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第4話 編入

 レイラが電気を点ける。

 わずかに額から汗が滲みだしていた。

 最初会った時から思っていたが、レイラは客観的に見ても優れた容姿と言える。つまりは美少女だ。

 そんな子が通う学園と考えると、他にも多くの美少女がいるのだろう。

 なら、これはもう、目指さない方が逆に失礼と言えるのではないか?

 せっかく若返ったのだ。歳だから無理とかそんな言い訳はもうできない。


「なんか実感はないけど、色々ありがとな。こんなことまで面倒看てもらって」

「そ、その別に大したことはしてないわよ。それより今のってね、本来は愛する者同士が行う誓いの証なの。だから、その、この事は他の人には内緒にしといてもらいたいんだけど」


 普通じゃないとは思ったが、そんなに大切な事だったのかよ。

 でも、それほど信頼してくれてるってことでいいのか。


「ああ、助けてもらってるのはこっちだしな。ただ、今度からそういうことは最初に言ってほしいな。心臓に悪いから」

「あはは、ごめん。なるべく気を付けるようにするわ。とりあえず、これでダイキも同じ学園に通うんだからこれからよろしくね。」

「ああ、こちらこそ、よろしく。レイラ」


 熱も治まってきたな。

 これで明日から俺だけの美少女ハーレムを作る為に動けそうだ


『ねえ、ダイキ。美少女ハーレムって何?』


 え――――?


 頭の中に直接、声が聞こえてきた。

 恐る恐るレイラの方を見る。


 うん、ばっちり睨まれてるな。


「言い忘れてたけど、コアを移植した直後ってコア同士が反応しあって、少しの間だけど、心が繋がるらしいの」


 だから、頼むからそういうことは最初に言ってくれ……。


「で、作るって何? ハーレムって? 説明しないと、この場で叫ぶから」


 脅してくるレイラの目は本気だった。とてもゴブリンを倒せないと言っていた少女と同一人物とは思えない。


 いきなりこれかよ。勘弁してくれ……。


 流石にここで叫ばれると、俺の学園生活は始まる前から終わってしまうわけで……。

 仕方なく、それっぽいことをレイラに説明した。

 女の子たちと仲良くしたい、と。


 本当はこんなことも言いたくなかったよ? でも、心からの嘘って結構難しいわけで遠回しに言ってしまった。


 床に這いつくばっている俺をベッドに座っているレイラが冷たい目で見下してくる。


 無心……無心……っ! ピンクって。


「――ッ!?」


 何も考えないようにしていたのだが、どうやら位置が悪かった。

 スカートの中が、俺の座っている位置からだと丸見えになってしまっているのだ。


「きゃあああ――ん、ちょっ、んん」


 悲鳴を上げられないように口を塞いだのだが。


『この変態! 不潔! 気安く触るな、ゴブリン男!』


 言いたいことはバッチリと直接脳内に伝わって来た。


 てか、ゴブリン男って。


 今の荒れ様を見ていると、とても先程までゴブリンを攻撃することに可哀想という感想を抱いていた少女なのかと思わず疑いたくなってしまう。


 俺はレイラの口を押さえながら、ひたすら謝り続けた。

 



「いてぇー」


 じんじんと痛む頭頂部を優しく触れると、その部分はポッコリと膨れている。

その頭の上に出来たタンコブと引き換えになんとかレイラの怒りは静まりを見せた。


「はぁー。全く、ダイキがそんな人とは思わなかったわ」


 いつの間にかレイラの心の声は聞こえなくなっていた。

 嬉しいような、残念なような何とも言えない気分だ。


「おかげで夕食の時間も過ぎちゃうし、今日は寝ましょ。ベッドってわけにも行かないから、そこのソファーで我慢してもらえる?」

「ああ。その、すまん」

「冗談よ。一人だけ食べるわけにもいかないでしょ。明日、わたしが学園まで案内するから今日はしっかり休むといいわ」


 そう言って、レイラはごそごそクローゼットを漁ると、電気を消して部屋から出て行った。


 その後、寝ようと試みたのだが、異性の部屋であることを意識してか眠ることは出来ず時間だけが過ぎていく。

 数十分後、扉が開きレイラが帰って来たのを薄目で確認すると、ネグリジェ姿になっていた。


「ダイキ~? ……寝てるわね。おやすみなさい」


 静かに声を掛けたレイラは、そのままベッドに入った。


 おやすみ。


 俺は全く眠れる気がしない中、心の中でそう返した。

 お風呂上がりという事と甘いシャンプーの香りに包まれ、俺の夜はまだまだ長い事を確信しながら。



× × ×



 次の日、ようやく陽が窓から差し始めた頃、レイラの布団がもぞもぞと動きを見せた。


 やっと起きたか。


「ん~、あれ? 早いわね。もう少し寝ててもいいのよ?」


 こっちの気も知らず、レイラがそんなことを言ってくる。

 結局一睡もすることは叶わなかった。


「いや、目も覚めたし起きるよ」


 昨日、何も食ってないせいで空腹だしな。


「そう。わたしは朝食を食べてきちゃうから、ダイキは顔でも洗ってくるといいわ。すごく顔色悪いわよ? 本当にちゃんと寝たんでしょうね」


 そう言って、レイラは部屋から出て行った。


 少し遠目からだが、レイラは良く眠れていたようだ。俺と違って異性と同じ部屋にいるくらいじゃ睡眠の質は落とさないらしい。

 そんなところで年下の少女に劣っていることを考えると、本当に今まで何をしていたのかと自分を責めたくなった。


 こんなんじゃダメだろ! しっかりしろ、俺!


 気合を入れ直すため洗面所で顔を洗う。

 しばらくすると、ネグリジェから、おそらく学園の制服と思われる衣服に着替えたレイラが部屋から出てきた。


「はい、これ! 本当は持ってきちゃダメなんだけど、流石にお腹空いたでしょ? 少ないけど、今はそれで我慢して」


 レイラから渡された袋の中には、パンが入っていた。


 贅沢を言ってしまえば飲み物も欲しいところだが、ありがたい。


「それ食べたら、行きましょ」


 俺はパンを少しずつお腹に詰め込んでいき、袋が空になるとレイラ案内の元学園に向かった。



「うぉおおー。でけぇえ」


 学園を見て俺が最初に発した言葉がそれだった。

 とにかくデカいのだ。それに敷地も広い。見ただけで素人の俺にもかなりの金が掛かっていそうなことは分かる。

 俺はキョロキョロと周りを見ながら、レイラについて行った。


「あそこの受付の人に編入のことを言えば、後はなんとかなるはずよ」

「了解。じゃあ行ってくるわ」

「あ、ちょっと待って。昨日は有耶無耶になっちゃったけど、その前に一つ言っておくわ。ハーレムってやつ作ろうとするならそれは邪魔するから」

「あ、ああ……」


 こういうことはちゃんと先に言うのか。


 レイラとは会ってからまだ少ししか経ってないけど、彼女は本当に優しい女の子なんだと思った。

 自分が原因で俺を学園に入れることになったから、他人に迷惑が掛からないようにこうやって俺を牽制しているのだろう。それとは逆に他人に迷惑が掛からない事ならこの少女はどこか抜けてしまうのだ。


「じゃあ、行ってらっしゃい! 同じクラスになれるといいわね。そっちの方が監視しやすいし」


 そう言い残して、レイラは階段を上って行った。


 何か緊張してきたな。魔法の素質さえあればいいとか言ってたけど、本当にこれで大丈夫なのか。


 気付かないうちに力が入っていたのか、握った拳の内側が少しだけ湿っているような気がした。

 このまま立ち止まっていても仕方ないと自分に言い聞かせ、その場で深呼吸をする。


 よし、行くか!


 レイラに言われた通り、受付のお姉さんに話しかけた。


「すみません。その、こちらの学園に編入したいのですが?」


 受付のお姉さんは少しも視線を逸らすことなく、こっちを見てきた。


 ちょっと、相手を見すぎじゃない!? 


「編入ですね。では、こちらに名前を書いてもらった後、最初に魔力を測定させて頂きますがよろしいですか?」

「は、はい。お願いします」


 変な緊張が先だってしまい、少し声が上ずってしまった。


「では、こちらに」


 受け付けの部屋の奥に案内され、お姉さんにあちこちを隈なく触られ、その後、腕に測定器と思われるものを巻かれた。


 この感じ、なんか血圧を測るみたいだな。


 隣にあるモニターには『ウィンド』という文字と数字が表示されていた。


 この『ウィンド』という文字には見覚えがあった。

 今日の朝、やることもなかった為、暇つぶしに俺の付けているバンクルを弄っていると、ページが切り替わり、その文字が書いてあったのだ。

 それに、いつの間にかレイラの隣に書いてある親密度も44%に上がっていた。


「はい、いいですよ。多くはありませんが、確かに魔力はありますね。身体つきも悪くありませんし。それではこちらで編入の手続きをさせて頂きます」

「お願いします。それで、この画面に書いてあるウィンドって何ですか?」

「それが貴方の行使できる魔法になります」

「これだけですか?」

「ええ、そうですね。というより多くの魔法を使える人の方が少ないですが」


 色々出来るんじゃないかと期待していたのだが、一つしか魔法が使えないことに少しがっかりした。


 まあ、どんなものも使いようか。……てか、俺なんであんなに身体触られたんだろう?


 お姉さんは相変わらずニコニコしている。


 深く突っ込まない方がいいんだろうな。


「お住いの方ですが――」

「寮希望で!」


 がっつく様に前のめりになり、お姉さんも苦笑いになってしまった。


「かしこまりました。では、空いている寮は……307号室ですね。こちらが部屋のカギになります」


 お姉さんからカギを受け取ると、身体から力が抜けてしまった。

 この世界に来て、住む場所がないという不安が消えたからだろう。


「学園の方は明日からという事で、これで手続きは終わりです」

「ありがとうございました!」


 受付のお姉さんと別れ、学園の門からこれから自分が通う学び舎を見る。

 これから始まる学園生活に年甲斐もなく胸の高鳴りを感じてしまった。


 何か、新しいギャルゲーを買った時と同じ感じだな。


 そんなことを思い、俺は明日に備えるべく胸を躍らせながら寮へと向かった。

 まだ見ぬ、女の子との出会い。ふと、色々なゲームのシチュエーションが頭に過る。

 レイラに釘を刺されたくらいで止まるほど俺の決意は弱くなかった。

 

 さて、明日から本番かな!


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