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金目姫  作者: 辰野ぱふ
2/13

クラウドの家族 (2)

 秋のページになると、子どもたちはまた質問した。

「木の葉の色が変わるの?」

「かわりゅの?」

「うん。たぶんそうだよ。本に書いてあるんだからね」

 バコバコリで見る木には葉っぱが無くて、凍っていた。

 その時、シャシュのお腹がぐーと鳴った。

「ぼく、お腹がすいた」

「しゅいた…」

 ジョシュももちろんお腹がすいていたけれど、子どもたちに先にそう言われると、自分がすいているなんて、言えないような気がした。

 だから、

「さ、続きを見よう…」

 と本を開いて、なんとか気分を盛り上げて、本をめくった。本は最後の季節、冬になった。

「冬は見たくない!」

「ない! ない!」

 と子どもたちに言われて、ジョシュはまた最初のページにもどった。そんなふうに繰り返し繰り返し読んでいるから、本はだんだんすりきれていたし、ママのミューリが出かけてからもう5回も読んでいるから、みんな飽きてきていた。

「じゃあ、みんなで手をつないで!」

 ジョシュは必死で次にやることを考えた。とりあえず、3人で輪になってぐるぐる回ったりして、楽しいふりをした。そんなジョシュを見て、子どもたちもなんとか、楽しい顔をしようとがんばった。でも、もっともっとお腹がすいてきていて、みんな、力が入らないのだった。

 そうやって遊んだり、暖炉の前でトロトロ昼寝をしたりして、一日が過ぎて行った。

 やっと夕方になり、

「ただいまー!」

 ミューリの声がひびいた。

「ママだ!」

「ママら!」

 子どもたちの顔が輝き、ジョシュも心からほっとした。ほんとうに、ミューリがいなかったら、この家はどうなってしまうのだろうか。

 ミューリはバスケットの中に、パンを持って来ていた。ミューリの働くパン工場でできたパンだ。それは黒くて、ミューリが帰って来る間に、カチコチに凍っていたけれど、食べられる物なら、何だっていい。シャシュはバスケットにぶらさがるように引っ張って中を見ようとした。

「だめ、だめ! まだよ。スープを作るまで待ってちょうだい!」

 ミューリが言うと、子どもたちは「はーい」と元気よく答えて、ミューリのお尻にくっついてキッチンに行くと、石の窯に木をくべて火を起こし、忙しく働くミューリの周りで、何か手伝おうとあちこち走り回った。

「だめよ! 熱いお湯をわかすと危ないから! パパと遊んでいて!」

 そうすると、シャシュはほんとうにがっかりした顔をして、

「え~? パパと遊ぶの? また?」

 と言い、チャヌも

「やら、ママ、ママ」

 とミューリのスカートにまとわりついた。

「ねえ、ジョシュ! なんとかして! はやくご飯にするんだから、子どもたちと遊んでいて!」

 ジョシュはすっかりしょげかえって、子どもたちを引っ張った。

「だめだよ。ちゃんと待っていないと、ご飯にならないぞ」

 それで、しぶしぶ二人はジョシュにくっついて、また季節の本を読むことにした。


 やっとご飯の時間になった。

 黒いパンも溶けてきていたし、それを暖炉の火であぶって、熱いキャベツのスープに浸して食べると、じんわりと味がしみて、からだにそれがしみ込むようで、涙がじわじわと出てきた。

 野菜は貴重だ。バコバコリでは、温室の中でできる小さい草とか、小屋の中で育つキノコみたいなものしか取れない。キャベツはバコバコリの裏側にある、バルメコ地方という遠い所から何カ月もかかって運ばれてくるから、葉っぱがショボショボになっていたけれど、スープにすれば味が出てくる。

「おいしい!」

 とシャシュが言い、

「おいちい!」

 チャヌが言った。

 その楽しい、夢のような時間はあっという間に過ぎた。


 キッチンの後片付けはジョシュがやった。その間にミューリが、熱いお湯で固くしぼったタオルで子どもたちの身体を拭いて、子守唄を歌って寝かしつけ、ミューリは疲れ果てて子どもたちと一緒に眠くなっていて、子どもたちのベッドの横で子どもたちによりそうようにして、居眠りをしていた。

 キッチンの片づけを終わって、ジョシュが子供部屋を開けた。もう暖炉の火は弱くなっている。あとはとろとろ火が燃え尽きないように、炭を絶やさないように入れておかなければならない。

 ジョシュは火を整えて、子供部屋に散らばっていた、シャシュのズボンやら、チャヌのエプロンやらを拾って、それを洋服かごの中にしまった。

 その気配でミューリが目を覚ました。

「お疲れさま」

 とジョシュが言った。

「ほんと。きょうもくたくた」

 とミューリが言い、続けて話はじめた。

「ねえ、ジョシュ。スープを作るくらいしてもいいんじゃないかしら。あたし働いて来て疲れているのよ。お家にたどり着いた時にスープができていたら、あとはパンを焼いてすぐに夕飯にできるのに…」

 ミューリはなんだか怒っているように見えた。

「ごめん」

 とジョシュが言った。

「ぼく、料理がうまくないから、君のようなおいしいスープが作れない。もっとおいしくしようとがんばると、どんどんまずくなるんだ…」

 ジョシュは、しゅんとして、下を向いた。

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