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掌編集1 奇想カタログ  作者: 石屋 秀晴
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マキオのスロットマシーン

 お別れ会も挨拶もなく転校して行ってしまったマキオのことを、僕以外には誰も覚えてない。

 でも僕は、マキオといつどんな風にして会ったかちゃんと覚えてる。

 僕は泣いてた。柴田のやつに漫画本を取られて、今みたいに放課後の教室で泣いてた。

 そしたらマキオが、「勇気の実だよ」って言って、赤い木の実をくれたんだ。

 イチゴぐらいの大きさで、リンゴみたいな形の、見たこともないその実はすごく甘くて、僕はすぐに泣き止んだ。

 本当にあれは勇気の実だった。

 泣いてばかりだった僕が、柴田をぶん殴って漫画本を取り返せたのも、たぶんマキオがあの実をくれたからだ。

 柴田はそれっきり目が醒めなくなっちゃったけど、あいつはみんなにたくさんひどいことをしてたんだ。それを全部足したら、本当は死んじゃっててもおかしくなかったんだ。

 僕がそれを言ったら、マキオはすごく嬉しそうに笑った。その通りだよって言ってくれて、僕はまた勇気百倍になれたんだ。


 マキオはたしかにいた。

 じつは、僕もときどきアイツの顔が思い出せなくなるんだけど、教室の後ろの棚には、マキオが夏休みに作った工作が、みんなのと一緒に並んで置いてある。だからアイツは本当にいたんだ。

 紙粘土でできたスロットマシーン。頭のボタンを誰が押しても結局動かなかったけど、アンテナとか、線とか、何だかわからない機械とかがいっぱい付いててすごくかっこいい。

 僕はまた、マキオのスロットマシーンをいじってみた。頭のボタンを押してみた。

きっとまたうんともすんともいわないんだ。そう思ってたけど、スロットマシーンは初めて動いた。

 チーン! って音がして、三つの窓に字が出た。


〈『柴田リョウ』×『市民病院』×『医療ミス』〉


 僕は何だか愉快になった。これって柴田が死んじゃったって意味かな? だったらすごい受ける。

 僕が明日転校しなくちゃいけないのは柴田のせいだ。あいつが起きないから。あいつの母ちゃんがぎゃーぎゃー騒いだからだ。

 僕はもう一回、ボタンを叩いた。

 チーン!

〈『柴田ミヨ』×『さくら通り』×『交通事故』〉

 僕はまた笑った。ざまーみろ。ミヨって名前は知らなかったけど、たぶん柴田の母ちゃんだ。

 僕はどんどんボタンを押した。

 チーン!

〈『菅原ユウキ』×『日吉川』×『溺死』〉

 柴田の子分もついでに死んじゃえ。

 チーン!

〈『牧野ミカ』×『森林公園』×『猟奇殺人』〉

 僕をバカにしたミカちゃんも死んじゃえ。

 チーン!

〈『角谷ケンゾウ』×『市役所』×『転落死』〉

 僕を叱った角谷先生も死んじゃえ。

 チーン!

 うるさい隣の犬も。

 チーン!

 僕を引っ掻いたノラ猫も。

 チーン!

 いじわるな姉ちゃんも。

 チーン!


 何だかスロットマシーンが、ちょっと大きくなってきた気がする。

 紙粘土が少し破けて、変な赤い汁がじくじく出てきた。肉っぽいのや髪の毛みたいなものが、中にいっぱい詰まってる。

 でも僕は気にしない。どんどんどんどんボタンを押す。

 すごく楽しい。

 楽しいね。マキオ。


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