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金目姫  作者: 辰野ぱふ
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クラウドの家族 (1)

これを童話と言っていいのか?

わかりませんが、ファンタジーの一種のつもりです。

よろしくお願いします。

 氷に閉ざされたバコバコリでは、めったに太陽が出ない。

 昔は季節というものがあったらしいのだが、それは今は物語の中にしかない。

 昔は天気の研究をしている人もいて、天気予報もしていたのだけれど、あまりにお天気の日が少ないので、予報する意味がなくなってしまっていた。

何日も何日もくもりか雪の日ばかりで、ほとほといや気がさしたころに、ぼんやり晴れた日が続くと、皆お日様に引きつけられるように外に出て、お日様の光を浴びる。

そんな時に、「明日も晴れるでしょう」と天気予報で言うと、とたんにくもってしまうことがあったから、皆、天気予報が嫌いになってしまったのだ。


 「まったくいやになっちゃうよ」

 と最後の天気予報士だったジョシュ・クラウドが言った。

 ジョシュの家では代々天気予報士をやっていて、ジョシュのお父さんも、おじいさんもその前の先祖もずっと天気予報士だった。天気についてずっと研究を続けていたのだけれど、研究を続ければ続けるほど、いったい天気は何と関係があるのかがわからなくなってきていて、困っていた。

 つい数日前晴れた日があったのだが、そうしたら、近所に住む人たちが、ジョシュの家に文句を言いに押し寄せて来たのだ。

「もう、天気予報は言わないで!」

 と隣のおばさんがどなった。

「そうだよ。晴れの日が続くように祈っているんだ! 外に出て来るな!」

 とどこかのおじさんがわめいた。

「パパ、もう、ぼくは外には出られないの?」

 と、ジョシュの3さいの息子、シャシュが泣き出した。

「あたちも?」

 とやっとおしゃべりができるようになったシャシュの妹のチャヌが悲しそうな顔をした。

「いいの! 外になんか出なくたって!」

 とジョシュの奥さん、シャシュとチャヌのママ、ミューリが言った。

「どうせ外に出たって、くもりばかりなんだから! お家の中のほうが暖かいわ」

「だって、ぼく、お日様の日には外に出たい」

 シャシュはまた泣き出した。

 ミューリはジョシュのシャツを引っ張って、キッチンまで引っ張ってきた。

「ね、あなた! どうにかしてちょうだい。当たる天気予報をしなければ、うちはここで生きていけなくなるわ!」

「そ、そんなこと言ったって」

 とジョシュはしょんぼりと下を向いた。だって、クラウド家では、代々天気のことばかり研究してきたのに、当たりもしない。昔昔のその昔はもっと晴れの日が多かったらしく、「晴れる」と言いさえすれば皆に希望をあたえられる時もあったようなのだ。でも今はそうではなくなった。晴れの日に天気予報をすると、それによってくもりの日が早くやって来てしまうと、人々は信じている風だ。言わなくたってどうせそのうちくもるというのに! まったくむずかしい問題だ。

「しょうがないわね!」

 ミューリは厚いコートをはおり、何重にもマフラーをまいて、ボアの帽子をすっぽりかぶって、顔がわからないように大きなマスクをすると、

「あたしは、とにかく仕事に行ってくるわ!」

 と裏口からそっと出て行った。

「ママー! ぼくも行きたい」

 とシャシュが言うと、

「あたちも」

 とチャヌも後を追った。

「だめだよ。ママがお仕事に行かなければ、うちでは何も食べられない。さ、季節の本を読んであげるから、こっちにおいで」

 ジョシュが二人の子供をかかえて暖炉のそばに行き、家に1冊だけある、季節の本を子どもたちに読んで聞かせた。

 この本の中には四季というものがあるのだ。シャシュもチャヌも冬以外の季節が大好きだった。

「ね、こんなにきれいなお花がいっぱいに咲く日があるの?」

とシャシュが聞くと、

「あゆの?」

 とチャヌがまねして言って、二人はすっかりそのお話の中の春の季節に自分たちが暮らしているような気分になる。

「ね、ね、こういう日は暖かいの?」

 とシャシュ。

「あっらかいろ?」

 とチャヌ。

「そうだよ。今だって暖かいだろ。こうやって暖炉の前にいて、ぬくぬくしている、春ってそんな所だと思うな」

 夏のところにくると、また二人は質問した。

「水に入って遊べるの?」

「あしょべゆ~?」

「これ何、水の上にはドーナツがあるの?」

「あゆ~?」

 ジョシュは困った。その絵本に描かれているドーナツ状の風船みたいなものは、見たことがない。人はその輪っかの中に入って、水の中に漂っている。ジョシュはなんとかわかる範囲で説明した。

「うん。一人ずつのための小さいお船みたいなものがあるのかな?」

「だって、お船って動かないでしょ?」

 確かに、バコバコリの先、ジョギョン港に船はあったが、氷に閉ざされた海でカチコチになっていて動かない。船が水に浮くものだということは、ジョシュも本で読んで知ったことで、実際に動く船を見たことはなかった。

「夏には氷が溶けるんだよ。水になればその中に入れるんだ」

 バコバコリの人達は、氷を買って来て溶かして水を作っている。だから、シャシュも水がどういうものかは知っていた。

「いつ溶けるの?」

「とけゆ?」

「うーん、夏が来れば溶けるんだよ」

 ジョシュは言葉につまりながら、なんとか説明した。

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