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夢見の家 選挙9

威がインタビューを受けた二日後に出た学内新聞によって選挙の勢力図はかなり変わった。

大言壮語を用いて『麻樹威』の支持を受けているように振舞っていた谷口の人気は、それ以降、下降しており、彼を用いて洸野の支持は勿論、『谷口を推挙している』ことで威の支持を下げようとしていた隼人はその事を苦々しく思っているらしい。

なお、谷口は著しい選挙妨害だと新聞部や威に文句をつけたが、新聞部には『嘘の情報を先に出したのは?』と逆に文句をつけられ、威に至っては一睨みで教室から追い払われた。

「明日には立会演説会ですよね」

威は、最近、通いなれた生徒会室のソファの上で上体を伸ばしながらくりくりと自分の長い髪の感触を確かめる。

裕穂の指示で切る覚悟はできた髪だが、未だ、いつ切るのか知らされてない。

もしかしたら裕穂の時と同様に立会演説会の真っ最中に切れと言われるかもしれないとは思っているが、目の前の女性が、自分の二番煎じみたいな事を自分にやらせるのかが疑問である。

「校則が変わって、壇上に刃物が持っていけなくなったからねぇ」

裕穂は間延びした口調で言うと、小さく「ふふふ」と笑った。

「へ?」

「僕の演説の際のパフォーマンスが一部の教師に受けが悪くてね、翌年から壇上に刃物は持ち込まないことって改正されたんだよ」

驚いた顔で自分を見ている威に、彼女は口元の笑みを深くする。生徒会室の外では新聞部の部員が張り付いているのが、わかっているのかその態度にいささかの惑いは見せない。

「だから、君にはこの予定で行動して貰う」

彼女はそういいながら、威の前に数枚の書類を差し出した。どうやら明日の演説などのための草案らしい。

彼はその書類にざっと目を通す。その内容に目を更に大きく見開き、威はくしゃくしゃと頭を掻いた。

「こんなこと、できるんですか?」

「みんなね、生徒会長になるべき『校則』を読み誤ってるんだよ。本当は、それでOKなんだ」

自信満々で宣言する裕穂に、威は校則の一文を思い出してみる。


『生徒会長は学園の生徒の模範となるべき服装・髪型をしなくてはならない』


そして裕穂から出された草案を見る。

「確かに、そうですけど」

呆れる威に裕穂は親指を立てて、にっこり笑った。

会長候補・・・・が二人いる場合は特に、この一文になぞらえて考えれば判ることなんだ」

確かにそうだ、と威は改めて思った。

それならば、彼女の立てた草案は一番良策だ。

「明日、隼人さんが怒って罵るのが楽しみですね」

威の言葉に、同じ事を考えていた裕穂は大きく頷いて見せた。





選挙当日、午前中は普通に授業を受けていた生徒は昼食後、すべて高校の大ホールへと移動した。

2500名近い総生徒を収容できるホールではクラスなど関係なく思い思いの位置に生徒が着席していた。

「圧巻ですね」

舞台の端から客席をのぞいた威に、「いい眺めだろう?」と裕穂は楽しそうに答えた。

「全校生徒が集まるのは、生徒会選挙とその後の就任の生徒総会、それから会長命令で行われる生徒総会の時だけだからね、文化祭の開会式や、その他の学級行事だとクラス控えの生徒とかでだいぶ人数が削られるし、入学式・卒業式は1学年のみ、後は体育祭だけどあれは大運動場のほうだから、このホールは使わないしねぇ」

つまりは生徒会のためだけにのみこのホールは全使用される。そのことに威は改めて感慨を覚えた。

ふと後ろからの視線を感じ、ばれない様に視線を動かすと威の後ろで控えていた山下隼人がまだ長いままの威の髪の毛を見ながら、ひそひそと自分の推薦人と話していた。時々洩れる下卑た笑いから、裕穂の意図は読まれていないことが判る。

(さて、結果ごろうじろ)

威は隼人から見えないように口角を上げると、生徒の視線が集まる舞台へと一歩を踏み出した。

やっと、立会演説が始まります。

これさえ終われば長かった選挙戦も終わりです。

裕穂は他にもいろいろ仕込んでいますが、そこのあたりは立会演説が始まれば判ると思います。


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