第38話 襲撃
合宿二日目。
予想通り筋肉痛に苦しみながら再び訓練に望むこととなった。
筋肉痛は『ヒール』では回復できないらしい。
筋肉が軋み、悲鳴をあげながらも昨日と似たようなトレーニングをひたすら熟した。
魔法師らしからぬこの特訓は俺たちを見ている鬼講師の考え方からきているものだ。
強い魔法は強い精神にこそ宿る。その傍迷惑な考えがこの合宿で如実に反映されていた。
「よし、休憩! 20分後にまた再開する。それまでしっかり身体を休めろ」
鬼講師のその声に半数ぐらいの生徒が「ふぁーい」と疲れ切ったように返答していた。
無論俺もぐったりして、その場に座り込むと額に脂汗を滲ませつつも足取りはしっかりしているレイラが俺の様子を見に来る。
「ダイキ、アンタそんなんで身体もつの?」
「誰の所為だと思ってんだ? 筋肉痛さえなければもっと楽だったのにな」
昨日と違って周りは万全の状態で臨む中、俺だけが筋肉痛というハンデを背負っている為、俺がフラッグを取れずひたすらダッシュさせられるこの未来はある意味必然とも言えるものだ。
スク水姿のレイラがナディアと比べれば控えめではあるものの、屈むことにより強調された双丘の膨らみに思わず視線を背ける。
「グチグチ言わないの、男でしょ!」
「いてててっ」
そう言って俺の鼻先を摘まんできた。
そのすぐ後にレイラは頬を赤色に染める。
「ま、まあ、わたしにも少しは責任あるかもだし、ま、マッサージくらい特別にしてあげるわ。勘違いしないで欲しいんだけど、それ以外に意味なんてないから」
レイラにうつ伏せになるように指示され、黙って言われた通りに従う。
マッサージ……レイラが俺を……?
年甲斐もなく顔に熱がこもっていくのが分かった。
「じゃあ――触るわよ?」
俺が生唾を飲み込んだ時だった。
「きゃあぁぁぁぁっ!」
それは女生徒の悲鳴だった。浮かれ気味だった俺の気分はその声で無理やり現実に引き戻される。
「何者だ、お前たちは!」
続く講師の声に俺もそっちを振り向く。そこには迷彩服で身を包んだ異様な一団の姿があった。
質問に答えようとする意志も感じられず生徒に手を出そうとする謎の集団に向かって鬼講師が顔を普段以上に険しくさせる。そして痺れを切らしたのか力づくで撃退しようと一歩踏み出した。
「許さん! サウザンド・フリーっ――ッ!?」
「やめておけ。生徒に危害を加えたくないのなら、な。ストロングボルト」
「くぁああああ――っ」
鬼講師は雷撃の直撃を受け、膝を折り、そのまま地面に倒れたあと、動かなくなる。身体からは黒い煙を放ち、その光景は俺から見てもどこか現実離れしているようで、それでも焼けた肉の臭いだけがやけに現実味を帯びていた。
精神的に未成熟な学生たちの内面的傷は計り知れない。
右の頬に十字の傷がある男は低い声で、且つ最も効率的な方法ではっきりとこの状況を分かりやすく伝えてみせた。
「これは……まずいな……」
こんなことになる可能性って低かったんじゃねえのかよ!
何かあったら宜しく頼まれてるけどこれじゃどうしようもない。
「あいつら……あいつら何なのよっ!」
レイラも隣で拳を握りしめ歯ぎしりしながらもその場を動かず黙って見守っている。この状況で動けるものなどこの場にはいなかった。
「よし、お前ら。取り掛かってくれ」
十字の傷を負っている男がリーダーなのか、その男の一声で他の仲間も一斉に動き出した。ロリコン団とは一線を画した相手の雰囲気が逆らう気力すら失せさせる。動いたところでいい未来が見えず、大人しく相手の様子を窺うことにした。
なんだ、あれは……?
迷彩服を着ている奴全員が懐から小型の黒い機械を取り出し、それを生徒に当てていた。その機械を当てた後に首輪のようなものを付けられる生徒もいればそうでない生徒もいる。
いち早く行動していたのか、ナディアとリネットもすぐ近くにいたのだが、その二人も機械で何かをされた後首輪を付けられていた。
爆弾か……?
殺すことが目的だとしたらどうも効率が悪い、その行動に相手の目的を考えていると迷彩服を着たやつが俺たちの前にも来た。
先ずレイラが首輪を付けられ、俺も付けられると思ったのだが。
「この程度なら必要ないな」
機械に表示された結果を見てそう呟く。
「お前には掛けないが変な気は起こすなよ? あいつみたいになりたくなければな」
鬼講師にチラッと視線を向け、下っ端と思われる隊員が脅してくる。
首輪を付けている生徒とそうでない者に分けて列を作らせていて、俺を付けていない方の列まで誘導しようと強引に手を引いてくる。
「ダイキ!」
レイラが叫ぶが俺は首を横に振り、大人しく従った。
全ての生徒を小型の機械で測定し終えたのか、俺たちは更衣室代わりに使われていた建物に収容された。
部屋には肌が痺れるくらいピリピリとした緊張感が張りつめている。
首輪が付けられなかった生徒は全員この部屋に集められていて、迷彩服を着た奴らが変な行動を取らないようにと見張っていた。手足を縄で縛られた生徒たちの顔には絶望感が色濃く見えている
一通り室内を見渡した。
数は……二人か。
部屋の両端に対照的な位置取りをしている。片方は銃を握っていてその目に見える分かりやすい暴力がこの部屋で異質な存在感を持っていた。
「うーなんで俺がこんな目に遭うんだよぉ」
一人の生徒が弱音を吐いた。すると、近くにいた銃を持っている男が吠える。
「お前らが、お前らが悪いんだ! お前らみたいな化け物が存在するからこんなことをしなきゃダメなんだよ」
持っていた銃身を床に叩きつける。
呻いていた男子生徒は泣きながらもそれきり口を噤んだ。
化け物……。
俺はこっちに来る前にナディアの言ったことを思い出す。
『お前らみたいな化け物がいるから』――その言葉に相手の正体が反魔法団体ということは確信できたのだが、一つ引っかかることがある。
はぁ、これなんてゲームだよ。俺が求めてんのはギャルゲー的展開であってこんなヤバそうな奴らとバトることじゃないっつーの! くっそ、どの道あんまりもたもたやってらんねえな。
俺がその場で一人立ち上がる。
その突然の行動にエティの双眸が見開かれるのが分かった。
そしてすぐさま近い方にいる銃を持った男に向かって三割程度に抑えた『ウィンド』を放つ。
「ぐっ!?」
ふわっと身体ごと持ち上がるようにして尻もちをつき握っていた銃が手元を離れる。それと同時に俺は反対側にいたもう一人の見張りに半分の力で加減された『ウィンド』を放った。
相手も魔法を詠唱しようとしていたらしいが、ナディアと比べ止まっている敵ほど倒しやすいものはなく、中級程度の魔法を発動しようとしたその男は壁に身体を強く打ち付け意識を手放す。
これでこっちは片付いた。後は……。
怯えている銃を持っていた男に俺は微笑んでみせる。
「変なことはするな。お前に聞きたいことがある。……その前にこれ外してもらえねえか?」
俺は両手を縛っている縄を男に見せた。




