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第7話 二人目のヒロイン

 昨日、寮で一日中考えたが、先ずは近づかない事には始まらないというのが結論だった。

 ポイントは如何にレイラに怪しまれずに事を進められるかだ。


 まあ、その辺は抜かりない。レイラもまさかそこを狙うなどとは夢にも思っていないだろうしな。


 俺は学園での講義を終えると、放課後すぐに生徒会室前を見張ることにした。

 どこにいるか分からない以上ここで待ち伏せするのが一番だからだ。

 時々、廊下の前を通る学園の生徒に怪しまれないように、誰かを探すフリをしながら歩き回る事一時間。


 来た!


 待ちわびていた青い髪にポニーテールの少女が生徒会室に入っていく。

 次の攻略に選んだのは、昨日、俺らのピンチを救ってくれたリネット・ブルームフィールドだ。


 別に危ないところを助けてもらってキュンとしたとかそんな理由ではない。断じてない。単純に美少女って事と、一番攻略の道筋を立てやすいと思ったからだ。

 それから数分待つと、要件を終えたのかリネットが一人で生徒会室から出てきた。

 周りを見渡す。廊下にはまだちらほらと生徒が残っていた。


 ここじゃダメだな。


 リネットが学園から出て、周りに生徒がいないのを確認すると俺は背後から声を掛けた。


「リネット・ブルームフィールドさんですよね? 昨日はすみません。危ないところを助けて頂いてありがとうございました。それで、その頼みがあるんですが、いいですか?」

「お前は昨日の……それで頼みとはなんだ?」


 顔を忘れられていたらどうしようとか思っていたが、杞憂に終わってくれてよかった。

 まあ、印象が最悪の所為か声は若干きつめに聞こえる気もするが、元々こんな感じだと信じたい。


「もしかしたら、生徒会長から聞いたかもしれないけど、ここに編入したばかりで魔法の実技が全然なんだ。だから、その、よかったら、俺に見回りの手伝いをさせてくれないか? 昨日、魔法を見て以来教わりたいと思ってたんだ」

「無理だ」


 即答されてしまい、心が折れかける。


「軽い気持ちでそんなことを言われても困る。悪いが他を当たってもらいたい」

「軽い気持ちなんかじゃない! 頼む!」


 いや、まあ、軽い気持ちなんだけど。


 後ろめたさに余計目が合わせられなくなってしまった。


「他を当たってくれ」


 これ以上は話を聞かないと言わんばかりに、そのまますたすたと背中をこっちに向けて去っていった。


「やっぱ、そう上手くはいかないよなー」


 もちろん一回断られたくらいで、諦めるつもりもなかった。


 次の日、それは偶然を装った朝の学園で。


「見回り一緒にさせて下さい」

「無理だ」


 それは、講義が終わり、次の講義の準備をする休憩時間に。


「お願いします」

「しつこい」


 それは、学園が終わって、それぞれが自分のやりたいことに時間を使おうとする頃。


「頼む!」

「人呼ぶぞ?」

「ごめんなさい!」


 そして、昨日と同じくリネットが騎士団の巡回を終えて、こっちに戻ってきた時。


「はあ、またか……。いい加減にしてくれないか?」


 こっちもいい加減心が折れそうだ。異性と向かい合うことさえ慣れてはいないというのに、それに加えて何度も頼みごとを断られ続けているのだから当然の結果ではあるが。


「頼む! 本気なんだ! 許可してくれるまで諦めるつもりはないからな」


 どれほど真剣なのか伝える為にリネットの目を見る。


 絶対攻略する。絶対攻略する。絶対攻略する。

 ……俺、顔引き攣ったりしてないよな?


 段々と自分の表情に自信がなくなってきた。

 リネットもこっちの心意を探ろうとしているのか、こっちの目を睨みつけるように見てくる。

 女の子にここまでじっくり見られていると精神にかなり悪い。だが、流石にここで目を逸らしたりするのは何か負けた気がするし嫌だ。

 引くに引けなくなり、リネットの目をひたすら見ることに徹する。数秒の睨み合いの後、サファイアを思わせるリネットの瞳が揺れた。

 その後、分かりやすいくらい大きなため息を零す。


「全くこんなことやる暇があるのなら、その時間を練習に費やせばいいものを」


 そう言ってリネットはこめかみを押さえる。


「お前みたいな魔法も使えない未熟者に手伝えることなんてない。だが」


 言葉を区切って俺を見てくる。実に嫌そうな顔だ。


「これ以上付きまとわれるのも迷惑だからな。邪魔をしないというのなら勝手に遠くで見学でもしていろ」

「あざーっす! では改めまして、駿河大輝です。えっと呼び方はリーダーって呼んだ方がいいですか?」

「普通にリネットで構わない」


 少しリーダーと呼んでみたかったから残念だ。


「じゃあ、リネット。これからよろしく頼む」

 

 リネットはリーダーを任されているから、最初は先輩だと思っていたのだが、ストーキングの成果で同じ学年の『2-C』であることは既に調査済みだった。

 その為、クールを装ってファーストネームで呼んでみたのだが、うん大丈夫そうだ。


「よろしくをするつもりはないと言っただろ。邪魔だけしなければそれでいい」

「あいよ」


 とりあえず、これで一段落ってとこだな。まあ、大変なのはここからか。


 手元のバンクルを見る。

 表示されていた親密度は3%だった。


 ですよねー。

 普通は初対面に対してはこんなものだ。


 レイラの初回の親密度がきっと高かっただけと自分に言い聞かせる。

 次の日から騎士団の巡回の際、最初の集会から参加するようにした。

 幾つかのルートに分かれて行動するのだが、当たり前のようにリネットについていく。

 他の騎士団のメンバーが時々こっちを見ては誰(?)という視線を向けてきた。

 リネットはその空気に気付かないのか、それともメンバーではない為か、紹介をしてくれる雰囲気は一切感じない。


 いや、まあ、こういう孤独も慣れてるけど!


「ねえ、ダイキ? アンタ最近ずっと生徒会の方に行ってない? もしかして……」


 午後の講義が終わると、後ろからレイラが疑うような視線で声を掛けてきた。

 実際には生徒会ではないのだが、関りが少ないとそんな認識なのだろう。


「魔法の勉強になるかと思って見学させてもらってるだけだよ」


 またレイラにつけまわされて行動が制限されるのも何かと不便な為、予めその辺の解答は用意済みだ。


「本当でしょうね。まあ、それならいいんだけど」


 レイラともあの一件から大分話せるようになっていた。両親を除けば今までの人生で一番話している女性になっているかもしれない。


 バイトの倉科さんとだって一日中話さないなんてことよくあったしな。


「じゃあ、行ってくるわ!」

「はいはい。気を付けて。問題だけは起こさないでよ」


 責任感が強いのはいいことだが、なんとなく言い方がお母さんっぽい為、本当に母親に見送ってもらっているような変な気分だ。

 そのままレイラに別れを告げると、騎士団の集まる学園の門の前まで行った。

 俺が来た時には、既にほとんどのメンバーが集合しているようだ。その中には当然リネットの姿もある。

 後ろから息を切らしながら数名の生徒がリネットの元に行く。


「待たせてしまってすみません!」


 後から来た生徒は、すぐ列に並ぶ。


 俺だけが列から外れている中、いつも通りリネットの号令で今日の巡回を始める。


「よし、これで全員そろったな。本日も巡回を頼む!」


 他の生徒たちが一斉に返事を返すと、それぞれが自分の持ち場に着く。

 

 皆が二人一組で組む中、リネットだけはいつも一人で行動しているが、俺の所為とかじゃないよな?


 そのまま俺なんかいないというかのように一人でさっさと巡回に行く。

 いつも通り、俺は後ろから黙って後を付いていった。


「これは……」


 見回りをしていると、山岳方面の柵が内側から倒されていた。


「こっちに何かあるのか?」

「これを見ろ」


 昨日の夜に少し雨が降ったのだが、その所為で地面がぬかるみ、くっきりと何者かの足跡が残っていた。その足跡はそのまま森の方へと続いている。


「道が危険ということもあるが、奥にはゴブリンたちの巣があるからこの道は閉鎖されてるんだ。そのゴブリンたちが降りて来たらしい。行くぞ!」


 そう言ってリネットは足跡を追って行った。


 ガサガサ。


「ん?」


 何か音が聞こえたような気がして振り向く。


「もたもたしていると、置いていくぞ」


 リネットの声に前を向くと、既に少し距離が離されていた。


 気のせいだよな。


「今行く!」


 俺は離されないようにと、走ってリネットを追いかけることにした。


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