表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/41

第17話 迷走

 パンを全部食べ終えたレイラは、口元の汚れに気付いて恥ずかしそうにティッシュで拭うと、何事もなかったように話し出した。


「わたしが知ってる限りだと、生徒会長の印象はそうね。高嶺の花っていうのかしら。当然ながら成績優秀で魔法師としての腕だって国内でトップクラスの実力者。それに加えてあの容姿と性格の良さから学内での人気も圧倒的ね」


 ほおほお。出るわ出るわ。よく聞く生徒会長のステータスがてんこ盛りだ。

 ただ性格がいいってのはどうだろうな。あんな笑顔見せといて裏では何考えてるか分かったもんじゃない。親密度が分かっちまう俺だからこそそう思うんだろうけど。


「他には?」

「他? んー、ごめん。普段生徒会長と接する機会なんてないし、ホントにこんな事くらいしか知らないのよね」

「そうか」


 レイラが知ってるのは本当に表向きの恐らくナディアが意識的に見せている性格の部分だけだ。多分その辺の生徒に聞いたところで返ってくる答えはどれも似たり寄ったりのはず。


「はぁ」

「ちょっと何? 思った以上にがっかりしてない? やっぱり本当はハーレムってやつ諦めてないんじゃ――」

「学生の本分は勉強だろ? そんな余裕はなーい!」


 話が嫌な方向に飛びそうだったのをチョップで軌道修正する。


「痛っ! 何すんのよ、もう」


 レイラは少し乱れた髪を手櫛で整えながら頬を膨らませている。


「ハエが止まってたんだよ」

「ハエ……? 何意味わからないこと言ってんのよ。ってかアンタそんなことで話逸らそうと――」

「悪い。俺他の用事思い出したから行くわ!」


 聞くこともこれ以上なく、むしろ長居は危険と判断した俺は「ちょっと!」と引き留めようとするレイラの声を無視し教室を後にした。


 やっぱそう上手くはいかねえよな。

 でもまだ俺には切り札がある!


 バンクルの表示を見た。今のところどんなに離れようと消えない二名の名前がそこにある。おそらくこれはコアに反応しているんじゃないかというのが俺の推測だ。

 そしてまあなんというか俺のお友達リストのような役割まで果たせてしまっているのが現状だった。


 切れるカードはあと一つ。リネットだ。

 正直これが俺の持てる最高の切り札と言えなくもない。


 レイラの場合ナディアが生徒会長という事を除くと残った二人の関係性は学園の先輩後輩くらいのものだ。だが、リネットは違う。騎士団のリーダーをやってるくらいだし、普段から少なからず会話を重ねてきたはずだ。故に本当のナディアを知っている可能性は一番高い。


 俺はリネットが普段授業を受けている『2-C』の教室に向かう。

 外から中を覗き込むと案の定奥の席にリネットが座っているのが見えた。

 飯は済ませたのかただ講義が始まるのを待つように席についていて暇そうだ。

 俺は遠慮することなくリネットの方へ行くと。


「おーい、リネット。ちょっと聞きたいことあるんだけどいいか?」

「スルガか。別に構わないが――ここじゃ、騒がしいし移動するか?」


 周りを見渡したリネットがそんな提案をしてきた。


「別に大したことじゃないんだが、リネットさえよければそっちの方が助かる」


 他クラスで生徒会長の評判とか聞きにくいし。


「了解だ」


 そう言って教室の外に出ると、早速俺は本題に入ることにした。


「あのさ、リネットから見て生徒会長ってどう思う? よく喋ったりとかしてるんだろ?」

「生徒会長? 急にそんなこと聞いてどうしたんだ?」

「いや、別に。ちょっと自分の通う学園の生徒会長の事を知りたくなっただけだ」


 俺はレイラにも使った理由で言葉のフックを躱す。

 嘘だって皆に一度信じ込ませれば真実と変わらない。


「それは感心だな」


 基本リネットは素直な子だからな。ちょっと心苦しいぜ。


「だが、私も生徒会長の事なんてほとんど知らないようなものだぞ? 騎士団の仕事の事でちょっと話すくらいのものだからな。そもそも、あの人は自分の事をあまり語りたがらないように見える」


 普段から顔を合わせているはずのリネットでさえこれか。でも、そうなるともう他に当てはないしな。


「本当にちっぽけな情報でもいい。何か心当たりはないか?」

「いつものことではあるが、それにしても今回はいつにもましてやけに食い付いてくるな」

「気の所為だろ。俺はいつもこんな感じだ。で、ほらほら、どんな些細なことでもいいから何かないか?」


 リネットにはもう少し頑張ってもらいたい。今はとにかく攻略するための何か取っ掛かりが欲しいからな。――ん?


 俺は壁に背をくっ付けたリネットの髪を見た。そのポニーテールを纏める為に使っているヘアゴムは俺がプレゼントしたものだ。

 実は気になって今まで会う度にこっそり注目していたのだが別のゴムを使っていて、俺が渡したものを使っている様子はなかった。てっきり大切に保存してくれてるんだとか、実はお気に召さなかったのではないかと勝手にあれこれ考えてしまったりしていたが、ちゃんと使っていてくれたらしい。


「些細なこと、か。…………」

「気になる事でも何でもいい。何かないか」


 リネットは右手を顎に当て、しばらく唸っていると。


「気になる事と言えば、理由は分からないが生徒会に所属しているのは会長一人らしい」

「一人? 副会長とかの役職が誰もいないってことか?」

「そうだ」


 そう言えば、あそこで他の人間を見たことないな。


「前は? 今の生徒会長になる以前はそれなりに役員とかいたのか?」

「ああ。いたはずだ」


 今が特殊か。ここにきてやっと一歩前進って感じだな。


「まだ他にないか?」

「すまんが、他にこれといって思いつかないな」

「そうか。時間取らせて悪い。ありがとな」

「いや、気にするな。じゃあ私は教室に戻らせてもらう」


 そう言って背中を向けたリネットに後ろから声を掛けた。


「今日は付けてくれてるんだな。似合ってるよ」

「なっ――!」


 リネットは一旦は足を止めたものの、すぐに教室へ戻っていった。


 これで俺の持てるカードは全部切っちまったぞ。さて、どうしますか。

 とりあえず、情報の整理だ。そんな大した情報集まらなかったけど。

 文武両道で銀髪の美少女――ってこれはいらないか。後は多くの生徒から人気を集め、何故か生徒会を一人で運営していると、まあこんなものか。

 レイラからの情報はともかく、最後にリネットから聞いたことは何か手掛かりになるかもな。

 なんにせよ、まだ情報が足りない。


 他に当てもない俺が情報を得る手段を考えていると――見つけた。とてもシンプルな方法を。


「フフフフフ――」


 冴え渡る自分の策に感心し、笑い声が漏れ出す。

 本当はもう手がなく、考え過ぎて馬鹿になってしまったのかもしれないという思考が一瞬だけ脳裏を過ったがまあ気のせいだ。

 タン、タンと小気味よく廊下に足音を響かせながら俺は大人しく教室に戻った。


 そして翌朝から俺の作戦は始動する。

 俺は胸いっぱいに空気を取り入れると。


「よし!」


 俺は両手で頬を叩き気合を注入した。


 さあ、始めようか。ストーキングを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ