せばッ!!」
アレッタがキヨシを遮るように叫んだのも、そういう理由からだろう。
「やい白黒、さっきから聞いてりゃ勝手なことばっか言いやがって! 言っとくけどな、私はカルロッタさんに寄っかかられているなんて全ッ然思ってないし、仮に寄っかかっているんだとしても嫌じゃない! 私じゃないくせに、私の気持ちを分かった気になって喋るなよ!」
「アレッタ、やめて」
「でも!」
「悔しいけど……確かにコイツの言うことももっともだ」
アレッタの気持ちを無視している以上、的を射ているとは言えない。だが、キヨシの言うことは揺ぎ無い事実でもある。カルロッタはそのことを受け止め、充分理解していた。
キヨシの意思は、確かに伝わったのだ。
「……まあなんだ、悪い。ちょっと言い過ぎた。分かった、アレッタさん本人がそう言ってることだし話しちまえよ。別に話を聞いただけなら引き返すこともできるワケだし。それに俺が言ったことをおたくは既に半分成し遂げてる。ティナちゃんや家族に迷惑をかけまいとした気遣いを、アレッタさんにも分けてやれってだけだ」
「……うん、こっちこそゴメン」
「謝る相手がちげーよ。あっちだ、あっち」
親指を立ててアレッタの方を指すキヨシを見て、カルロッタはアレッタに深々と頭を下げる。
「ゴメンね、アレッタ。私、キヨシの言う通り自覚が足りなかった」
「やめろよカルロッタさん。私は迷惑だなんて思わないよ。それに言ったじゃん、『いっぱい話を聞かせてくれ』って。私、カルロッタさんの話が楽しみなんだぞ!」
アレッタはカルロッタにひしと抱き着き、カルロッタもまたアレッタに身を任せた。しばらくしたら、キヨシが話さずともカルロッタがアレッタに事情を話し始めるだろう。
キヨシはまだ前提しか話していないのだが、急かすのも野暮だろうと静観の構えを取ろうとしたその時、そのキヨシの方へと少し不安げな顔のティナがそっと近づいて、
「キヨシさん、あの……」
「……ゴメンな。身内が色々言われてるのを見るなんて、気分悪かっただろ」
「いえ、それはいいんです。そうじゃなくて……上手く言えないんですけど、大丈夫かなって」
「俺も先行きは不安だ。けどまあ、姉さんが今の心持を忘れない限りは、悪くはなるまい」
「あ……そ、そうですよねっ」
ティナの返しが妙に歯切れの悪い、本心が別の所にあってそれを抑え込んだ感じがするのが若干気になったが、それをキヨシもまた抑え込み、事が動くのを待つのだった。
──────
「スッ──────ゲェーーーーーーーー!! やったなカルロッタさん、ついに『五百年以前の歴史』にズバッと切り込む素敵なチャンスが巡ってきたんだな!!」
「う、うん。まあそんなとこかな」
このアレッタという少女は、様々な意味で常にキヨシの想像の遥か斜め上を行く反応を見せる。
カルロッタは話の中で一行がヴィンツ国教騎士団に追われる身分であることや、一行に協力するということは国教騎士団に追われるということになりかねないこと、最悪の場合命すらも落としかねないことを、再三強調して伝えたつもりだった。
しかし、その上でこの反応。天真爛漫などというレベルではない。
「……マジに分かってんのか? なんなら死ぬしトラヴ運輸って会社も──」
「うっせーな白黒ォ! どうとでも匿ってみせるし、バレそうになったら知らんぷりしてればいいんだって! あ、でもいつもの業務もあるから、ずっと一緒ってワケにはいかないけど──」
「前言撤回、長生きするよおたくは。ポジティブシンキングにも限度があるだろ」
キヨシの呆れも一周回って感心へと変わり、ティナも若干の苦笑を禁じ得ない様子だ。
ともあれ、アレッタは全面的に協力してくれる。しばらくここに留まるのが一番安全だろう。
「それよりか、色々情報の共有をしたところで……本題に戻っていいか」
「あ、そうだ。そうよ! これでアティーズには行けないってのはどーいうことよ」
「それを語るにはまず、俺がいた世界の話をせにゃならんが──」
思い返してみれば、自分が別の世界から来たことは伝えたが、元いた世界のことを話すのは初めてだ。
久しく自分が元いた世界を心の中で振り返り、若干の郷愁を感じる。
別に帰りたいとも思わないが、生まれ故郷ではあるからだろうか。そうして、理由は分からないまま。皆に対し述懐する。
「まず、俺がいた世界ではこの失敗作の飛行機の何倍って大きさの飛行機が、毎日そこら中の空を飛び回ってる……ってとこからな」
「そんなことできるんですか!?」
「できるッ。まあこういう形状で空飛べるようになったのはここ百年とか、そんな程度の歴史なんだと。まあそれはともかく、一つの飛行機に云十人、云百人って人を乗せて世界中を飛んでるってワケ」
ティナは興奮気味に聞いているが、カルロッタやアレッタは若干不信感を漂わせている。まあそちらの主観では、努力の結晶よりもずっと高性能なものが量産されて飛んでいると言われているのだから、当たり前と言えば当たり前だが。
しかし、キヨシはかなりこの空気に快感を覚えていた。『やっぱ異世界モノって、こういうもんよねェー』と、ウキウキせざるを得ない。
「ハイ、キヨシさん。それはどんな魔法を使っているんですか? やっぱり風の魔法ですか?」
「違いますティナちゃん。その辺の空気と推進力さえあれば、魔法なんざ必要ありません。いやむしろ異世界には魔法はありませェーん。あるのは魔法みてえな『航空力学』だけでェーす」
「も、もう一つ良いですか!?」
「なんですかティナちゃん」
不思議な世界に住みながら、外の不思議に触れて気分を高揚させるティナは、期待でキラキラと輝く大きな瞳でキヨシを見て、
「キヨシさんはその、そういった分野の専門家さんなんですか!?」
「えっ」
これまでに見たことがないほどに興奮するティナを受けて、少し考えてからキヨシは神妙な面持ちでこう答えた。
「えーっと……違います。俺はただの絵描き志望でェす。というか、俺が人より詳しいのは『航空力学』じゃなくて『航空事故調査』でェー……す」
「な、なんでちょっとずつ自信なくなっていくんですかね……」
竜頭蛇尾の理由は二つ。一つは、本当に詳しいのは航空事故調査ではなく、航空事故調査『ドキュメンタリー』だから。もう一つは、ティナの期待が重すぎて、早くもブッ潰れそうになったから』だ。
「あのさ、この間言ったけど。私は基本的に、頭っから否定するのは流儀じゃない。でもそんな自信なさそーに喋ってると、信じる気失せるわよ」
「そーだそーだ! 信じるかどうかは後で考えるから、ズバッとビシッと話せよな!」
高説垂れていたキヨシの一転した弱腰姿勢に、カルロッタとアレッタが率直且つ的を射た指摘を投げかけた。先程まで偉そうに説教かましていた相手にこう言われると、どうしようもなく情けなさが前面に出る。ぐうの音も出ないとはこのことか。
その恥、あるいは恐れか──それらに気圧されてしまったのか、キヨシは無意識にカルロッタたちから目を逸らしてしまう。が、逸らした先に見えたのは不安半分、期待半分といった眼差しでこちらを窺うティナだった。『私が期待を煽ってしまった』とでも思っているのがひしひしと伝わってくる。ではその残り半分の期待は? それすらも今のキヨシには重く感じる。だが、まだ期待されている内は、
「とはいえ、人よりは詳しい自信がある。今から知っているだけのことは話すぜ」
やるしかない。
この場にいる誰もが、大なり小なりキヨシに期待しているのだから。ティナだけではなく、カルロッタやアレッタの寛容もまた、期待から来るものなのだ。
キヨシは試作型飛行機の外見をさらって、尚且つアレッタから受けた説明を鑑み、どういうやり方で飛ぼうとしていたのかを何となく察すると、
「まず、この飛行機なんだが……正直言って、『飛びたい』って願望を感じるばかりでその要件を満たしてねえ。飛んだり、旋回したりすることはできているってのも、実際見てみないとにわかには信じがたいぜ」
「えー? でも、私は羽をバサバサさせて飛んでるんだから、こっちでも──」
「重さが全然違うんだぜアレッタさん。ハルピュイヤ……というより鳥と同じやり方で飛びたいんなら、それだけ軽くしなきゃいけないし、翼の形も似せなきゃいけない。この飛行機、素材は軽くしてるみたいだけど、翼を羽ばたかせる機構が重量を食ってて、とても空中に留まり続けるなんてできやしない。それが無駄となると、翼の形を似せたのも意味がない。それでもなお、一時的にでも飛んでいられるということは……」
キヨシが操縦席に飛び乗って見渡してみると、ひび割れた白い石がはめ込まれた台座を見つけた。これが、この欠陥飛行機を飛ばすという不可能を可能にした要因。
「このソルベリウムに貯め込んだチャクラで、無理矢理飛ばしていた……ってとこじゃねーかな。魔法ってスゲーな」
「ハイ、キヨシさん。それじゃあ、キヨシさんがいた世界の……えっと、飛行機? は、どのようにして飛んでいたんですか? 魔法は使えないんですよね?」
「さっき『鳥と同じやり方で飛ぶ』ことを否定したみたいに言っちゃったけど、飛行機が飛ぶ理屈は鳥と同じだから、『鳥と同じように』っていう設計思想自体は悪くない。ただ、羽ばたく必要はないってだけ。やり方を簡単に言えば、翼の形をちょっと工夫して、滅茶苦茶速く走って空気にぶつかることによって上向きの力を得る……ってことなんだけど、ぶっちゃけ詳しい法則とか計算式とかは俺も分からん」
言葉尻がまた少し自信無さげな感じになってしまったが、事実故致し方なし。結局キヨシは、『ドキュメンタリーで得た知識を雑学として知っている』だけの普通の人であり、それ以上でもそれ以下でもない。翼にくっついているフラップやらなんやらを動かすための油圧がどうとか、キヨシにはよく分からないし、そもそもどういう理屈で動いているのかも分からない。翼も『上が丸くて下が平ら』程度しか知らない。
そんな無知なる青年の口車に乗るのは無茶にも思えるだろう。
「だが。その無茶を押し通せるのが、魔法だと思っている」
「……つまり?」
「俺が提案したいのは『力学と魔法の良いトコ取りをしたハイブリット飛行機』。そーいうワケなんだぜ……そんなに俺のプレゼン聞いてるの楽しいか、ティナちゃん」
「え? す、すみません! でも、その……はい、とっても楽しいです」
「そりゃ何より」
熱心に聞くティナへの照れ臭さで頬を掻くキヨシだったが、その一方でカルロッタの反応はそこそこと言ったところ。なんだか凄そうな単語を並べ立てているが、未だ若干の荒唐無稽さが残るのは、キヨシも認めるところだ。
「……まあ、すぐに信じてはもらえないだろうことも承知。だから──ここで一つ、デモンストレーションを行う」
「でもん……?」
「あー、えーっと……もっと分かりやすく言えばだな。うん、実演をしてやろうというわけだ。全員ちょっとこっちに来てくれるか」
キヨシは大仰な言い回しで皆に招集をかけ、操縦席の台座にはめ込まれている割れたソルベリウムを、爪でコンコンと叩く。
「これだよな? 動力のソルベリウムってのは」
「そうだけど、だから何だっての?」
「まあ見てな」
釣られて皆の視線が集まったところで、右人差し指で割れ目をするりと撫でる。
驚きの声が上がった。なんと撫でたそばからソルベリウムの割れ目が、パキパキと音を立てて修復されていったのだ。
修復されたソルベリウムを台座から取り外し、「確かめてみろ」とカルロッタの方へ放った。信じられない現象を目の前にして唖然とする三人を他所に、キヨシは操縦席を降りて機体の外郭を軽く擦る。すると、爪が引っかかる程度の傷を見つけた。不時着の経験があると言っていたので、恐らくその時のものだろう。
「……おあつらえだ。ハイ皆の衆、こちらご注目」
もう一度同じように傷の端から端までを指で撫でると、極小のソルベリウムが顕現して傷を埋めた。三人は、最早声も出ない様子だ。
「御覧の通りだ。この指ができることは、ただ『ソルベリウムを顕現させる』だけじゃない。形状は俺の心次第だぜ。専門学校で培った空間認識能力が、こういう役立ち方をするとはね」
「き、キヨシさん!? 一体いつからこんなこと!」
「昼間に前方不注意で崖から落ちた時、咄嗟にソルベリウムを顕現させてそいつにつかまって助かったんだけど、その時顕現したソルベリウムがつかまりやすい"鉤形"だったのがちょっと気になってたんだよな」
断崖絶壁から落下した際、その途中に植物が生えていてそれにつかまって助かるというのは、創作物の黄金パターンのようなもの。実際そういう状況に陥ったとして、何か生えていればつかまりたいと思うのは誰でも抱く考えだろう。
「その……つまりその時は、『無意識が反映されて』ってとこかしら?」
「ああ、多分そうだ。国教騎士団と戦ったときは、無我夢中だったからどれも石ころ然とした形してたんだと思う。やれと言われればこの飛行機の一分の一スケールジオラマだって作って見せるぜ。オールソルベリウムだがね」
「……ッはー、ソルベリウムが無限に出て来るだけでもヤバイのに、なんとまあ途方もないこと」
カルロッタは修復されたソルベリウムをアレッタに渡して今度は飛行機の傷を埋めたソルベリウムを指先で叩く。
──トドメだ。
少しでも自分を大きく見せようと、キヨシは飛行機に再び飛び乗り起立の上、一際大きな声で眼下の三人に誇示するが如く言う。
「この実演を通して何が言いたいのかっていうとだな。こんなことができる俺がいるんだ、できねえことなんざ無さそうに思えねえか……てことだ! こんなのに比べりゃ空を飛ぶなんざ遥かにイージー、簡単だ! ただそれだけじゃねえ、俺は持っていないおたくらの"魔法"だって、絶対に力になる! 活かせるだけの知識も、能力も、俺たちにはあるのだ!」
そしてキヨシは胸をドンと叩き、このように結ぶ。
「おたくらの『絆の象徴』、俺に任せてみないか? 俺がアティーズに連れて行ってやるぜッ」
キヨシの心臓は、自分の耳でも確かに感じ取れるほどに高鳴っていた。これまでの人生で、ここまで自分を売り込んだことがあっただろうか。それ故、このやり方が正しいのかどうか、上手くいったのかどうか分からない。
吉と出るか凶と出るか──キヨシの提案は賭けでもあった。
「あ、あの。キヨシさん」
「なんだティナちゃん、まだ質問があるかッ」
「その、確かにきっと何でもできるような気がします。本当に凄いです! 凄いですけど……キヨシさんの言う通りにすれば空を飛べるって証明にはなっていないような……」
「あッ……」
ティナの何気ない指摘でキヨシの血の気が一気に引き、鼓動は加速する。ティナも『余計なことを言ってしまった』と思っているのか、俯いて冷たい汗をかく
──しまった。
二人して考えることは同じだった。なんと言えばいいものかと知恵を振り絞っていると、
「くふっ……アッハッハハハハッ!!」
倉庫で割れ響くカルロッタの哄笑が、沈黙を切り裂いた。呆然自失とするキヨシとティナに対し、ひとしきり笑ったカルロッタは大きく息を吸って、
「バァ〜〜〜ッカ!! 何、打ち合わせでもしたの?」
「そ、そんなことしとらんわ!」
「そ、そんなことしてないよ!」
事前打ち合わせなしで綺麗なハーモニーを奏でる二人に辛抱堪らず、カルロッタだけではなくアレッタまでもが笑い転げてヒーヒー言い出した。
「あー、ホンット馬鹿馬鹿しい。キヨシはともかくティナまでこれじゃあ、疑う気も失せるっつーの」
「それでは……」
「まあ信じる信じないというよりかは……『やってみろ』って感じかな。ただし、全然成果出なかったらハリ倒すからな。そこんとこ覚えとけよ」
こうして、紆余曲折あったものの、期待に応えることができた。いや、まだ終わってはいない。三人から受けた期待は、空を飛んで初めて応えることができるのだ。
「……ああ。こういう時、故郷じゃ『肝に銘じる』って言うんだ。パクんなよ」
挑戦が始まる。




