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ペンでセカイは廻らない~魔法の石を生み出す力を得た青年が、二重人格少女と冒険する話~  作者: 洞石千陽
第三章『キャストユアシェル─殻を破ったそのあとで─』
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第三章-57『協力は惜しまない』

「なるほど……なるほどの。儂がこの国の歴史そのもの……か。元々、儂は無関係ではなかったというワケか」


「……本当に検閲の対象外みたいだな。なんでだ? なんでおたくだけが?」


「王宮の外に住んでいるからとは?」


「いや、それはない。今話した通り、アトリエの皆も、外から来てる奴を含めて検閲対象だ」


 吹き飛んだ木っ端をカルロッタが片付けている間に、キヨシはマノヴェルに事の経緯を全て話した。うんうんと唸っているマノヴェルの一挙手一投足に目を配ってみても、特別変わった様子はない。当人の見立通り、マノヴェルは検閲の対象から外れているらしい。それが何故かまでは分からないが。


「正直、おたくが検閲の対象外ってのは割とツイてたと思ってるよ」


「じゃが、警戒もしている」


「……まあな。けど、最悪おたくが犯人でも構わない。おたくと協力することで、おたくを監視することもできる」


「して、ここで断れば疑いは濃くなると……中々に強かな男じゃな。じゃが、先程貴様が言ったように、貴様等では束になっても儂には敵わぬことを理解しての態度じゃろうな?」


「おたくは、そんな国のためにならないことはしない。そこはどう転んでも真実だ」


「……──────」


 褒めているのか脅しているのか分からないマノヴェルの発言は、恐らくキヨシの出方を見ていたのだろう。純粋なアティーズの国民でもないどころか、この世界の住人ですらないキヨシがどんな反応を示すのか、それを試していたに違いない。その証拠に、ごくあっさりと『マノヴェルを信じている』とも取れる返答をしたキヨシに対し、マノヴェルは逆に押し黙ってしまった。


 今、国に巣食う陰謀──か、どうかすらも判然としないが──へ対抗できるのは、検閲がかけられていないキヨシたちのみ。そして、動機はどうあれ真っ向から立ち向かうことを選択した。それを殺すことは、検閲がかけられた状態を維持することを意味する。下手に抵抗するよりも、放っておいた方が平穏かもしれないが──


「……良かろう。儂とて曲がりなりにもアティーズの国民よ。貴様らの指図を全て受けることはできぬが、協力は惜しまぬ」


 マノヴェルもまた、選択した。マノヴェルも立ち向かえる者の一人なのだ。


「どうもありがとう」


「礼を言われるのは気に入らんな」


 あとは、この減らず口さえどうにかなれば──と、キヨシは閉口した。


 ともかく、これでマノヴェルと協力関係が結ばれたワケだ。当然、まだ疑いが晴れたワケではないが、後顧の憂いは一つ解消できただけでも、キヨシの精神衛生状態は著しく改善された。


「じゃあ、早速なんだけども……こっちも気になってることが二つある。まずは一つ、この国の歴史について聞きたいな」


「歴史ッ!?──」


「手を動かせ、小娘」


「うん……」


 一瞬輝いたカルロッタの顔が、一気にしおしおのしょんぼりとしたものへと変化する。自業自得とはいえ、大好物を目前にしてお預けを食らう彼女の心情を思うと、少し気の毒な気がしないでもない。そこは、キヨシだけでなくセカイも同じだったようで、


「お爺ちゃん、私が二人分頑張るから。お話させてくれない? ホラホラ、二人いるから。ね?」


【へ!?……え、えっと。お願いします?】


 セカイの意気込みは素晴らしいが、二人いるとは言っても体は一つなのだから、ただの屁理屈でしかないというのが正直なところ。ティナも同じ感想だったのか、同調しつつも困惑の色を隠せていない。当然、ティナの声はマノヴェルにも届いている。彼は全力で呆れ返ったように大きな、大きな溜息を吐いて、


「……良い様に言いよるわ、小童め。好きにせい」


「だってさ──わ!」


 振り返ったセカイの小さな手を、カルロッタの両手が包み込む。


「ありがとうございます、セカイさん……!」


「あ、あはは……良かった、ね?」


【カルロったら、もう……調子いいんだから】


 ──嘘ォ!? セカイってこんな顔するのか!?


 ティナと見紛う程に困惑し狼狽えるセカイを目撃し、キヨシは口に出さずとも内心では仰天していた。どんな時でもお気楽極楽、全てを飲み込んで受け入れる度量を持ち合わせた、ある意味完璧少女のセカイが動揺する様など、そう何度も拝めるものではない。それを引き出したカルロッタにも驚きだが、当のカルロッタは礼を述べた後すぐに、落ち着いた態度でマノヴェルに向き直った。


「……と、言いたいところだけど。妹と友達にケツ拭かせる程、落ちぶれちゃいないわ。ちゃんと手は動かす」


「俺もやるよ。そしたら早く終えて、皆で話聞けるだろ。ドレイク、聞いてただろ? お前も手伝ってくれ。頼むよ」


「俺ちゃんちっちゃいから、何もできねーと思うぞ」


「オホホのホ。『チビトカゲ』って呼ぶと怒るクセに。都合のいいトカゲちゃんですことー」


「ンだとテメーこのパチもん女! じょーとーだやってやろうじゃねーか、木っ端という木っ端を片っ端から燃やしてやんぞオラァ!! 出てこいティナァ!」


【え、ええー……大丈夫かなあ……】


 またぞろぎゃいのぎゃいのと騒がしくなってきた。深刻な問題に直面しているとは思えない空気に、マノヴェルは完全に置いてけぼりを食らう格好となる。


「お主ら、いつもこんなか」


「「まあね♨」」


「……左様か。まあ良いわ」


 キヨシとセカイの息ピッタリな返答を、マノヴェルはにべもなく切って捨てた。キヨシたちの態度を容認したワケではない。ただ単に、匙を投げられただけだ。


 こうしている間にもあくせく働き、時折燃やし、少しずつ部屋は片付いていった。燃やせないゴミを外に出すとき、セレーナと共に待機中のマルコが怪訝な顔をしてキヨシたちを窺うのも、大して気にならなかった。

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