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夢見の家 追憶2

「それじゃ、夕方に」

分かれ道で軽く手を振り別れると、威はそのまま屋敷の門へと向かった。

彼の姿を確認した門衛は「お帰りなさいませ」の言葉と共に人が一人通れる分だけ門を開ける。

威は軽く「ただいま」と応えると屋敷へと通じる長い道へと歩を進める。ここからは庭師以外の人間はいないだろうから、彼はゆっくりと空を見上げながら歩いた。

(雲が多いし、気温はあがらないし、こりゃ本格的に雪が降るかな)

洸野が来るまで何とかもってくれればいいな、と考えながら歩いているといつの間にか屋敷へとたどり着いた。

「お帰りなさいませ、威様」

年配のメイド頭・大野木美智子は威が到着するのを安堵の表情で迎える。彼女がこういう表情で威たちを出迎える様になったのも、理がいなくなってしまってからだ。小さな頃から見守ってきた『坊ちゃまの片割れ』が自分が見送った後に行方不明になってから、彼女は威が帰ってくるのを確認するのを日課にしている。

「ただいま、美智子さん。夕方ぐらいに山下が来るって言うから夕飯の用意お願い。後、俺、今から寝るから山下が門を通ったら起こして」

「はい、わかりました」

努めて明るい口調で笑う威に彼女は目を細め、すっと頭を下げた。




つんっ………つんつん……

頬をつつかれる感触に威は眉を顰めるとゆっくりと目を開けた。

「お、やっと起きたか」

視界の先には穏やかに笑う幼馴染の姿。新緑色の瞳がおかしそうに自分を見ている。

「あれ?……お前が門についたら起こして貰うように美智子さんにお願いしたんだけど」

ぼけぼけする頭を何とか回転させ眠る前の事を説明する威に、洸野は肩を少し上げて苦笑した。

「ああ。普通に美智子さんが起こしに行こうとしたら、その権利をかけてメイド達の戦争が勃発したそうだ。事態収拾のためにも俺に起こしに行ってくれって美智子さんに頼まれた」

そういえば、最近こういう事が何度か起こるようになってきた。

以前は実質、麻樹家の後継者である理の成長と伴い出てきた小競り合いだった。しかし理は家族か幼馴染み・美智子さん以外が起こしにくると非常に機嫌が悪くなり、下手すると部署変更などの憂き目に会うのですぐに下種な争いは沈下した。

しかしその理が行方不明となり、後継者足るべき人物が威だけになった途端にメイドたちは『未来の家主』となる少年に色気たっぷりに群がった。

さすがに度が過ぎる女性には威も両親に訴えて退職願ったが、普通に近寄ってくる人間に冷徹に接することなど出来ない。

それが義兄と自分との『後継者足りえるか』の差異であることを威は重々に理解していた。

「料理は理の部屋に運んで貰っておいたから、お前はせめて制服から着替えて来いよ」

洸野の言葉に、威は自分が制服のままベッドで横になっていたことに気づいた。彼は「ふわぁい」と未だ眠気の残る返事で応える。

「それじゃ、先に行ってる」

洸野はベッドの端から立ち上がり、入り口のドアを開けた。

それから何かを思い出したのか、ゆっくり振り返ると着替え始めた威に楽しげに声をかける。

「今日は、月路から届いたサプライズがあるから、楽しみにしてろよ」

「はあ?」

制服のネクタイを取りながら、威は訝しげに返す。

少なくとも彼女から、『今回のクリスマスは戻れない』旨をすでに受けている。ならば何か特別なプレゼントでも届くのだろうか。

「いったい、何なんだ?」

威が再度問い返すと、洸野は「教えたらサプライズじゃなくなる」とはぐらかしてきた。

「俺も楽しみにしてるんだ。早く、部屋に来いよ」

その言葉と共に閉められたドアを暫く威は無言で見つめる。

それからおもむろに着替える手を早めた。

彼が『楽しみ』にしている事が何なのか、久しぶりに感じるわくわく感だった。


なんとなく『若いメイドにとってみれば若い(高校生)の次期当主は狙い目だ』というお話になってしまいました。

理は威と違い、寝起きが悪いし、自分の中での『身内(仲間という観点を含む)』と『他人それいがい』を区別するのでこういう騒ぎの場合、さっさと他人を切ります。

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