表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ペンでセカイは廻らない~魔法の石を生み出す力を得た青年が、二重人格少女と冒険する話~  作者: 洞石千陽
第三章『キャストユアシェル─殻を破ったそのあとで─』
160/190

第三章-閑話『闇に葬られた物語』

「何故、こんなことを教えるのです?」


 彼の手が震え、構えていた双剣が滑り落ちる。


「こんなことを僕に教えて、僕に何をさせたいのです?」


 自らに課された()()の重みに、彼は跪く。


 そして、がっくりと落ちた彼の肩に、眼下の小男が伸ばした皺だらけの小さな手が置かれた。


「今知ったことは忘れてもらう。しかしこの一件にケリが着いたその時、全てを思い出すだろう。そして、決断を迫られるはずだ」


「何の?」


「この国の、いやこの世界の未来」


「そんなものを僕に委ねると? 許されるはずがない」


「そう、許されない。だが我々のこれまでの道筋も、きっと許されざる決断に満ちていた。これは、未来を担う人々の宿命なのだ。お前にはその素養があるように感じた。何よりお前は、優秀な兵士だ。今のペンの保持者とは違ってな」


「馬鹿な……」


「繰り返すが、今は全てを忘れていい。だが忘れている間も逃げるな。逃げずに全てを見聞きし、考えることをやめるな。その結果導き出された答であれば、我々も納得するだろう」


「これから全てを忘れる人間に対して、何を言ってるんです」


「……独り言だ。お前は言うまでもなく、成し遂げるはず」


 額を指先で突かれると、少しずつ、彼の視界は霞んでいく。


 薄れゆく意識の中、彼の耳は蚊の鳴くような小さな声で、小男が何かを呟くのを聞いた。


「すまない……我々がつけられなかった決着を丸投げしてしまった。半ば諦めかけていたが……いもしない神からの天啓を見た気すらした。ペンがこちらに渡ったのは、きっと運命だ。あれをどうするかは、お前たち次第」


 ほんの少しだけ興趣を惹かれたが、どうせ覚えていられないのだと気付いたその瞬間、急速に意識は遠のいていった。


 しかし。


「お前もどうかくれぐれも、我々を許さぬよう」


 既に何が起こったのかも忘れ始めている彼の心に、その言葉だけは深く刻み込まれたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ