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金目姫  作者: 辰野ぱふ
9/13

マシウス氏の屋敷 (3)

 その日、マシシが他の石炭堀りの鉱夫との相部屋までジョシュを連れて行った。ジョシュは自分のベッドをもらった。「金貨は肌身離さず腹に巻いておくこと」とマシシに教えられた。マシシがナカ町に行く時に、ジョシュが送る分は必ず送り先に届けると、マシシは約束した。ジョシュは心配だったが、どうしようもできない。マシシを信用するしかないだろう。

どうせ持ち物なんてなにもないのだ。まず次の日からの石炭探し、石炭堀りの仕事ができるかどうかが心配だった。


 マシウスの館の地下は、広い洞穴になっていて、まるでありの巣のように、いくつもの石炭穴の入り口があった。その穴の中はまた右や左に分かれて行く。中は真っ暗。中ではランプを灯すしかないが、空気も薄いから、苦しくなる前に消さなければならない。石炭穴の入り口からは大きなふいごでしじゅう風を送ってはいるが、ジョシュの担当する穴は細くて、そんなに自由には動けないのだ。

 穴に入る時は、命綱をつけている。まっすぐに穴の中に入って行ければいいけれど、右や左に分かれて行った場合、その綱が切れると戻れなくなってしまう。

 ジョシュはまずだいいちにこの綱に気をつけた。とにかく元の所に戻るということが一番だと思った。

ジョシュが初めて入った場所はそんなに臭くはなかったが、前に誰かが入った穴に入る時には、その誰かのトイレツボが残っている。それが三つくらい残されていることもある。これが臭くてたまらないというのに、ずっとそこにい続けなければならない。おまけに、弁当に持って来ているザッカライのパンをその臭いの中で食べなければならない。

もう、まったく地獄のような場所だったけれど、ジョシュはミューリ、シャシュ、チャヌと過ごした日々のこと、楽しかったこと、うれしかったこと、ミューリと会った時のこと、いろいろなことを思い出した。そしてその思いにすがるように毎日を過ごした。暗い穴の中にいると、それはまるで目の前に描かれているように感じられた。

 そうやっていろいろ思い描いている間に、手は勝手に動いた。ジョシュにはかすかな風の流れがわかった。また、石炭のほかに、特別な石があるのもわかった。それについては、

「土と違う鉱物は、全部採取物になる。なんでも採取かごに入れるように」

 と決められていた。採取カゴは車輪のあるトロッコに乗っていて、命綱もつけられていて、カゴだけを出口に送ることもできた。

 穴から上がった生活は悪くなかった。いつもたっぷりの暖かいシチューが用意されていたし、ナカ町では見つけられないような果物や甘いお菓子などもあった。大きな湯船のある風呂もあって、肩までたっぷりと湯の中に浸かることができた。その間、金貨は頭の上にくくってつけておく。裸になっても、金貨だけは、かならずどこかにくくりつけていた。

 ミューリへの送金が問題だった。嘘をついてしまったから、ミューリに直接お金を届けてもらうことはやめた方がいいような気がした。手紙にいろいろなことを書きたかったけれど、もしマシシがそれを見たらどうなるだろうか。それもやめた方が良さそうだ。お金はジョシュのママあてに送るしかないだろう。ジョシュからとわかれば、きっとママがミューリに届けてくれるだろう。

 だけど、マシシとママが何か話しをして、ミューリがジョシュの奥さんだとわかった時にはどうなるのだろうか? もう、そこまでは考えられなかった。

 ジョシュはとにかく、家族のことだけを思っていた。


 知らないうちに、半年が経ち、ジョシュはもう1週間続けて穴の中で暮らしても平気になっていた。明かりもそんなに必要ではなくなり、うっすらの光で穴の様子がわかるようになっていた。1週間続けて仕事をすると、1日の休みがもらえる。ジョシュはナカ町に帰ってみたかった。お金はちゃんとミューリに届いているのだろうか。皆、どうしているだろうか。だけど、今ナカ町に帰ったら、もうここに戻る気にはなれないような気がした。


 それからまた半年経ったある休みの日、ジョシュはマシウスの部屋に呼ばれた。

 豪勢なお料理が並ぶ長テーブルの、ベルベットの張ったイスに座るようにと、マシシが言った。そこに座ったのはその3人だけだった。10人くらいの人が座れるようなテーブルで、10人くらいの人でも食べきれないような料理だった。

 マシウスの口のあたりが笑っていた。何なのだろう?

「よく、働いてくれた」

 とマシウスが言った。

「そもそも、クラウドの人間は鉱脈探しが得意なんだな」

 そう言われても、ジョシュはぽけっとマシウスを見るしかなかった。

「君の収穫は一番だ。特に石炭以外の物の当たりがすごい。どうやってやっているんだ?」

 そう聞かれても、ジョシュは、

「さあ?」

 と首を傾げるしかなかった。

「いろいろ分析してみました」

 とマシシがノートを開いて読み始めた。

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