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金目姫  作者: 辰野ぱふ
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マシウス氏の屋敷 (2)

「あの…、マシシ様。ぼくは次にどうしたら良いでしょうか…」

「ふむ。それはわしにもわからんね。とりあえず、マシウスにあいさつに行かないと…。あ、君がマシウスを呼ぶ時は、マシウス様だよ。もちろん。マシウス・スーメルクは本家の方だからね。本当は様がふたつくらいついてもいくらいなんだ」

 と言いながら、城へのとびらを開けたので、ジョシュはマシシの後を着いて行った。

 城の中は、倉庫よりは少し暖かかった。でも、絨毯にはところどころ凍った所があった。

 えんじ色の絨毯がずっと道のようになっているので、ジョシュはすべらないように、しっかり歩いた。


 大きな金属製のとびらがいくつも並んでいる。そのとびらには、星の模様が描かれている。どうやら、大理石を星の形にして、とびらに埋め込んであるようだ。星はとびらごとに微妙に違っていた。数も違うし、形や大きさ、並びも少しずつ違う。

 一番奥、とびらの中央の大きな星の周りを小さい星がぐるりと取り巻いているとびらの前でマシシは止り、ゴンゴンとドアベルを叩いた。

「開いてる」

 と中から声が聞こえ、マシシがとびらを開けると、黒い髪を深緑色のリボンで結び、同じ色の上下を着て、片目に黒い眼帯をした、気難しそうな痩せた男が、いらいらと歩き回っていた。

「マシウス」

 とマシシが言った。

「久しぶりに、ここで働くっていう人が来たよ」

「ふうん」

 とマシウスは興味なさそうに答えた。

「ほら、名前」

 とマシシに言われて、

「ジョシュ・クラウドです」

 とジョシュが言うと、マシウスはぴたりと動くのをやめ、まっすぐにジョシュの方に向って、

「天気予報のか?」

 と言った。

「はい」

 マシウスは、ぐるぐるとジョシュの周りをまわり、頭の先からつま先まで、ジロジロ点検した。

「ふむ。やはり、天気予報はもういらなくなったのか。ふん」

 と言った。

「はい」

「きさま、まさか、ミューリと結婚したクラウドじゃあなかろうな?」

 う、と、ジョシュは言葉に詰まった。

「へ」

 中途半端に答えると、「ミューリが結婚したのはだれだ?」とマシウスが詰め寄って来たので、

「へ、ボス・クラウドです」

 ジョシュはなんだか怖くなって、弟の名前を使ってしまった。

 マシシはそれもノートにメモしているようだった。

「ふむ。お前との関係はなんだ?」

 とまた詰め寄って来たので、

「ボスはぼくの兄さんです」

 とまたいいかげんな答えをしてしまった。マシシはなんだか首を傾げながら、またノートに書き込んでいた。マシシがギャバじいさんのことを知っていたことを思うと、なんだかまずいような気もしたけれど、ジョシュには兄さんも弟もいるから、ごまかせそうな気もした。それに、今はそんなに細かいこまで考えている余裕はなかった。

「ふうん…。天気予報士なんて、もともと役に立たなかったものを…。ミューリは何だって…、くそっ」

 マシウスの周りからはトゲトゲの空気が感じられた。まるで灰色狼みたいな感じだ。ジョシュはよけいなことを言わないように、背中をぴんと伸ばして、お腹に力を入れた。

「いいか。スーメルクでは、労働者はたくましく、筋肉もりもり。大男。細くてしなやかで美しい男がこの筋肉もりもりの男を使う」

 ここまで言うと、マシウスはマシシを見て…、マシシはなんだかもじもじしていた。

「あ、マシシ、もう君の用事は済んだ。持ち場に帰ってくれたまえ。このクラウドめには、おれが仕事をいいつけるから」

 と言い、マシシは、

「は」

 と言いながら、部屋から出て行った。

「とにかく、石炭を掘る穴で、入れない所があるんだ。スーメルクの労働者には小さすぎる穴がね。お前みたいな細いやつなら入れる。まちがいなく。だが、おまえ、狭い所に閉じ込められて何日いられる?」

 とマシウスが聞いた。

「さあ?」

 とジョシュは首を傾げた。

「ま、しょうがない。みな、気が変になるからな。最初は1日から始めよう。1日石炭探し。見つかったら堀り出してトロッコのかごに入れる。夜に上がる」

「はい」

「それが1週間。1日ずつ確かめる。次の週は2日続けて入ったまま。それを5サイクル。その次の週は3日続けて…。まあ、そこまで続くかどうかだが…。使い物にならなくなったら、そこでおしまい」

「あの…。穴に入っている間…、トイレはどうするんでしょうか…」

「トイレも持って入るんだよ。陶器でできたツボだ。それは穴の中に置いておく。そのうち土に返るからな」

 もう、それを聞いただけで、ジョシュはいやになってきていた。

「あの…、お給料はどうやってもらえるんでしょうか…」

「1日こなせば1日分。2日こなせば2日分。こなしたその日に渡す」

「えっと。ここに、銀行か何かがあるんでしょうか」

「は? ここに? あると思うのか?」

「なさそうですが…」

「その通り。金貨はマシシが管理する。マシシは計算が得意なんだ。間違えることはないし、ごまかすこともない。それがマシシの誇りだからな」

「えっと…。送金はできますか?」

「金貨をどこかに送るってこと?」

「そうです」

「マシシがナカ町に行くことがあるから、その時にたのめばいい」

 ジョシュはもう、何も考えられなかった。気持ちもいっぱいっぱいだった。だから自分に言い聞かせるように、「マシシ様に送金」と口の中でつぶやいた。

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