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この場所から Return to Dreamin' House 4(終)

「人間の世界には『国際電話』っていう便利なものがあるんだよ。リュウファ」

それがあれば本人と直接話すことが出来る。本人に様子を聞かなくても、威と洸野を見守っている麻樹夫妻や彼女の情報ネットワークの一員である『山下剣人』に連絡を入れればいい。

恵吏の指摘に、少年───リュウファはしょぼんと下を向いた。

「それじゃ、ぼくに出来ることはない?」

「そうだな」

気落ちして俯く少年に、恵吏は短く返答する。それが更に彼の肩を落とさせる。

そんな彼の様子に、彼女は優しく眼を眇めた。それは恵吏が幼馴染みとその親たち以外に見せない表情だった。

「なあ、君は僕たち3人の知らない理の姿を知ってる?」

「………う、ん。たぶん」

顔をあげた少年は自信なさそうに頷くと自分が知っているその姿と言葉を手を止めていてくれる彼女へ耳打ちした。リュウファの言葉に無言で頷いた恵吏はすぅっと目を眇めて見せた。

「ああ、それでいい」

彼女の言葉にぱあっと顔を明るくする。

「その時の理の姿を彼等あいつら幻影ゆめの形で見せてやってくれないか?」

恵吏からの申し出にリュウファはきょとんとした。

「そんなことで、いいの?」

「そんなことが、いいのさ」

自分の能力からすれば簡単すぎるお願いに不思議そうにしている少年に彼女は落ち着いた口調で肯定した。

どうやら精霊である彼には『人間』がどういうことで喜ぶのかの基準が少しわかっていないようだ。

「えっと、貴女も、その幻影ゆめ見たい?」

おずおずと声をかけてきた少年に、彼女は目元だけで微笑むと手招きをして自分の膝を示した。

彼は理などに対する態度と自分に対する態度に隔たりがある。恵吏に接するときだけどこか遠慮しているむねがある。

「見たい、かな」

恵吏が笑ってそう答えると少年はぱぁっと顔を明るくした。

「じゃあ、見せてあげる」

「と、言っても、まだ少し仕事があるから暫く待っててくれるか」

机の上に広がっている書類はまだひとつの山を築いている。彼女の実力ならさほどの時間を置かずに片付けられる量だが、それでも一瞬で済ませられる量ではない。

「わかった。ここで待ってるよ」

リュウファは近くにあった椅子に座ると、もの珍しそうに近くにあった本をめくり始めた。

その様子に安心したのか、恵吏も書類へと意識を戻した。


……~~♪


しばらくすると、かすかな音が、恵吏の耳に入ってきた。

気づかれないようにリュウファの方へと視線を向けると、彼は本を眺めながら無意識に鼻歌を奏でているようだった。

少し高めの綺麗な音階が部屋を満たす。その音楽は聞き覚えがないのに、どこか懐かしい感じがした。


♪♪~~……~♪~~♪♪…


恵吏は彼の歌に優しく眼を眇めながら、目の前の書類を処理していく。この分だと、予定よりも早く処理ができそうだ。

書類が終わったら、彼が気付くまでじっくりとこの歌を聴いているのもいいだろう。

そして、歌と幻想ゆめのお礼は、料理でも作ってあげようか。

(そういえば、前に僕が作ったお菓子を嬉しそうに食べていたな)

味だけなら、断然、洸野がつくったお菓子の方がおいしいだろうに、彼はわざわざ恵吏が作った方のお菓子を選んで食べていた気がする。

(腕によりをかけて、お礼をしてやるか)

彼女はひそかに口元に浮かべると、本日処理しなくてはいけない最後の書類にペンをいれたのだった。

やっと、完結です。『夢見』の間の話ということで、必要な複線として急遽、書き始めた話ですが、やっとこさ終わってくれました。

時間がかかったのは、詰まったからなのか、ゲームをしていたせいなのかは内緒です。

次回からは舞台を日本に戻して『夢見の家 追憶』になります。久々にファンタジー色のある話になりますので、よろしくおねがいします。

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