第39話 反撃
俺は縄を解いてもらい、両手両足が自由になると、エティの縄だけを男に警戒しながら解いた。
「ここにいる人たちの縄を解くの頼めるか?」
「うん、問題ないよ」
「よし、頼む! 自由になったやつからどんどん手伝ってもらえばすぐに終わるはずだ」
全員を解放するには時間が掛かるため、後を託す。
再び銃を構えていた男に向き直った。その男の顔はよく見ると憔悴しきっていて、目の下にも酷い隈ができており、肌もボロボロだった。
「なあ、あんたらは反魔法団体の連中でいいんだよな?」
「…………ああ、そうだよ!」
奪った銃口を向けると、キッとこっちを睨みながらもぶっきらぼうに問いに答える。
「なら、引っかかってたことがあるんだが、お前らって魔法師になんらかの因縁があって集ってるんだよな? だが、最初にお前らのリーダーと思われるやつは魔法を行使して攻撃を仕掛けてきた。なあ、お前らさ、一体何がしたいんだ?」
魔法を使えないものの言い分は分かる。だが、その中に魔法師が混じっていることがどうしても聞いてみないことには分からなかった。
「あの方たちは違う! お前らごとき化け物と一緒にするなっ! あの方たちは神が我々のために仕わせた危険な魔を裁く力をもった方々だ!」
息も荒々しく男は興奮気味に叫んだ。
俺は冷酷さを印象付けるため、銃口を相手の眉間に突きつけた。
「声は抑えろ」
男がゆっくり首だけ縦に振った。
「こんなところで時間を無駄にしてられないからな、単刀直入に聞く。お前らが襲ってきた目的は?」
「……俺たちはただ自分たちの居場所が欲しかっただけだ。一部の者だけが優遇される世界なんておかしいじゃないかっ……!」
悔しさをかみしめるようにそう声を漏らした。
そこに嘘があるようには思えず、だから一層浮き彫りになる疑問。
それは鬼講師と向かい合っていた頬に十字の傷がある男のことだった。
「そうか、じゃあお前らのリーダーって頬に傷があるあの男、だよな? そいつの目的もちゃんとそこに統一されてるのか?」
俺は表情を伺いながら確かめるように尋ねる。
「当たり前だ!」
その声のトーンにやはり嘘偽りは感じられない。
だが、魔法師の男が魔法を嫌う団体の指揮を執っている時点で裏に何もない訳がなかった。
利用されてるのか……? マジでこれ以上時間かけてらんねえ。
俺は魔法で最初の男のように魔法で吹き飛ばし気絶させた。
未だ静寂が支配している部屋の中で、ここに集まっている全員の視線だけが俺に向けられている。一時的ではあるものの、危機を脱した功労者をこの場の全員がリーダーとして認めているようだった。
外に声が漏れない程度にボリュームを気遣いつつ、パニックに陥らないように注意を促す。
「皆、聞いて欲しい。先ず声を出すのは控えてくれ。それから今解いてるが、その解いた縄でまたすぐに解けるように自分の手足を軽く縛っていてくれ。不安なのも分かるが皆にはまだここに留まっていてほしいんだ」
その言葉に不安そうな顔を見せるものも当然多数いるが、俺はさらに言葉を紡ぐ。
より安全に全員でこの場を乗り切るために。
「大勢で動くのは目立ちすぎるから単独で動きたい。だから俺の言う通りに今は動いて欲しい。先ず、そっちの男を誰かの縄で手足を思いっきり強く縛ってくれ。魔法を詠唱されないように布で口を塞ぎつつ、二人以上の人間が傍らで待機。抵抗するようなら殺さない程度に殴って大人しくさせていい。もう一人の男は魔法を使うことができないし、縄で縛る。これも二人以上で見張るだけでいい。ただし、縛る時は手が後ろに来るようにだ。手出しをしないようなら、その状態で立っといてもらうんだ」
俺は考えられる限りの対策を口早に説明する。
「それだけでもしこっちに誰か入って来ても相手の油断を誘える確率が高い。入口付近で数名待機しそこを死角から襲え。失敗は命に関わるから慎重且つ確実に行ってくれ」
その言葉は脳裏にこびりついた鬼講師の光景を学生たちに鮮明に思い出させてしまったことは顔色を見るだけで分かった。
「俺がこっちに戻る時は、ノックを四回する、それ以外は敵と思っていい。じゃあ、ここは任せた」
極力声を出すのは避けたが、大声を出さなかったわけじゃない。それにも関わらず、この場に誰も駆けつけないということはおそらくこの建物の付近に人はいないと予想できた。少なくとも入口の前には立っていないはずだ。
俺が扉から出ようとした時、後ろから声を掛けられる。
「お兄ちゃん!」
その声の主はエティだ。
「エティね、こんな時だっていうのにお兄ちゃんと一緒に行けるほど強くもなくて、また甘えちゃってる」
「妹なんだろ? ならそれでいいんだよ」
俺が軽い感じで言うと、エティは首を横に振った。
「それじゃ、嫌だよ。でもエティが行ってもお邪魔虫にしかならないのも分かってるから。だから――うっ!」
少女らしからぬ決意を秘めた眼差しを向け急に表情を歪めると、歩いてきたエティが目の前で転んだ。
「大丈夫か!?」
俺が腰を曲げ、エティを立たせようとすると、その瞬間――ガバッ! エティがものすごい勢いで顔を上げる。その唇から血が出ていると思ったら……。
「――――っ!?」
瞬間温かく、柔らかいものが唇に触れた。その勢いの激しさに少し歯を打ったが、今はそれどころではない。
目前にあるのはエティの顔。自分がキスされていることに気付いたのは唇から温もりが失われたときだった
「エティ――ッ!? これって結婚――」
「このくらい力になりたい。このくらいしかできないから……えへへ」
俺の言葉を遮ると、そう言ってエティは頬を染めつつ、ちろっと舌を可愛げに出していた。
いきなりで驚いたもののその行動を咎めることはしないでおく。いや、咎められなかったというべきか。エティの表情に反し強く握り締められた手が彼女の意思の強さを表しているように思えたからだ。
「――っ。はあ、一応俺はお兄ちゃんなんだろ? こんなこと兄妹でダメなんだぞ」
俺はエティの頭の上に手を乗せ、緊張を解すように優しく撫でる。
「ありがとな」
兄妹の超えちゃいけない一線を越えたんじゃとか思っちまったが、本当に心配してくれてたみたいだな。
ここに恋愛感情が介在していたら大変なことになるのは目に見えているが、そこにあるのは兄を心配してできることをやる妹の姿だった。
「うん。でも、エティじゃ魔力も大したことないからお守り代わりだよ。お兄ちゃん、無理はしないで気を付けてね」
「ああ。これは効き目がありそうだな。」
エティはここだと魔法を得ても何を使えるのか分からないと思ったのだろうが、その点は心配いらない。
出る前に入り口前でバンクルを確認すると、そこにはやはり新しく魔法が追加されていた。
これは……。
俺はたった今手に入れた魔法を試しておく。
「シャドウ」
「お兄ちゃん!?」
使った瞬間エティ以外からも声が上がっていた。
成功したか?
「お兄ちゃんシャドウなんて使えたの! すごい、こんな完璧に気配を消せるなんて」
成功、か。こんなにエティは褒めてくれてるが、経験上この魔法が凄いのは当然と言えた。エティのおかげで手に入った魔法なのだから、親密度=パワーアップと仮定するなら今までで一番の出来なのは言うまでもない。
俺はエティの兄のことを思いながら心の中で語りかける。――これが家族の絆の力ってやつらしいぜ。
「ああ、じゃあ、行ってくるな」
この状況で最高のお守りを授かると、俺はレイラたちを助けるべく、外に出た。




