第25話 魔法戦
今まで学祭のノリでその場任せに動いていたが、外にはこの祭り唯一の俺が予め考えたナディア攻略プランがある。
ナディアに変わって生徒会室の書類を書いてるときに見つけてしまったものだ。
「あれに参加しないか?」
俺が指さした先を見るが、ナディアの反応はあまり良くない。
「いえ、わたくしは。それにしても意外ですね。ああいうのがお好きなイメージはなかったので」
「いや、まあ食ったり、突っ立ってただけだからな。少しは身体を動かしたいと思っただけだよ」
このナディアの反応も予想できなかったわけじゃない。乗り気じゃないなら、その気にさせるか、そうせざるを得ない状況を作ってやればいいだけだ。
「見てるだけってのも暇だろ? 参加しようぜ! それとも自信ないのか」
俺が奥の魔法実技などでよく使われているグラウンドの方に立ててあるデカい看板を指す。『魔法戦』とでかでかと書かれた文字。そこにも当然人が集まっていたが、ほとんどは観客だろう。
「その反対ですよ。せっかく盛り上がっていますのに、それをわざわざわたくしが行って水を差すこともないでしょう」
「自信過剰なんじゃないか?」
「客観的に見た事実ですよ。それにわたくしが見せ物みたいになるのを嫌っていること知っていますよね。なのに誘ってくるってスルガさんもいい性格していると思いますよ」
「今更だな。じゃあとりあえず最高の場を用意するとしますか」
「え? それってどういう――」
「ちゃんと見ててくれよ!」
ナディアの話もロクに聞かず、俺はその魔法戦に参加しに行く。
ここの魔法戦はトーナメント戦ではなく、勝ち抜き戦だ。勝ち続ける限りはずっと用意されている15メートル四方のリングの上で戦うことができる。景品等は無く、戦いに自信のあるものが自身の腕を試す場所といった感じだ。戦い方も生徒会室でルールを見た限りでは魔法も格闘もありで、物を使うことだけが禁止されている。勝利条件はリングアウトか降参と相手に宣言させることだ。
「くぅああああああっ」
俺が行った時に丁度痩せ気味の男が一人リング外に吹き飛ばされる。
「おいおい、その程度かよ。もっと骨のある強い奴はいねえのか?」
未だリングの上に残っているツンツンに髪を立てた体格の良い茶髪の大男が腕を組みながら見下すようにして分かりやすい挑発をしていた。
そんな男がさっきフィニッシュに使用した技は張り手だ。
「お次の挑戦者はいませんかー」
看板を上に掲げチアガールのような衣装をした女生徒が次の参加者を募っている。その看板には6という数字が主張するように大きく書かれていた。
次の挑戦者がリングに入るも同じような倒され方をされ、女生徒の持っていた看板の数字が7に書き換えられる。
7連勝か。魔法ありの世界とは思えないほど格闘――てか相撲の試合みたいだな。
試合を見る限り、魔法を出される前に近接戦に持ち込むというのが相手の必勝パターン。魔法を発動しても恵まれた体格を武器に下級魔法を正面から耐え、自慢の一撃でリングの外に押し出している。
こりゃ、楽勝だな。
「この記録はすごーいっ! ではでは~お次の挑戦者はいませんかー?」
そろそろ今までの試合を見て周りは消極的になってきたのか、手を上げるかどうか迷っている奴が多いだけで、上げそうなチャレンジャーはいないようだ。相手の勝利数とこれまでの戦い方を見たことで皆同じ負け方をするのが見えてしまっているのだろう。勝つビジョンが見えなくなっている様子は見ても明らかだ。試合を見たことで逆に俺は負ける気がしなくなったのだが。
「はい。次は俺で」
「ではでは、こちらに来てもらえますかー」
俺は言われた通り、女生徒が指している場所に立ち相手を見据えた。
男とこうやって目を合わせるのってなんか久しぶりだ。店長にクビを言い渡された時を思い出すな。
比較的というか、この世界に来てほとんど異性としか話していなかったことに今更ながら気付かされた。
やっぱり、男の視線の方が安心できる。
「おいおい、こりゃまたひょろい兄ちゃんが来たものだぜ」
おいおい。何でもいいけどさ、さっきからおいおいうるせえよ。
口調や見た目からも分かるが相手は学園の生徒ではなく、学外から来た男性だ。もしかしたらこの学園の卒業生なのかとか思いながら、7メートルくらい先にいるその男に微笑んでおいた。
その顔が癇に障ったのかムッとした表情でこっちを睨んでくる。
「ではでは始めましょう。バトル~始め~」
緊張感のない緩い声が試合開始を告げた。それと同時に相手の男が馬鹿正直に真正面から突っ込んできた。これが俺の挑発が功を奏した結果なのか、最短距離で俺に接近したかったからかは分からないがおそらく両方だ。
読みやすい動き、相手の油断、体格に物を言わせただけの相手に負ける気がしなかった。
それに俺とこの男じゃ相性最悪だしな。相性が悪いのは相手の方だけど。
「どりゃぁああああっ! もらったぁああああ――っ!」
元々開いてる距離。これだけあれば十分過ぎた。
「ウィンドボール――ッ!」
「フンッ!」
俺が右手を前に突き出し、その手から繰り出されるように風の弾丸を相手に放った。
下級魔法なら出せるが、中級以上の魔法を出すには厳しい距離だ。だから最初の下級魔法による一撃を耐えようと全身に力を込めたのだろうが――そんなこと俺には関係なかった。
「なっ!? ぐああっ!」
俺の魔法に直撃し、短い悲鳴と共に相手はすぐにリングアウト。見ていたギャラリーも何が起きたのかとじっと数秒の沈黙が続いたのだが。
「おっと、ようやく連勝記録が止まったー! 次からの相手はこの青年だー!」
女生徒がその僅かな静寂を破り捨てた。持っていた看板も書き換えられ、1という数字が書かれている。
「次は俺だー!」
「いや、俺が次に出よう!」
相手が変わった瞬間にまた次々と挑戦者たちが沸きだす。さっきの近接特化と違い、魔法での戦いならと思った奴らが参加を申し出てきているのだ。俺の勝利をまぐれと言うやつもいる。
そんな中、ナディアは後ろの方で遠くから静かにこっちを見ている。
「ではでは、ここからまた新たな選手と試合の始まりだ~! これまでの最高連勝記録はたった今破れてしまいましたが、圧倒的な体格差で勝利数を積み上げてきたレックスさんの7連勝~。これを抜くことができるでしょうか。そこの青年! お名前を~どうぞっ!」
俺が倒した奴が今日の最高記録だったらしい。俺はにやりと笑うと、それっぽく拳を掲げ名乗ってみせた。
「俺は駿河大輝だ。どんどん挑戦よろしくっ!」
「おっと、スルガダイキ選手。余裕そうな表情っ! 自信満々といった感じだ~。ではでは次の挑戦者に来てもらいましょう! お次の選手は貴方!」
とりあえず、舞台作りといくか。先ずは7勝!
俺は対戦相手がこっちに来るのをため息を吐きつつ待った。ああ、長い!
「決まったぁ~。ん~これで最高記録に追い付きました。只今のスルガダイキ選手の記録は7連勝! レックスさんと並んだ形になっています。この勢いで残り1勝を制し、最高記録を更新するのか~。ではではお次の挑戦者いませんか~」
ここまで来るのに予想していたとはいえ、本当に何の苦労もなく勝ち残ってしまった。これまで使用した技もウィンドかウィンドボールのみ。いずれも簡単な下級魔法に過ぎないものばかりだ。もっともそれは普通ならの話だ。
俺が行使する下級魔法は下級であって下級に非ず。ここで使った魔法の威力はどれも中級の威力に達している。
レックスの時と似たような感じで、周りが出るかどうか迷っていて最初ほどすぐに名乗り出るような奴はいない。
環境は整えた。これでいいか。
俺はナディアの方に身体ごと向け、この場にいる全員に聞こえるよう叫んだ。
「次で記録更新なら、相応しい壁があっていいんじゃないか? やろうぜ、ナディアせんぱーい!」
皆が一斉に俺の視線の先を追う。魔法戦に集中していた客がほとんどで今までナディアの――生徒会長の存在に気付いていた者はいないようだった。
「おっと~。まさかのスルガ選手~学園が誇るこの学園の生徒会長――ナディア・オルブライト生徒会長を自らの対戦相手に指名した~! 対する生徒会長の返事をお願いします!」
「このような催しに誘って頂けて嬉しいのですが、生徒会の方がいそが――」
このくらいじゃ断られることくらい予想出来ていた俺は。
「あれあれー? まさか学園の代表でもある生徒会長がこんなところで逃げたりしないよな~? 皆も見たいよな! 会長の戦う姿を!」
ナディアの言葉を遮り、全員を巻き込む。
周囲の反応はそりゃもの凄いことになっていた。男女問わず声を張り、ナディアの逃げるという選択肢を搔き消してしまうほどだ。
こんなやり方して後が怖いが、上手くやればいいだけのこと。今は気にするな!
ナディアはこんな状況だというのに最後まで美人の笑顔を崩すことなく、周りの言葉に耳を傾け、チアガール衣装の少女に向かって。
「わたくしでよろしければ」
そう一言告げた。




