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夢見の家 選挙5

「髪、切るの、そんなにいや?」

裕穂が不思議そうに見上げてくるのに、今度は威が苦笑した。

「別にいやって訳じゃないですけど、隼人さんに負けた上で更に髪が短くなるってのは本当に面白くないなぁって」

彼の言葉に裕穂はぱぁっと顔を明るくした。

「なんだ、そんなこと。大丈夫、僕がきちんと君を生徒会長にしてあげるよ」

その顔には微塵の不安も無い。不遜なまでに自分の勝利を信じきっている顔だ。

威は「あー」と気の抜けた声を上げると、机に肩肘をついて裕穂をちろりと見た。

「俺、周りに気を配れないですよ」

「僕がいつ周りに気を配ったの?」

(そりゃ、そうですね)と、威は心の中で納得した。たしかに目の前の少女は周りを巻き込む時に気を配っているようには見えない。

「知名度があるわけじゃないし」

現在いま、学年トップって君だよね?」

優秀だった義兄と幼馴染がいない現在、テストでの上位は威と洸野、それから中川とその彼女によって独占状態だ。

「部活もあるし」

「バスケ部の幽霊だっけ?」

それぐらい調べてあるよ、とばかりに裕穂は優雅に笑ってみせる。

威は最後に一息つくと、ばりばりと頭をかきむしった。

「本っ当に俺は生徒会長に当選できるんですね」

「僕ができるといって実践できなかったことは無いよ」

自信満々に最後の返事を返した裕穂に威は意を決するとぴしりと背筋を伸ばしてソファに座りなおした。

「わかりました、その話、お受けします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

深々と頭を下げた威に、裕穂もすっと背筋を伸ばして綺麗に頭を下げた。

そして同時に顔を上げると、互いにぷっと吹き出した。

「あははっ、それじゃ決まった所で威くんはお昼にしようか。君、お弁当は?」

笑顔で空になったティーカップを持ち上げた裕穂は軽い足取りでそれを片付けながら同様に笑っている威に問いかけた。

「あー、俺たちの弁当は昔から山下が作ってきてくれるんですけど……」

山下洸野が包丁を握れるようになった小学3年生の頃より、威たち幼馴染4人の弁当は彼の手製になっている。もちろん、食費も馬鹿にならないだろうから、作って貰った弁当の数に対してそれ相応の金額は無理やり押し付けている。

「そういえば、剣人けんとに洸野くんに話をつけて貰うように言ってあったっけ」

威の言葉で思い出したのか、裕穂は口元に人差し指を付けてしばし考える仕草をとった。

そういえば、と威も自分が生徒会室に呼び出された時の事を思い出す。見渡した教室にはすでに洸野の姿はなく、いつもなら机の横にどっしりと構えている重箱弁当も消えていたように思う。

(さて、どうしよう)

威は自分のお昼分を確保するべく思考を巡らせた。


がらがらがらっ


「裕穂、威との交渉終わったか?」

無遠慮に開いた扉から背の高いがっしりした体格の青年が入ってくる。その途端に裕穂の顔が明るく綻んだ。

「うんっ!ちゃんと了承まで貰ったよ。剣人はどう?」

裕穂の問いかけに黒髪をたたえたその青年はぐっと親指を立てて見せた。

「任せてくれ、ちゃんと『威の了承が得れたら』という返事は貰ってる」

(それ、すごく他人任せな了承じゃん)

威は呆れたように目の前の剣人を見上げた。

ふと見るとその後ろに茶色い髪の毛が見える。どうやら剣人の体に隠れてはいたが洸野もここにきているらしい。

「それじゃ、威くんが生徒会長で洸野くんが副会長、それで布陣をひいてかなくちゃ、ね」

明るく会話している二人を余所に疲れた顔の洸野が剣人の後ろから現れた。その腕にはしっかりと威と洸野、二人分の弁当が抱かれている。

「お前が断ってくれると思ってたんだけどな」

洸野は「はぁぁぁっ」と大きなため息をつくと、生徒会室のソファに座っている威の前に弁当の包みを置き、広げ始める。どうやら時間も無いからこの場で食事を済ませてしまうつもりらしい。

山下おまえだったら断れるのかよ」

威が胡乱な視線で問いかけると、洸野は苦笑しつつ「無理だな」と結論を返した。



とりあえず、威、承諾です。その所為で洸野まで副会長に立候補することになりました。

と言っても理がちゃんとここにいても、洸野は副会長に立候補させられる運命にあるので、彼にとって二人の申し出は別に苦もないことだったと思います。

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