お姉ちゃんと一緒ならどこでもいい
今回、宗教の解釈に関する話が出てきますが、現実の宗教とは一切関係ありません。本当に関係ありません。現実の宗教と偶々名前が一致しているだけです。宗教について否定する気持ちなどはありません。
物語の演出だと思って聞き流して下さい。
お姉さんが僕の頭に手を置くと、色々なことを思いだした。
あのあと確かに僕は自分の身体を離れて浮いていて、寝ている僕とお姉ちゃんの横で、パパとママが泣いていた。その時はまだ、状況を掴めていなかったけど、お通夜が始まった頃には、『自分は死んだのだ。』ということがわかった。
それから1ヶ月くらいの間は、ずっと家にいた。パパは、会社には行っていたけど、ママはずっと家で、僕とお姉ちゃんの骨が入った入れ物の前で過ごしていた。
晩御飯は毎日パパが会社の帰りにカップラーメンやらレトルトカレー、コンビニ弁当を買ってきて、ママと2人で食べていた。ママは晩御飯以外食べていなかった。
話しかけたくても僕の声は2人には聞こえないみたいで、僕もずっと泣いていた気がする。その時はお姉ちゃんとも話せなかった。
「思い出しましたか?」
お姉さんが言う。
思い出した。思い出したからこそ、またお姉ちゃんと会えなくなるのが怖くて、もうパパにもママにも会えないのが悲しくて、お姉ちゃんにすり寄った。
お姉ちゃんは優しく背中をさすってくれた。
「思い出しました。」
お姉ちゃんが言うと、神様のお姉さんはゆっくりと後ろに下がって、僕が落ち着くのを待ってくれた。
「話は変わりますが、お二人とも。あなた方には、第二の人生を歩んで頂こうと思うのです。」
「第二の人生?……ですか?」
私が思い出したと言うと、神様は、『第二の人生を歩んでみないか』などと言いだした。
「そう、第二の人生です。輪廻転生はご存知ですか?『死んだ魂が、新たな命として現世に戻る。』という考え方です。」
「あぁ、はい。知ってます。けど……それって仏教の考え方じゃないんですか?神様より、仏様の担当?というかなんというか。」
「『輪廻転生』という名称は確かに仏教のものですが、『生まれ変わり』の考え方自体は、古くは古代エジプトから、ギリシャなど、世界各地にありますし、それに、仏教の教えは全て間違いだったと思いますか?」
「えっ……あぁ、いえ。」
「宗教はいくつもあっても、地球は1つなのです。その中でどれが正しいのかと言えば、どれも正しく、どれも間違っているのですよ。そして『生まれ変わり』に関しては正しい。ということです。」
わかったような、わからないような。つまりいくつもある宗教のそれぞれが、本質全てを見抜けてはおらず、しかして、それぞれが一部分を言い当てているということだろうか。
「それで本題に戻りますが、普通は死んだ人はまた地球で新たな生を受けるのですが、実はあなた方の知る地球以外にも、別の物理法則で成り立つ複数の世界がありまして、地球で死んだ人の中から無作為に選ばれた人を、その『地球以外の世界』へと生まれ変わらせるのです。」
「えっそれまたどうして?」
「まぁ簡単に言えば、他の世界の技術の進歩ですね。現在地球の技術レベルが他の世界に比べて抜きんでて高いので、少しずつ人を派遣して技術の革新を図っているのです。」
「そこに、私たちが選ばれたと……。」
「そうなりますね。」
「断ることは出来るんですか?」
「できますよ。もちろん強制はしません。その場合地球で生まれ変わることになります。でもその場合、記憶は一切残りませんよ?他の世界への転生であれば、記憶を残したまま、それも現在、というか死ぬ直前の身体で行くことができます。記憶が残らなければ、技術の革新は望めませんしね。」
確かにそうだ。生まれ変わるならば、前世の記憶など残っていないのが普通だろう。しかし、他の世界への転生ならば、記憶を残したまま行ける。『優くんとも離れ離れにならなくて済む。』ということだ。
となれば、相当酷い条件ではない限り、この話に乗る方が良い。
「なるほど、じゃあその世界はどんなところなんですか?」
「どんなところ……うぅん難しいですね。……あっ魔法がありますよ。」
『魔法』というものに興味を惹かれない訳ではないが、重要なのは住環境であり食環境。そして医療技術だ。
「技術レベルはどうなんですか?正直現代日本での生活になれているので、もう不便な生活では生きていけないと思うんですが。」
「技術レベルに関しては、産業革命前のレベルですね、医療技術についても多くは望めません。ほとんどが民間療法です。ですが魔法があります。これは技術が発展しない要因の一つでもあるんですが、魔法で大抵のことができてしまうので技術の発展が遅れるのですよね。」
「なるほど。わかりました。少し考えさせてください。」
「あと、これが重要なことなんですが、地球で生活してきた人達がいきなり他の世界に行っても、生活ができなくなってしまうので、ある程度の特典はこちらでつけさせて頂きます。具体的には、仕事に困らない能力をつけさせていただきます。」
「わかりました。……優くん。私たち生まれ変わるんだって。今度は魔法のある世界だってさ。どう?行ってみたい?」
「……お姉ちゃんと一緒ならどこでもいい。」
なんて可愛い弟だろう。私は思わず優くんをギュッと抱きしめた。
「決めました。行きます。」