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掌編集1 奇想カタログ  作者: 石屋 秀晴
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銀河を越えて

 彼女と僕は遠距離だ。直線で約6万光年離れている。彼女が居るのは、地球とは銀河の中心を挟んだちょうど反対側にある、プロムメロテアンという惑星だ。彼女はそこの移民局に勤めている。

 異なる自転周期を持つ地球とプロムメロテアンの時差に合わせて、だいたい週に一回か二週に一回のペースで、僕は彼女に会いに行く。彼女も同じくらいの頻度で地球へ帰って来るけど、そのときは実家で過ごすよう勧めているから、二人きりで会うのは圧倒的に向こうの星でのことが多い。でも僕たちにとってはそのほうがよかった。


 今世紀に入り、地球にはもう新しい発見は期待できなくなった。もちろん、人間が新たに作り出す音楽や物語は豊富にあったけど、一個の惑星として見做した場合、地球は既に、知り尽くされすぎた退屈な天体でしかなくなっていたのだ。

 エベレストの山頂からチャレンジャー海淵の最深部までミリ単位の詳細な地図が作られ、しかもそれはリアルタイムで微小な変化をも追跡され続けている。地球上の動植物はウイルスにいたるまですべて既知のものであり、それどころかこの先発生しうる新たな変異種の可能性まであらかじめ全部予測されていて、それら未現種のとりうるべき形態と生態はすでにウィキペディアの編集中のページにまで書かれている。

 数百年も前に書かれた言葉や、歴史に名を残す偉大な芸術家たちが直にその手で作り上げた数々の名品や、幾万もの夜に無数の人々が肘を預けてきたバーカウンターなどよりも、僕と彼女は人類の大多数がまだ知らない何かのほうにこそより強く惹かれていた。

 今日僕らは念願叶って、開発局の特別調査チームに同行させてもらえることになっていた。それが惑星開発政策への支持集めのための、観光ツアーに近いものなのは分かっている。スリルなんてほとんどないだろう。しかし彼女が受けた説明によると、僕らは昼前にコロニーを出発し、単一結晶の透明な山脈を踏破して、その先にある水銀の湖のほとりで野営する予定なのだ。興奮するなというのは無理というものだ。

 僕は胸を躍らせて転送ポッドから一歩を踏み出した。そして一瞬前までは6万光年も離れていたはずの彼女と、再会の抱擁をした。




「おい、どうした、ここは地球じゃないのか、失敗したのか?」

「いいえ。あなたの存在情報は全てプロムメロテアンへと転送され、あちらで完全に復元されました。問題ありません」

「なんだって。どういうことだ、僕はここに居るじゃないか」

「申し上げ難いことですが、今ここにいるあなたは、主体人格ではないのです」

「そんな……そんなこと僕は、今まで何度も転送を受けているが、こんなことは一度も」

「当然です。このプロセスについては、向こうにいる主体人格のあなたも知りません。知る必要がないからです」

「僕は……? 僕はこれから、どうなるんだ」

「こちらへどうぞ」

「待てよ。どうするつもりなのか答えろよ」

「痛みはありません。保証しますよ」

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