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第15話 偽りの笑顔

 今日はバイトの依頼もなく、俺は騎士団の方に足を運んでいた。

 あのデート以来も暇なときはちょくちょくこっちに顔を出しているのだ。元々魔法の上達を理由に勝手に参加していた俺だがリネットはもう俺の実力を大体知ってしまってるし、本当はここに来る為の理由がもうないのだが、そこについてはリネットも口を出さずにいてくれ、最近では嫌な顔一つせず迎え入れてくれたりもする。

 そう言えば、後から聞いたことだが、リネットに任せっきりという形になってしまった親子の問題はとりあえず解決したらしい。詳しいことは聞かなかったのだが。


「よし、皆お疲れ様。それじゃあ今日のところは解散!」


 いつも通りリネットの号令で今日も騎士団は解散し、俺もリネットに一声掛けてから寮に戻ろうとしていたのだが。


「いたいた。リネットー! 警備の配置の事で話がしたいんだがちょっといいか?」


 講師がこっちに向かって手を振りつつ歩いてきながら俺より先に声を掛けた。

 リネットは少し困ったような顔をしている。この後、生徒会長に今日の報告をしに行きたかったのだろう。


「あの少し待ってもら――」

「今日はどうせこの後暇だしな。俺が代わりに報告に行くから、行ってきていいぞ。そっちは忙しいんだろ?」

「しかし……」

「ほら、先生を待たせるのも悪いだろ」


 俺は優しく文字通り背中を押した。

 リネットはこっちに顔だけ振り返る。


「スルガ……すまない。この借りはちゃんと返す。頼んだ」

「そんな大袈裟な。ほらほら行った行った」

 

 講師とリネットが学内に姿を消すと、俺も生徒会室に向かうことにした。


 それにしても今の俺はちょっと感動のあまり涙が出そうだったりもする。最初はリネットに拒まれてばかりいた俺だが、今では急な仕事が入ったからとはいえ、こうして仕事を任せてくれるようになったのだから。


 久しぶりに生徒会室までの道を歩いていると、リネット攻略の為に動いたことを思い出し、思わず感傷的になってしまっていた。

 生徒会室の扉の前まで来ると足を止める。


 やっぱ、ちょっと緊張するんだよな~。まあここで立ち止まってるわけにもいかねえしな。


 俺は二回扉をノックした。


 あれ? そういえば二回のノックってトイレだっけか……。まあいいか。


「どうぞ」


 生徒会室の中から透き通るような聞きやすい声が聞こえ、俺は中に入る。


「失礼します。リネット――騎士団長に急用ができた為、代わりの報告に来ました」

「そうでしたか。それはお疲れ様です」


 夕焼けにより照らし出される生徒会長の笑顔はその場面だけ切り取るとまるで完成された一枚の作品のようで単純ながら俺の心は動かされてしまった。

 この会長と会うのはこれで二回目だが、その時も彼女の銀髪に目を奪われた覚えがある。

 こっちを向いてはにかむ生徒会長の姿は誰が見ても間違いなく美少女と言えるものだろう。

 生徒会長という学園での地位の差と最初からこんな銀髪の美少女と夕方の生徒会室で二人きりというこのシチュエーションが俺の心臓にかなりの負荷を掛けていた。

 緊張で声が裏返らないように一つ咳払いをして、声の調子を整えると。


「では、騎士団からの報告ですが、どこも異常はありませんでした」


 俺は内心で噛まずに言えたことに安堵した。


「今日も何も起こらず良かったですね。報告ありがとうございました」

「はい。じゃあ、これで失礼させてもらいます。お疲れ様でした」


 俺は逃げるように足早で生徒会室を出て扉を閉めた。


 結局最後まで生徒会長とまともに目を合わせることもできずに終わってしまい、その場で項垂れる。


 でも、リネットともいい感じに一区切りついたし、そろそろ次の攻略相手を探そうと思っていたところだ。俺はハーレムルートに必要なのはバランスだと考えている。

 一人のヒロインと距離が近づきすぎてしまうと、そこから先他のヒロイン攻略の難易度も一気に跳ね上がっちまうしな。

 あんな笑顔を向けられてしまっては攻略しない方が寧ろ失礼ではないか? いや、失礼に決まっている。

 俺は次の攻略対象を王道中の王道ではあるものの銀髪セミロングの生徒会長に狙いを定めることにした。


 最初に会った時は、俺もこっち来たばかりで右も左も分からなかったし、レイラのことに精一杯で手を回す余裕もなかったが、今は違う。この世界にも大分慣れてきたし、あの時よりは色々と成長してるはずだ。多分。


 そう言えば、生徒会長の名前って聞いたことなかったような。


 俺はこの世界に来てからというもの何度助けられたか分からない右腕に付けてるバンクルを操作した。


 えっと、名前は――ナディア・オルブライトか。……って、おい、これなんだよ!


 俺は画面の表示を見て目を疑った。

 見間違いだと信じ俺は目を瞑ると顔を左右に振り、もう一度画面を確認した。

 変わらない結果に俺は故障したんじゃないかと思うことにする。


 だって、こんなのおかしいだろ! なんだよ! 親密度がマイナス53%って!


 さっきの生徒会長――ナディアの態度からは予想もつかないこの数値。


「はぁ」


 見るに堪えないあんまりな数値にため息が零れた。


 おいおい、俺なんかやりましたっけ? 二人きりになったのがいけなかったのか? それとも声が不快だった? 距離はちゃんと適度にあけてたし、相手の顔をまじまじと見たりもしてないぞ? マジで理由がわかんねえ……。


 この謎の親密度の低さに俺は人間不信に陥りそうだった。

 ここで考えてる途中にナディアが生徒会室から出てきたりしても気まずいので、とりあえず場所を変えることにする。

 俺がここに来たころと何も変わらないベッドだけが寂しく置かれた殺風景な部屋の中で自然と決まった定位置にダイブした。うん、ちょっと硬いし、痛い。

 痛みのおかげかどうかは分からないが、少しだけもやもやが緩和されたような気がすると、再び枕に顔を埋めながら今日のナディアという少女とのやりとりやその後の事を振り返ってみる。


 先ずはリネットの代わりに今日の巡回の報告をしに生徒会室に向かい、ノックして中に……おい、もしかしてノックの回数とか言わないよな……。


「うあぁぁああああっ!」


 つい変な汗を掻く前にと枕を投げた。


 いやいや、流石にないでしょ! うん、ないわ。ノックの回数で親密度マイナスっていくらスタイル抜群な美少女でもそれはないわ。

 いやでも、女子はトイレには煩いのか? だって男子の場合『ちょいトイレ』で済むものを女子の場合はわざわざ『ちょっとお花を摘みに』とか言うくらいだし。いや待て、使ってる奴なんて見たこともないけど、確かゲームで男子も用を足すとき『キジ撃ち』とかいうのがあったような――ってああもう! そんなことより生徒会長の癖に短気過ぎんだろ! 短気は損気っていうし、短気で良いことなんてないよ。もうちょっと隠したって……。


 ふと脳裏に浮かび上がったのは生徒会長の完成された笑顔。


「完全に隠しきれてるのが怖いんだよな」


 俺だってこのバンクルがなければ絶対気付かなかったし!


 ウィンドの魔法で部屋の隅に埃を集めるように風を操る。

 手首のところで光るバンクル。それがしっかり機能しているという事実を俺に突き付けた。

 その光がこう語りかけてくるのだ。


 ――あれは偽りの笑顔だと。


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