夢見の家 選挙7
やけに自信ありそうに笑っている裕穂に威は胡乱な目を向けた。
「もう『勝算のある計画』はできてるんですか?」
未だ、ここにいる誰にも計画の詳細は語られていない。
彼女の持論として『計画の概要は恋人にだろうと明かさない』ことにしているらしい。
「まずは、今から新聞部の取材を受けて貰うよ。質問には『正直』に答えてあげてね」
彼女が台詞を言い終わるや否や、生徒会室の扉が勢いよく開いた。
「お招きありがとうございます、生徒会長。あなたの下僕ただいま参上しました」
学内でも『特殊』な意味で有名な新聞部部長・徳永元保が元気な挨拶をしてずかずかと乗り込んでくる。その後ろには、現生徒会・書記で剣人の幼馴染であるの早川叡知と不満そうにしているこれもまた新聞部の有名インタビュアーである森本風野が従っていた。
突然の闖入者に威は目の前の机に懐きながら、平然としている剣人へとじと目で講義の意を送って見せた。
「なんで、新聞部部長が生徒会長の下僕なんですか」
威の当然の問いに、同じように脱力していた洸野が頭をかいた。
「取材制限はしない、質問にはいつも快く答える、先にデータを与えて出すタイミングを計るように要請する……ここが強制じゃないところがあの人の頭のいい所だな、そういうことの積み重ねと、あともともと徳永先輩の好みど真中だったことで、ああなったらしいって、理が言っていた」
「そうですかい」
友人の説明に威は「はあああっ」と大きく息を吐いた。
その間にも徳永による『裕穂を褒め称える言葉』は続いている。
(どうしたものかな)
威は視線を、徳永と一緒に来た森本に向けた。彼は裕穂に『挨拶』をしている自分の先輩を呆れた顔で見ていたが、威の視線が自分の方を向いているのに気づくと威の座るソファへと近づいてきた。
威は一旦ソファから立ち上がり、自分の向かいの席を森本へと勧めた。
「始めまして、新聞部記者の森本風野です」
「始めまして、会長に立候補した麻樹威です。森本先輩の書いた記事は何度か読ませて貰っています」
威の言葉に森本は眼鏡の奥にある目を少しだけ眇めた。その表情や口調から自分の対象者が言っている言葉が本心からのものかを探っているようだ。
「インタビューだって聞きましたけど、徳永先輩の『挨拶』が終わるまで待ちますか?」
そんな視線を感じつつも、威は未だ口が止まらない新聞部部長へと視線を向けて目の前の森本へと問いかけてみた。
「いや、あれは部長の気が済むまで永遠に終わらないから、先に始めよう」
その態度が気に入ったのか、部屋に入ってきた時とは打って変わった笑顔で、森本は胸ポケットの手帳を取り出した。
「生徒会長としての目標やその指針は文章としてあがってきているのですっ飛ばして、君の頭の中での副会長人事から聞かせて貰えるかな?」
唐突な質問に威はきょとんとした表情を見せてから、すぅぅっと目元を眇めた。
「どうして、その質問が来るんです?」
そういえば先ほど読んだ気に食わない谷口のインタビューもこの人の手によるものだった、と威は紙面の中の記者名を思い出していた。
威の表情に、森本はにやり、と笑うと自分の手帳の上をペン先でとんとんっと叩く。
「いろいろと1年生の教室をインタビューしてたら君のいるA組と他のクラスで君が推している副会長の名前が違ったからね」
記者である森本にとっても、目の前の人物の様子は面白いものだった。
この前の新聞を作る際に、なぜ部長が副会長候補である谷口のインタビューを優先させたのかこれで合点がいった。
彼は自分が女神のごとく崇める現生徒会長からこの情報を仕入れていたのだ。
(他人に踊らされて記事を書くのは面白くないけど、事実にそぐわない記事を書かせることだけはしないからよしとするか)
裕穂の采配で自分が動かされていることに少しだけ不満を感じつつも、森本は目の前の彼女が推薦する次期生徒会長候補へと意識を戻した。
前に書いた時に考えるのが面倒くさくて端折ったところを加えたら驚きの長さ。立会演説が遠いです。
今回初登場の3人のうち新聞部の部長のみモブです。
叡知は剣人とも幼馴染ですが、理と恵吏とも友人でいろいろと情報通な人です。
森本はモブ予定が書いていて楽しかったので、たぶんこの後も出てくると思います。どうせ徳永卒業後は彼が新聞部の部長でしょうし。
とりあえず、インタビューが済んだら立会演説が始められると思うので、そしたらこの章もやっと終わります。
後、何話かかるのかは不明かも。