第26話 ダイキVSナディア
ナディアが出て来るだけで今までと変わらない魔法戦の会場がアイドルのステージと化す。
当然かもしれないが、俺を応援する声が全く聞こえないぞ……。
「最高の場ってこういうことでしたか。ここに立ってしまった以上こちらも加減はするつもりはありません。無駄を承知で一応お尋ねしますが降参しては頂けませんか?」
「無駄って分かってるのにわざわざ聞くなよ」
「そうですか……」
「お二人とも準備はよろしいですね~。ではでは、始めましょう~。バトル~」
ナディアが構えるのに合わせ、俺も全神経を集中させる。
負けたら意味ないからな、最初からこっちも勝ちに行かせてもらうぜ。
「始め~!」
サッ――。
少女の開始の合図とともに、ナディアが先に動いた。その動きは――早い。
いつの間に距離を半分まで詰められていた。
風を利用して加速してるのか。
ナディアのセミロングの銀髪が人工的な風により不自然な動きで舞う。俺もすぐ迎撃しようと。
「ウィンド!」
激しい広範囲の風で一気に勝負を決めにいったのだが。
「これが初見なら危なかったかもしれませんね。ですが、既に何度も見せられていますので」
少し態勢を低くしたナディアは自身の前に氷でできた盾のようなものを作り出す。
魔法の発動の速さも今までの奴なんかとは段違い。無詠唱で魔法が出せるというのもタイミングが計りにくく、戦い辛い。でもそれより驚かされたのはナディアが氷の魔法を使用したことだ。
講義で既に基本は火、水、雷など魔法には属性があることは習っている。そして基本的に魔法が使える人間でも使用できる魔法は一属性。だが、稀に一人の人間が二つの属性を持つことがあるらしい。
風と氷。この二つを目の前で操ってみせたナディアがまさにそれだ。実は俺も風と回復の二つを使えはするが先天的に持ってる才能とは違う。
「無駄だ!」
ナディアが作ったとは言え、所詮は下級魔法だ。俺の生み出した風はその氷の壁を打ち付け破壊し、そのままナディアも吹き飛ぶと思っていたのだがそうはいかなかった。
氷の盾が死角になり見えなかったのだが、同時に生成したのか、ナディアの手には氷でできた剣があり、それを地面に突き刺すことで耐えていた。
「受けてみて実感致しましたが、やっぱり威力が普通じゃありませんね」
ナディアが今まで常に感じさせていた余裕がその姿を消しつつある。
「よく耐えたものだ――よっと」
風の弾丸を高速で移動しつつ色々な角度から的確に俺目がけて飛ばしてくる。
ナディアはすぐさま態勢を立て直し、近接攻撃が危険と判断したのか遠距離に切り替えてきていた。
「ほい、よっ、おっと危ねっ」
動きが早くとも直線的攻撃。躱すのもそう難しいことではない。俺が思いっきり真横にジャンプして避けると、足がつく前に着地地点とその半径1メートルほどを凍らせた。
ツルッ――。
スケートなどがからっきしの俺はストンとそのまま滑りこける。
「フリーズレイン」
そのまま頭上から氷の雨が降ってきたがそこはウィンドで何とか対処できた。少し複雑な魔法は詠唱するようだが、それでも早い。
ナディアの多彩な技と比べ、風以外は回復しかできない俺は予想外に苦戦を強いられる。
少女が繰り出す技の数々に会場も盛り上がっていた。
「周りの声聞こえるだろ? ちゃんと盛り上がってるじゃねえか」
周囲の声にこうして耳を傾けてみると聞こえてくるぜ。
「生徒会長いいぞぉおおおおおっ! そんな男やっちまいな!」
「ナディア先輩素敵でーす! 頑張って下さーい!」
「ナディア会長ー! 負けないでー!」
ああ、聞こえる。ナディアを応援する声が。
「ええ。貴方はあまり人気がないようですけど」
「うっせぇ」
ナディアがキリッとこっちを睨むように見てきた。声援に男子も混ざっているからなのか見た感じではご立腹の様子。まあ、こんな場所に無理やり立たせた時点で機嫌がいいわけないのだが。
あれがガチのナディア。いい顔になってきたじゃねえか。
「では、そろそろ終わりにさせて頂きます」
「来い――――よ。って、おい!」
俺の言葉を待たずしてウィンドと唱えやがった。おそらくわざと。純白の手袋の先から出る風の弾丸は俺の持ち技でもあるウィンドボールだ。
俺もそれを正面から同じ技で向かい打つ。風の弾同士がぶつかり合うが、俺の技の威力の方が強く、ナディアの魔法を弾き、そのままナディアの足下を通る。
こうなることが分かっていたナディアはスカートが捲れないように左手で押さえながら跳んでいた。さらに空中で右手を正面に構えている。
「フリーズ――ストーン!」
突然出来上がった不自然な影に真上を見ると、なかなかに重量のありそうな物体が落ちてきた。
だがこれも、ウィンドボールで落ちついて対処。撃ち抜いた時の威力で破片が周囲に散らばり、キラキラと陽の光に反射するそれは、この戦場において皆の目にとても幻想的に映ったことだろう。一人を除いて。
「そこっ!」
ナディアの掛け声と同時にそこら中に舞っていた粒の一部が俺を襲った。
――か……ぜ……?
最初の氷でできた剣と盾の魔法が頭に過る。間違いない。できるんだ、ナディアは。一回の魔法で二つ以上のことを同時に。
「くっ」
気付いた時には遅く、俺の目に粒が入る。
くそっ!
目にひんやりとした異物が入る気持ち悪い感覚に強く目を瞑る。すぐに目を開くと熱で少しだけ溶けてるのか水で滲む歪んだ世界に何かが、ぼんやりと近づいてくるのが分かった。
ナディアが迫っていることは想像に難くない。
ここで負けたら本当に何の意味もないぞ。これから先チャンスだってもう訪れないかもしれない。日本でも異世界でも駄目。そんなのは――嫌だ。
何度も何度も行きたくなかった仕事。でもギャルゲーのためなら、まだ見ぬヒロインのためなら頑張れた。
そんな俺がこっちに来ても新しい目標ができたんだろ……?
最初は小さい願いだったよ。普通に女の子と付き合ってみたい、そんな浮気じみた背徳的な考えもあったさ。でもな、そんな小さい夢じゃやっぱりギャルゲーには失礼で、だからこの世界ではそれに釣り合うようなでっかい夢を――ハーレムを作ろうって決めたんだ。
――終われない。終われるかよ、こんなところでさっ!
何をしようとしているのか分からず、残された時間もわずかというこの状態。取れる手段も限られそんな中で、迫りくるナディア。今できることを全力で――これが俺に残された最善の手だった。
「ウィンドォオオオ――ッ!」
凄まじいゴォオオオと吹き荒れる風の音が観客の声までも掻き消す。流石のナディアもそれを避けれず。
「これは――きゃっ!」
曖昧な視界の中、点ではなく面で攻めた全力の一撃。袖口のバンクルもこれまでにないくらい光を強く発している。
俺の魔法で軽々と吹っ飛んでいったナディアは用意されたリングの外まで投げ出され、背中を地面に打ちつける前にもう一度ウィンドで風のクッションをつくっておいた。そしてそのままゆっくり地面にお尻を着く。
視界を取り戻した俺はそのままナディアの方に向かった。そしてリング内から尻もちをついたような状態になっているナディアを見下ろす。
「俺の勝ちだな」
「そのよう……ですね」
ナディアも俺を見上げ、目を閉じ、そう答えた。
周りも予想外の結果だったのか少しの間静まったまま。そして女生徒が慌てて自分の仕事を思い出し、8と書いた看板を上に掲げた。
「まさかの勝者は~スルガダイキ選手! 本当に素晴らしい試合を見せてくれた二人に拍手を!」
まさかのとか言っちゃってるし。
うおぉおおおおお!
台風の如く激しい大勢の人の歓声や拍手。その目の中に俺たちは二人きりでいた。




