やっぱりな。そう言う答え方すんのは天人様だ。
優しい温もりと心地よい揺れを感じながら、目をこする。どうやら今度はお姉ちゃんの背中で眠っていたようだ。
「優くん。目、さめた?」
「ん……うん。」
顔をあげて辺りを見回すと、どうやら森の中の道を歩いているようで、左右には草木が鬱蒼と生い茂り、日光が遮られ薄暗く、こちらに迫ってくるような感覚を覚えた。
目が覚めたのだから、背中から降りて自分で歩こうと思っていたのだが、周囲の森の何とも言えない陰鬱な雰囲気が、お姉ちゃんの温もりから離れることを渋らせた。
「んー?優くん。どぉしたのぉー?」
僕がお姉ちゃんの背中にギュッとしがみついていると、お姉ちゃんは語尾を上げ、優しい口調で聞いてくる。
「うぅん。なんでもない。」
言って、背中に顔をうずめる。
「怖くなっちゃった?なんか薄暗いもんねぇ。大丈夫だよ。もうすぐ森を抜けるからね。そうしたら明るいから。怖くない怖くない。」
お姉ちゃんは一度立ち止まって、少しずり落ちてきた僕を背負い直すと、再び歩き出した。
また眠っていたようだ。今度は枯れ葉の積もった土の上。
目が覚めると、すぐ横で優くんも眠っていて、取りあえず先程と同じように膝枕をする。
辺りを見回すとどうやらここは森のようで、背の高い木が鬱蒼と生い茂り空を埋め尽くし、熊笹のような下草が地面を覆い隠している。
私たちが眠っていたのは、唯一、空と地面が見える道と思しき部分の脇で、硬く踏み均された地面が下草の根を拒み、黄土色の土が姿を現していた。
しばらく優くんの頭を撫でながらじっとしていると、遠くから小気味いい馬の足音と何かを引きずるような音が聞こえてきた。その足音は段々と大きくなり、ついには騎乗した男性が私たちの前でとまった。
「あんれま、これはこれは、天人様だ。どうもこんにちは。こちらの世界へは来たばかりですかな?」
顎鬚を生やし、黒い髪に白髪が混じった男性は、馬を降りつつ言った。
「てんじんさま?」
「あぁ、そっか。知らねんだ。天人様っちゅうのは、天から降りてきた人のことだ。こう言うと、天人様はみんな『天から降りてきた訳ではねぇ。』っちゅうけども、私らの知らんことをたっくさん教えてくれっから、みんな『天から知識を授けに降りてきてくだすった天人様だ。』っつって呼んでんだ。」
どうやら神様の思惑通り、地球から送り込まれた先人たちは、きっちりとこの世界の発展に貢献しているようだった。
「こんなところに子供だけでいるのは天人様か迷子だけだかんな。こんな綺麗な服を着られるような貴族の嬢ちゃん坊ちゃんが、こんなところで迷子になる訳もなし。アンタらは天人様だべ?」
「あぁ、はい。多分そうです。」
「やっぱりな。そう言う答え方すんのは天人様だ。」
男性は笑いながら言った。この世界の担当の神様はつまり日本担当であるから、転生者は日本人だけ。確かに日本人ならそう言う答え方になるだろう。
「あぁ!すまねぇ。」
突然思い出したように言いながら、男性は馬に飛び乗った。
「街まで案内したいのはやまやまなんだが、生憎この馬にゃ後二人も乗せる余力はねぇし、急がないとコイツがダメになっちまうんだ。」
そう言って、馬の後につないである大き目の木の板を指す。その上には1.5mほどのトカゲのような生き物が載せられていた。
「すまねぇな。こっちの方向に歩けば、30分くらいで、森を抜ける。そしたら町はすぐだかんな。」
「30分!?30分って30分ですか?」
自分でも何を言っているのかわからなくなったが、要はこの世界でも地球の時間単位が通用するのか。ということである。
「あぁ。30分って言うのは天人様の世界と同じだと思うでな。これも昔の天人様が伝えたことだで。」
そう言うと男性は、馬を走らせ、トカゲを引きずりながら走り去っていった。
街に着いてもやらねばならないことはたくさんあるだろうし、早いうちに街に着いておきたい。
私は、気持ち良さそうに眠る優くんを起こしてしまわないようにそっと背負い、今しがた男性が走り去っていった方向に歩き出した。