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掌編集1 奇想カタログ  作者: 石屋 秀晴
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World of XX

 ドナーが入っている箱の、上面と前面にマジックミラーがはめ込まれているのを見ると、洋子は「ふうん」と囁いた。十年以上前に受けた保健の授業でそんなことを習ったような記憶が、うっすらと残っていたからだ。

 目も耳も口もないが人権だけは保証されている(とされている)XYドナーに対する、人道的配慮として採用されたマジックミラー付きパッケージ。当時、子供ながらにも馬鹿馬鹿しく、つい笑ってしまったことを彼女は思い出す。

 箱の中には、大きさも形も折り畳み傘によく似たドナーのケースと幾つかの物品の他に、分厚いマニュアルも同封されていた。『日本国出産法理念』や『プライバシーについて』といった項目はとりあえず飛ばし、『ドナーの扱い方』というページをまずは開く。


1.栄養カートリッジの取付

 ドナーがお手元へ来たら、以下の図に従い、なるべく早く同梱された栄養カートリッジを装着してください。


2.ドナーIDの確認

 事前に通知されたIDと、ドナーの個体IDを照合してください。万が一食い違っていた場合は、妊産省まで至急お知らせください。


 洋子はその通りにした。


3.膣口の準備

 よく洗浄した手指に同梱のローションを適量取り、膣口に塗布してください。なお、指の挿入により痛みを感じた場合は――


 まだ必要ないと判断し、洋子はその項を読み飛ばした。


4.ドナーの準備

 ドナー先端のビニールカバーを外し、「A」のボタンを押すと、ポンプが作動しドナー先端部を硬張させます。

 状態ランプが赤点滅から緑点灯に移行すれば硬張完了です。挿入に必要な硬度があることを確認してください。


 洋子は「A」のボタンを押してみた。そしてぐにゃぐにゃとした変に温かいナマコのようだった先端部が、みるみるうちに膨張し固くなる様子を見守った。だが数秒してあまりの変貌ぶりに恐れのようなものを感じた洋子は、落ち着かなげに再び視線をマニュアルに落とした。第5項の『挿入』は飛ばし、次を読む。


6.射精

 ドナー先端部が挿入された状態で、「B」のボタンを押してください。

 3秒後にドナーが射精を行います。


 洋子は「B」のボタンに指を添えた。そのまま押してしまおうかと半ば本気で考えたが、結局はやめた。すると急に、今手にしているその代物がケース越しにも不潔に思え、やや乱暴に箱へ戻した。

 軽くない疲労を覚えた洋子は椅子を引いて座り、テーブル上の箱の中身を横目で見やった。そしてもしも確実にXYでなく女を、『娘』を懐妊できるのならと、詮無いことを考えた。

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