マシウス氏の屋敷 (4)
「1年前の1日目。ジョシュは誰も入ったことのない穴に入りました。そこで石炭5トロッコ。磁鉄鉱も5トロッコ。2日目。同じ穴に入りました。収穫は同じでした」
「ふむ」
とマシウスが目を閉じて聞いており、ジョシュは目をパチクリしていた。
「3日目、ジャイルが入って、すでに10トロッコ分の石炭を取り出した穴に入りました。そこで石炭5トロッコ。エメラルド一かけ。金、少々。4日目、1年前に数人が入り、もう何も残っていないと思われていた穴に入りました。ここでも2日で石炭5トロッコずつ。それから何も取れなかった日は一日もなく、最低でも石炭4トロッコは採掘しています」
「へえ」
ジョシュは自分のことなのに、まるで人の話を聞いているような感じだった。
「君の見つけ方を他の奴にも教えられれば、収穫が違ってくる。コツとか、何かないのか? 何かあるんだろう?」
とマシウスに言われても、
「さあ?」
と言うしかなかった。
「何かあるだろう。何なんだ?」
え? 何があるんだ? 何なんだ? わからなかった。
「まあ、飲め飲め」
とマシウスは、赤いワインをドボドボとジョシュのグラスについだ。
「さあ、食べろ、食べろ」
と鶏の焼いたのや、山盛りのポテトをジョシュの皿に盛った。
ジョシュはあまりお酒は飲まない。水をもらって、おそるおそるごちそうを食べた。
しばらくは3人とも話もせず、料理を食べ、2人はワインを飲み、ジョシュは水を飲んだ。
しばらくすると、マシウスが立ち上がり、部屋の奥に行くと、星がきらめくような模様の、金銀の糸が織り込んである厚い布がかけてある物を引っ張ってきた。
「昔は、この音がたよりだった…」
とマシウスが、その布を引っ張ると、金ぴかに磨かれた金属が注ぎ合わせてつくられている、等身大の人形が現れた。細かい宝石が織り込んである、金属糸のドレスを着ている。顔もつぎはぎの金属で、片目はつぶっていて、もう片ほうの目は大きく見開いていた。
「金目姫だ」
マシウスが、人形の後ろに回って、ギリギリとぜんまいを巻いた。そうすると、サルクネリのパブでミューリが歌っていた旋律、ナカ町からここまでやって来る間、スーメルクのごっつい男たちが口ずさんでいた曲が流れた。
それは、もの悲しく、金属が引っかかるような繊細な音を出した。
「金目姫の中はオルガンになっている」
そう言って、マシウスが、その金目姫という人形のお腹をぱっくりと開けた。そこにはいくつかのパイプが詰まっていた。
「この曲に反響して、鉱物のありかがわかった。と、書物には書いてある。その書物を書いたのは誰かわかるか?」
ジョシュ口には今鶏肉が入っていて、返事をすることができなかった。
「私の祖父とクラウドの共著だ」
とマシウスが言った。
「え? なにクラウド?」
鶏肉をごくりと飲み込んで、ジョシュが聞いた。
「わからん、ただのクラウドさ」
マシウスは、金目姫の、金色の目玉を取り出した。それは金色の球体で、真ん中の瞳の部分がレンズになっている。目玉を取り出すと、金目姫の目玉のあった方の目は、ぽっくりと黒い穴になった。
マシウスが映写機のような機械を引っ張ってきた。そして、機械の中央に光を起こした。それが合図になったようで、マシシはいそいそと脚立を引っ張って、部屋を取り囲む柱の上についている明かりを、脚立に上って一つずつ消して行った。部屋の明かりが全部消えると、マシウスが映写機の中央に金目をはめ込んだ。
そのとたん、部屋いっぱいに星空が広がった。まるで夢の中に入り込んでしまったみたいだった。バコバコリではこんなはきりとした星空が見えたことはないが、星というものは、物語に出て来ることがあったので、ジョシュも知っていた。しばらくは、その星空がくるくると部屋中を回った。そして、その後、ただの白い光が部屋中に広がると、壁の一部に大きな山が映った。
その山は動いていた。そして、ドドドドドドと、音はなかったのだけれど、まるで音が聞こえるように山は火を吹き出し、今度は部屋中が火の海の中に飲み込まれたようになった。赤、オレンジ、黄色の細かい火の粉、溶岩があふれ出ている。そのあと、どんどん黒い灰が空に立ち上って、それは空を覆いつくし、地上に黒い層を作っていった。その黒色が壁全体をに広がると、ただの暗闇になった。もう星は映らなくなり、ジジジジジと機械の音が虚しく響き、機械の中央の光だけが残った
「これが、くもり空の正体さ」
と言うと、マシシはまた脚立を引っ張って、さっきとは反対周りに柱の明かりをつけて行った。
「え? くもり?」
ジョシュには意味がわからなかった。
「遠い昔に、火山が噴火したんだよ。その灰は広く空を覆いつくして、お日様を隠す膜になったんだ。もう、その時に天気予報は無駄なものになったのさ。君のおじいさんの前の時代だろう」
「す、すごい…」
お酒も飲んでいないというのに、ジョシュの頭の中はくらくらしてきていて、まだ夢の中にいるみたいだった。




