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第18話 攻略の糸口

 俺のストーキングという名のナディア観察が始まり、三年の教室の中を覗いて回る。


「おっ、いたいた」


 一目で分かってしまう存在感がそこにはあった。

俺は不審がられないように誰かを待つ振りをしながら、チラチラとナディアの行動を窺っていると。


「やべっ」


 ナディアが席を立ち、こっちに向って歩き出してきた。


 早速気付かれたか……?


 ストーカーとしての才能がないんじゃないかと自分にへこみながらも左右を見渡す。

 だが、どこか隠れられそうな教室もなく走って逃げるには目立ちすぎてしまい下手に動くことは得策とは思えなかった俺は身体を反対に向け隣の教室に用がある風に装い、こっちに来ないようにとひたすら神に祈った。


 トン、トン、トン。


 遠ざかっていく足音に振り返ると、ナディアは反対側に歩いていた。


「はあ……」


 一難去ったことに胸を撫で下ろし、バレないように最善の注意を払いながら後を追う。

 途中すれ違う生徒に挨拶され、対するナディアも愛想よくそれに応えるというやり取りがあったが、他にこれといって気になることは何もなく少女は乙女専用のお化粧室の中に消えて行った。


 そろそろ時間か。


 朝の講義が始まる時間のため、とりあえず教室に戻ることにし、続きを昼に回す。


「朝の収穫はなし、と。まあ、まだまだこれからか」




 昼になると、レイラに『腹が痛いから飯はいらない』とだけ告げ、すぐにリネットのいた『3-B』の教室へ急ぐ。


 いた!


 どこかに向かう途中らしいナディアが廊下を歩いていた。


 この方向は……。


 付いていくうちに予想がついた。生徒会室だ。

 反対から来た男子生徒が両手いっぱいに購買で買ったと思われるパンをフラフラした足取りで持っていたが一つナディアのちょうど真横くらいの位置で落としてしまう。


 可哀想に……パシリか。


 勝手にその男子生徒のポジションを決めつけ、俺はそのままナディアを見ていたのだが。


「…………」


 あれ? 見えなかったのか? 気付いたような気がしたんだが。


 ナディアはパンを拾うことなくスタスタとその場を去っていった。


「ほら、大丈夫か」

「あ、ああ」


 俺は落ちたパンを上に乗せてやると。


「強く生きろよ?」

「え? あ、ああ。ありがとう……」


 とりあえずウインクしたあとナディアを追った。


 あれは何だったんだ? 本当に気付かなかっただけか……?


 前では未だ男女問わず、挨拶されるナディアの姿がある。

 俺はと言えばどうしてもパシリ君に対して取った行動が気になって仕方ない。ちょっと下がっていた俺でさえパンを落とした時の袋の音が聞こえたというのに、横にいたナディアが気付かないわけないのだ。しかも、人一倍他人を気遣う立場なのにも関わらずである。


 何人かサンプル――じゃなくて生徒と話していくうちに奇妙な違和感を覚えた。


 何かがおかしい。どこだ? 今日ずっと見てきた女だろ! 違和感の答えはこれまでのログになかったか。最初から思い出せ!


 俺が過去のナディアの行動を頭の中で再生している最中、ナディアが男子生徒に挨拶を返し、生徒会室に向おうと身体の向きを変えた時だった。


 これか!


 微かな動作の違いだが、男子と女子とでナディアの足の位置が異なる。


 普段ぼんやり見るだけでは分からないくらいのほんの少しの動きの違い。だが、その差が表す意味は大きい。


 ナディアが女子と話す時はしっかり相手と向き合う。だが、男子の時は全て行く方角によって変わるものの左右どちらかの足が半歩分下がっているのだ。


 そしてもう一つ今なら納得できることがある。

 何故かナディアはいつも白い手袋を付けていたが、それも理由を追求すれば最後にはナディアの不可解な行動に繋がるのだろう。


 ようやく見つけた手掛かりだ。


 俺は安堵していた。嫌われていた原因が改めて俺個人に向けられていたものじゃないと分かったことに。


 恐らく嫌いなのだ。男子のことが。いや、苦手という方が正しいのかもしれない。


 俺は生徒会室でボッチ飯でもするのだろうナディアを追いかけるのを止めた。


 ストーキングはここまで。次からやるのは攻略だ。



「ウィンド」

「ダイキも大分魔法の腕が上がったわよね。あのゴブリン男が成長したものだわ」


 午後の実技の授業中、隣でレイラが手を顎に当てながら、目を瞑ってうんうん頷いている。


「なんか、それ言われるのめっちゃ懐かしい気がするな」

「何しんみりしてるのよ。もしかしてそう呼ばれたいわけ?」

「そんなわけないだろ」

「……それで?」

「それでってなんだよ」


 レイラは頬を赤くしながら。


「だ・か・ら! 生徒会長のこと色々聞いて回ったりとかしてたんでしょ? 人の話も聞かず休み時間も一方的に言う事言ったらどっか行くしね。少しは生徒会長のこと知れたのかしら?」

「俺はあくまでこの学園のことを知りたいと思っただけだ。昼もやばかったからトイレに駆け込んだだけだしな」

「休み時間ずっと?」

「ああ、ずっとだ」


 おっ、これはもしかしなくてもやきもちってやつか。分かりやすい奴め。


 レイラはしばらく俺を睨みつけると。


「ファイア」


 俺の足元に火を点けてきた。


「あっつ! 何すんだよ!」

「弛んでたからちょっと気持ちに火を点けてあげたのよ! ふん!」


 気持ちっていうか、普通に足元に火点けてるんだけど。ちょっと裾焦げちゃってるんだけど。


 レイラはズカズカと分かりやすいほど大袈裟な足取りで遠ざかっていった。


「ヒール」


 俺は服を元に戻した後、ナディア攻略の作戦を考えることにした。


 よくよく考えてみればもっと簡単にこのくらいの答えには辿り着いても良かったのかもしれない。ナディアは普段から白い手袋を付けているが数々のギャルゲーを熟した俺ならここから推測することも可能だったはず。


 いつも手袋を嵌めているヒロインは潔癖症か、男性恐怖症がデフォだからだ。

 

「それにしても本当に弛んでるのかもな……」


 俺は奥で魔法の練習をしているレイラたちをぼんやり見つめながらそう思った。もしかしたら俺なんかよりレイラの方がずっと俺も含めて周りのことが見えているのかもしれない。


 まあ、気合も入れてもらったことだし頑張りますか!


 先ず最初に考えなければならないことは、ナディアが男性を苦手と仮定したうえでその理由を知ることだ。理由もなにもなく理不尽に嫌われていたらやりようがないが、全ての事には必ず原因と結果があるもの。

 重要なのはその原因をどうやって知るかだが――ナディア自身のことでさえこの学園で詳しく知るものはいなかった。事情を知ってる講師もいるのかもしれないが、たかだか一生徒にそんなことを教えてくれる訳もない。


 これ、元々選択肢は一つしかなくないか。いや、知ってそうな講師の弱みを握って脅して聞いてみるって手もなくはないけどさ。

 ナディア本人から聞くというのは駿河大輝という人間を覚えてもらうには有効なアプローチかもしれない。

 

 俺はこれが最善策と信じて。


「よし、やってみっか」


 ナディアの口から直接聞き出すことにした。


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