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第35話 反魔法団体

「ダイキさん、このことはリネットさんには伝えたのですが、一応ダイキさんにも直接伝えておこうと思いまして」


 俺は、講義が終わり寮に帰ろうとする途中でナディアに会い、人にあまり聞かれたくない話があるからと生徒会室に来ていた。


 せっかくの放課後二人きりの空間だというのに、そこに甘い空気は一切ない。


「最近、反魔法団体の動きが活発化しているみたいなんです」

「反魔法団体……?」


 言葉の意味を確認するために聞き返した俺の顔を見て、何故かナディアが苦笑いになる。


「ダイキさん。これ、魔法を扱えるものとしてこの学園に通うものなら初等部から知っていなければならないことですよ」

「そうなのか……まあ、こっち来たばかりってことで大目に見てくれよ。それで結局その反魔法団体ってのは何なんだ?」

「反魔法団体というのはですね、簡単に言ってしまえば魔法という本来なら人にない力の行使を嫌う者たちの集まり、ですかね。魔法師が優遇されているというのは事実ですからその格差に不満を抱くものは当然ですが少なくありません」


 なるほどな。魔法を使えないものからしてみれば、確かに恐怖の対象でしかない。使う魔法によっては簡単に人の仕事も、人の命も奪ってしまう可能性があるんだからな。

 それに働くとして個人で考えた時、魔法が使えるものと、そうでないもの――比べるまでもなく前者の方がリターンが大きく見込めるのも事実。そんな世界で差別が生まれないわけがない。


「大体は理解した。それで、さっき言ってた活発化ってのは?」

「グローリア祭の後くらいから、一般生徒の中で不審者の目撃情報がいくつか生徒会の方に寄せられているんです。それだけにとどまらず昨日、当学園の男子生徒が一人襲われました」

「それは……穏やかじゃないな」

「他の生徒が早い段階で気付き、軽傷で済んだので、わたくしもその生徒から話を伺ってみたのですが、その生徒が狙われたことに思い当たるところもないらしく、ただ暴行時に『お前らみたいな化け物がいるから』とか言われたそうなんです」


 魔法師を化け物と揶揄するのは魔法を嫌う連中。そこから反魔法団体と相手を割り出したのは分かる。分かるのだが……。


 率直な疑問をナディアに尋ねる。


「なんとも勝手な話だねぇ~。そいつらはどうして最近になって急に動き出したんだ?」


 ナディアが自分の考えを纏めているのか、口元に曲げた人差し指を当てる。当てていない左手は自分の身体を抱くようにしていてその姿勢がまずかった。スタイル抜群なナディアは無意識に自分の右腕をその豊かな胸に半分埋めてしまっているのだ。

 その強調される部位から顔を背け、俺は目のやり場に困り仕方なく俯いた。


「考えられる理由は二つでしょうか。一つはこの前のグローリア祭です」

「グローリア祭が?」


 俺の疑問に答えナディアが頷く。


「はい。この学園は一般の方にも少しでも魔法のことを知ってもらえれば、ということで特に入場も制限してはいません。ですが、ここで重要視されるのが魔法についての理解のされ方になります」

「というと?」

「極論で言ってしまえばですね、個人の主観で魔法は正義にも悪にも見えてしまうんです。そしてわたくしがグローリア祭を理由の一つに挙げたのが、『わたくしとダイキさんとの魔法戦が魔法を良く思わない人たちを刺激してしまった』という可能性があるからなんですよ」


 自分が持たない力に憧れや理解する気持ちがあればいいが、その逆で力の正体も分からず理解もできない者からすると恐怖の対象でしかないってことか。

世の中皆が中二病ならそんな悩みもなかっただろうに。いや、それはそれで色々と深刻な問題にぶち当たりそうな気がするが。


「そういうことか。もしそれが原因だったら悪い。あの状況作ったの俺だしな」


 俺が謝ろうとすると、ナディアが手でそれを制した。


「それは気にして頂かなくてもいいですよ。乗ってしまったわたくしにも非がありますしね」

「そういうことにしといてもらえると少しは楽になるよ。じゃあ、もう一つの理由は?」

「明後日から学園全体で行われる合宿。それに合わせて何らかの行動を起こそうとしている――これもあくまで可能性の話ですけど。昨日襲われていることは事実なのでできるだけ一人にならないように注意を促すくらいしか現段階で打てる手立てはありません」

「…………」


 今、学園全体でなんだって?


「ダイキさん? どうかなさいましたか?」


 どうやらおれが急に口を噤んだことが気になったらしい。そんなナディアが小首を傾げ俺の様子を窺ってくる。


「合宿って? 今、学園全体とか聞こえた気がしたんだが」

「言いましたね」

「……それって、もしかして俺も参加だったり?」


 予想通りではあったがナディアが首を縦に振り頷いてみせた。


「スケジュール自体は結構前から出ているはずなんですが……。それにこの時期なら、講師の先生の口からもよく聞くはずですよ」


 それぐらいで俺に伝わると思われちゃ心外だぜ。やりたいギャルゲーの情報くらいしか頭に入れる気がないのが俺クオリティーだからな。


 俺はそっぽを向きナディアの言葉を笑って誤魔化した。


「はあ、全くあなたという人は……。今ここで授業の態度をどうこう言うつもりはありません。その代わりと言ってはなんですが――」


 何か嫌な予感がする。


「万が一、合宿の最中に何かあった時は宜しくお願いしますね」


 やっぱり。


 俺はすぐにでも耳を塞いで生徒会室を出なかったことに後悔した。


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