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夢見の家 回想1

やりきれない思いはいつでも心の奥底に残っている。

自分の無力さを思い知らされたあの初夏の日――――消化できない追想おもいはあの時から凍り付いたまま、溶ける気配さえ感じさせない。



この頃、夢見が悪かった――――



麻樹あさぎたける 十六歳・初秋――――

9月も終盤を迎え、幾分か夏の暑さも落ち着き、少しづつ肌寒さを覚え始める。

そろそろ衣替えの時期だなぁ、とうつらうつら考えながら、威はかったるい英語の授業を受けていた。

変にアクセントのある教師の声は質が悪いBGMにしかならない。本日幾つ目かの大欠伸を、辺りにはばからずしてみせながら、彼は窓の外へと視線を向ける。

照り付けて来る陽射ひざしは夏の攻撃的な部分を潜め、心地よい暖かさで彼を眠りへと導く。

(最近、しっかり眠れないからなぁ)

彼自身、原因は判っている。

どれだけ深く眠っている積もりでも、夜中に何度も『夢』に叩き起こされる。

それがために昼間に眠くなってしまう。そんな悪循環だ。

「私の授業はそんなに詰まらないのかしら?」

いきなり現実へと引き戻す声に威は後ろにすっ転びそうになる。

教室に意識を戻すといつの間にか隣りに来ていた女教師が青筋をたてながらこちらを見下みおろしていた。ヒステリー気味につりあがったまなじりには獲物を見つけたような剣呑けんのんな光が宿っている。

「スタンダアァップ、ミスタ麻樹。質問の回答は?」

発音的に少し難のある言葉で彼女は威を立たせると、彼女はにやりと笑いながら自分より背の高い威の顔を覗き込む。舌舐めずりの音さえ聞こえそうなその視線に、威は面倒くさそうに教室に備えてある時計に目を向けた。

時計の針はすでに授業が後僅かで終了することを示している。

(あー、面倒くさい……このままだと、放課中までこの金切かなきり声の餌食かよ)

はっきり言ってその結果はあまり好ましくない。

威は仕方なく肩を竦めて見せると、人を魅了するような視線で目の前の女教師に笑いかけた。

「はい、って言って困るのは先生だろ?」

義兄あにさとる幼馴染おさななじみ月路つきじ恵吏えりが学園が居なくなった後、この学年で学業のトップに立っているのは威自身と、後もう一人の幼馴染の山下やました洸野こうやだ。

更に言えば、威はこの学園の副理事長の息子だし、理事長とも懇意こんいであることは学園の誰もが知っている所だ。

そんな彼に『教師としての能力に疑問がある』などと言われたら学年の途中であろうと教科担任から外される可能性も棄てきれない。

理事長・副理事長の性格をきちんと理解していればその可能性の低さはわかるだろうが、彼女にはそれが本気の脅しのように感じられた。

途端に女教師は顔を赤黒くさせ、口をぱくぱくさせながらも反論すべき場所を探し始めた。

「だからって……その、あまり……あくびは」

勢いをなくした教師の声に威は無償に苛つきを覚えながら、ばんっ!と机の上の教科書を叩いた。

「授業を聞かなくてもテストの点数さえ稼げばいいでだろ?こうしていることはすでに時間の無駄です。聴く必要の無い俺に構わず、授業を進めてください」

いつもの彼らしからぬ険のある言葉に教室がざわめいたが、威は全く気にせずそのまま教師の許可も得ずにどかりと椅子に座ってみせた。

ふと視線が前をみると洸野が心配そうに威を見ていた。その視線には「やりすぎだぞ」という言葉も含まれている。

その視線に跋があるそうに視線を逸らすと、未だ固まっている女教師に最後の言葉をかけてやる。

「まあ、このクラスに貴女が必要かどうかは本当に疑問ですけど」

威たちの学園は成績順にクラスが決められている。成績上位者の集まるA組から始まりG組までは1年生は入試の点数、他学年は学期末+学年末のテストの合計点数が多い順から振り分けられていた。

このクラスはA組である。このクラスに居るだけで彼らはかなりの特待が受けられるため、他の私学に比べても優秀な人間が集まっていた。

そんな人間に対してヒステリックが武器なだけの彼女ははっきり言って無用の長物である。

最初は彼の言葉の意味が解からなかった彼女だったが、急激にその意味を理解すると顔を真っ青にして手を振り上げた。


キンコンカンコーン……


その瞬間にあわせたように授業の終了を知らせるチャイムが響いた。

「きりーつ、れー。ありがとうございましたー」

それを見越した学級長の中川なかがわとおるが教師を無視し、さっさと授業終了の号令をかける。他の生徒たちもまるで何もなかったかのようにそれにあわせて「ありがとうございましたー」と適当にあわせた。

まるでクラス全員に馬鹿にされた状態になった彼女は悔しさに顔を真っ赤に染めると、駆け足で職員室へと帰っていった。

威は小さく溜息をつくと、未だ心配そうにしている洸野の視線を無視して惰眠をむさぼるために机に突っ伏した。



前の出会いの話から1月後ぐらいの設定です。

威の性格が何か悪くなっています。理由はまた後で出てきます。

威たちの通う学校は全部で20クラスあります。

物語中にあったようにA〜Gまでが成績順。

H〜Jクラスは寄付金のあるクラスで家柄や企業規模等を鑑みて決められます。

K〜Mまでがスポーツ特待等のクラス。

Nは芸能クラス。

O〜Qが音楽科、R〜Tが美術(芸術)科。

企業資本が入っている巨大なマンモス校で幼等部〜大学院までの一環教育を行っています。

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