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夢見の家 選挙 番外:小さな対決

威を生徒会長立候補してすぐに、隼人は校舎裏へと兄の恋人である裕穂を呼び出した。

この学園において通常の選挙をする場合、前生徒会長の推薦は大きい。それを彼女は恋人の弟ではなく、赤の他人に行うというのだ。

更にいうならば、その候補者自体、彼女自身が協力に推して立候補させたと聞いている。

「どうして!僕の邪魔をするような真似をするんですかっ!あなたは僕の兄の恋人なんですよっ!普通なら僕を応援するのが筋ってもんでしょ」

噛み付きそうな剣幕で当然とばかりにそんな科白を怒鳴りつけてきた隼人に、裕穂は呆れたように肩を竦めた。

「君の理論で行く場合、僕が応援しなきゃいけないのは洸野くんだよ。君は剣人の弟ってだけだけど、洸野くんは弟プラス僕の幼馴染でもある。だがそれは本人の希望で却下されたから、当初の予定だった理くんの弟である威くんへと切り替えた。どこか僕の言葉におかしいところはあるかな?」

冷徹なまでに理路整然とした返答に隼人はかああっと頬を怒りで赤く染めた。

「あんな妾腹なんか!」

吐き捨てるように声を荒げる隼人に、裕穂はすぅっと表情を消しその言葉を止めさせた。

「ずいぶん、下卑たことをいってくれるね。君のそういう発言が会長候補に相応しくないと僕が結論づけているところなんだけどわかってるかな」

声はまるで小鳥が歌うように可愛らしいのに、その中に含まれる毒が廻りを一瞬で凍らせる威力を持っている。彼女は小首をかしげて見せながら自分のポケットの中から小さな機械を取り出して見せた。

裕穂の手に乗せられたそれはボイスレコーダーだった。それもしっかりと録音のランプまでついている。自信に満ちた言葉や態度からしてそれが記録を開始したのは彼女がこの現場に来る前からだろう。

「そんなものっ!」

証拠となる機械を壊そうと一歩足を踏み出して伸ばした腕は、いつの間にか彼女の傍に来ていた剣人によってがっしりと手首を捕らえられていた。

「兄さんっ!」

隼人は非難するために兄の顔を見上げて、ひっと息を呑んだ。その瞳が今まで一度も自分に向けられた事のない冷たい色をしていたからだ。

「いい加減にしろ、隼人」

低く響いた声に、隼人は唇を噛んだ。かつて自分を優しく見守ってくれていたはずの兄は、今や恋人である尊大な女を選び、あろうことか家を出て異母弟こうやと一緒に暮らしている。

確かに親切を空売りする親族から自分だけが本妻ははの子供で目の前のけんとも卑しい妾の子供だときいている。でも、そんなことはまったく関係ない。隼人にとって兄は多大な期待を押し付けてくる母や無自覚な悪意を晒してくる親族から守ってくれる盾であり、旧家である山下の家を継ぐに相応しい唯一の人物だ。

それを自分にとっては他人に等しい者たちが勝手に扱うことなど許されるはずがない。

もっといえば、兄が自分の味方にならなくなったのは『彼女ゆうほ』と『こうや』が惑わしたせいだと隼人は思っていた。

「兄さんも、言ってください。あんな血筋だけよくて後は引き取られた義兄に負けていた一年生なんかより僕のほうが会長に相応しいって」

縋るように見上げてくる隼人の視線に剣人は眉根を寄せた。

本当の所、剣人には弟が会長職などという上に立つ立場が向いていないことは判っている。だからといって、異母兄だとわかった後も自分の跡だけを追っている隼人を切って捨てれるほど彼は厳しく出ることも出来なかった。

そんな剣人の心の機微を読み取った裕穂は大きく溜息をつくと先ほどよりももっと冷たい視線で兄に縋っている隼人を見下した。

「君ではこの学校の生徒のための最高の生徒会を作ることなど無理だよ。力不足だ」

最後通牒を突きつけるように発せられた言葉に、隼人はがくりと膝を落とした。

そんな弟へと手を差し伸べようとする剣人の手を裕穂は軽く止めると無言で首を振って見せた。

「それでは、これで失礼するよ。僕の手元に君がさっきまで発言した暴言があることを忘れないように以後、行動してくれ」

剣人には何も喋らないまま、裕穂は地面にくず折れて頭を落としている隼人に言葉を投げつけて背を向けた。

剣人は何か言いたそうに自分よりも30センチ以上下にある恋人の旋毛を見ていた。

自分の手を引っ張る小さな手が、剣人の行動を制するようにぎゅぅっと握られる。

そんな彼女の意地っ張りな行動に彼も無言で頷き、出来るだけ前だけを向いて歩き始めた。





隼人から大分離れたところで、校舎に入った二人は人気のない廊下の一角で足を止めた。

「ごめん、君の弟に酷いことをしているのはわかってるんだ」

裕穂は顔を伏せたまま、剣人に謝る。背の小さな彼女がそうすると身長が基準よりも高い剣人にはその表情が見えない。

「ありがとう。俺は隼人あいつに負い目があるから、強く出られない。お前にばっかり悪役をやらせてごめん」

剣人は自分の胸の下にある恋人の頭を腕の中へと抱き込んだのだった。

長くなりました、『選挙編』の番外です。

話の時間枠としては『選挙5』と『選挙6』の間、『選挙10』にて隼人が悪態をついていた部分にかかってきます。

内容的には書いていくうちにBLっぽいかと思いましたが、裕穂と剣人は普通のノーマルカップルですし、剣人と隼人の間に何かあるわけではないので、スルーという方向で行きました。

これにて完璧に選挙編は終わり、暫し月路恵吏が主人公の『この場所から』の『Return to Dreamin House』が数話入ります。

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