横断歩道ではちゃんと手を挙げる
僕は学校でからかわれていた。5年生にもなったのに、毎日学校にお姉ちゃんが迎えに来るからだ。
別にいじめられている訳ではないし、帰りの時間以外は友達も普通に接してくれるので、苦に思ったことは無い。
それに何よりも、大好きなお姉ちゃんと一緒にお家に帰ることの方が大事だ。
今日も今日とて、お姉ちゃんと帰る。地元の大学に通うお姉ちゃんは、僕と一緒に帰るために4限目に授業を入れていないらしい。でも、木曜日は必修があるとかで、一緒には帰れない。
少し寂しいけれど、僕はそれくらいのことでは泣かない。5年生になったから。高学年のお兄さんになったから。低学年の子達のお手本になるように頑張らないといけない。
でも、お姉ちゃんと二人の時だけは、思う存分甘えられる。
お姉ちゃんと手をつないで横断歩道を渡る。お姉ちゃんに褒めてもらうために、横断歩道ではちゃんと手を挙げる。
「お姉ちゃん!あのねっ」
「優くん!!」
お姉ちゃんが突然僕を抱きしめたその直後、大きな衝撃、その後の浮遊感を経て、地面に叩きつけられたところで意識が途切れた。お姉ちゃんは最後まで抱きしめていてくれた。
私は学校でからかわれていた。5年生にもなった弟に、未だにベッタリだからだ。
別に極端に引かれている訳ではないし、時々おちょくられる以外は友人も普通に接してくれるので、大して気にしていない。
それに何よりも、可愛い可愛い弟の優くんを無事に家まで帰すことの方が大事だ。
今日も今日とて、優くんと帰る。地元の大学に通う私は、優くんと一緒に帰るために4限目の授業を排除した。しかし、忌まわしき教授陣が木曜4限に必修を入れやがったので、その日だけは一緒には帰れない。
ものすごく心配だけれど、私は弟の無事を祈るに留める。「5年生になった」「高学年のお兄さんになった」と息巻く弟を応援したい気持ちもあるから。時には一人でやらせて、褒めてあげないといけない。
でも、私と二人の時だけは、思う存分甘えさせてあげられる。
優くんと手をつないで横断歩道を渡る。とっても良い子な優くんは、横断歩道ではちゃんと手を挙げる。
「お姉ちゃん!あのねっ」
今日も楽しそうに学校であったことを報告する可愛い弟から不意に少し目線をずらすと、止まり様がない速度で迫ってくる乗用車が見えた。
「優くん!!」
私は咄嗟に弟を抱きしめ、その直後、大きな衝撃が身体を襲った。空中に投げ出されたが、弟を守らねばならないという責任感で辛うじて意識を繋ぎ留め、自分が下になるようにして着地したところで意識が途切れた。