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夢見の家 選挙4

中学生の頃から伸ばし始めた威の髪は、現在、腰の辺りまで伸びている。

伸ばし始めたのは義兄のさとるや親友の月路つきじ恵吏えり山下やました洸野こうやが紫がかった黒なんていう特殊な色をした彼の髪を綺麗だと褒めてくれたからだ。更に彼らと別れてからは『願掛け』の意味も加えて前よりも手間をかけて伸ばし続けている。

しかし、生徒会長に立候補するとなるとその髪型に問題が出てくる。

校則にて『生徒会長は学園の生徒の模範となるべき服装・髪型をしなくてはならない』と定められており、いかに生徒向けの校則が変わろうが、生徒会長職のみその格好に制限が設けられている。

まず制服はきちんと上部ボタンまでしなくてはいけないし、髪型はショートカットでなくてはならない。

歴代の生徒会長が幾度か改正しようと試みたが、この校則だけは学校側から改変が許されないのが現状だ。

つまり、威のように長髪の生徒が立候補する場合は髪の毛を切ってこなくてはならない。

「髪かぁ……僕の時もネックだったんだよねぇ」

裕穂ゆうほは短い髪がくすぐる自分のうなじへと手を当てた。

かつてそこには豊かな栗色の髪が腰の下まで湛えられていた。それを彼女は自分の手で切り落としたのだ。

「そういえば、裕穂先輩は最後の立会演説の時に髪の毛を切り落としたんでしたっけ」

もはや伝説と化している2年前の立会演説会、ほぼ互角とみなされていた一学年上の対立候補に対して裕穂は奇策ともいえる手段で勝利を収めた。

『髪が女の命だというのなら、今、私はここでその命に変えてこの学園の生徒会長という職務をこなす決意を見せましょう』

その言葉と同時に彼女は懐剣を取り出すと自らの髪を大衆の面前でばっさり切り落とした。驚愕する周りを余所に、彼女は魅力的な笑顔でその場を納め、ほとんど満場一致の状態で生徒会長の椅子を手に入れたのだ。

「僕は高校から学園に上がった外部生ってのもあったから、それぐらいのパフォーマンスが必要だったんだよ」

何の気なしに言っているが、当選できるかどうかわからない状態でそんなことをできる事が彼女の非凡さを裏付けている。

「それに僕の前の会長、瀬良せらすばる先輩っていうんだけど、その人から夏休み前に打診があってから決断するまでに時間があったから腹もきちんと座ってたからねぇ」

その人の名前にも威は覚えがあった。裕穂と同じように伝説に近い、1代前の生徒会長。

彼の人柄に触れた全学年の生徒に愛され『暁の大天使ミカエル』という字まで与えられていたその人は幼等部・小等部・中等部と経てあがってくる内部生と、受験により高等部もしくは中等部から入学した外部生との区別を取り払った人物でもある。

その最たるものが威の目の前にいる女性に『君なら、この学園を変える生徒会長になれるから、立候補してね』と白羽の矢を立てたことだろう。

「俺の場合はその猶予すらなしですか」

ため息混じりに威がいうと、裕穂は苦笑をしながら大きな机の向こうにある立派な椅子へと視線を移した。

「次の次の選挙までの1年間だろうが、生徒署名によるリコールができる3ヶ月の間だろうが僕は隼人くんに会長の椅子を与えたくないんだよ」

裕穂にとり『山下隼人』という人物はそれほどまでに鼻持ちなら無い人物だった。

彼が行おうとしているのはこの学園の生徒会長が長い年月をかけて変えてきたことを原点へと返すこと、内部生・外部生の差別化や、家柄においての優遇などいろいろ画策していることは調べがついている。

しかし今の所、彼はそんな素振りをおくびにも出していないため、情報を流しても選挙妨害と騒がれるだけだ。

生徒会長になって正体を晒したところでリコールする手では、今まで生徒会が苦労して積み上げてきた学園運営の基盤が無用に引っ掻き回されることになる。

「理くんがいないから、君にって言うのは確かに面白くない。それでも今の僕や歴代の生徒会長OBは手段を選べないんだ」

じっと見つめてくる裕穂に威は大きく息を吐いて、天井を見上げた。

確かに自分がやらないとまずい状態というのは改めて理解できた。理の代わりに自分が立つのもやぶさかではないと思っている。

(髪の毛、だけなんだよな)

確実に生徒会長になれるというのなら、高校2年間ぐらい髪の毛を切ってもいいかぐらいまで威自身も譲歩している。願を賭けているといっても、髪が長い状態でも友人たちは四方八方に散り散りとなり、妹も病死したぐらいだから効力など薄かったと割り切れる。

ただやはり自分の知名度は『理の弟』ぐらいなもので内部生で副理事長の息子だとしても2年生で現副会長の弟の対立候補に対してこれといって勝てる要素が見当たらない。そんな状態で先走って髪の毛を切るのはなんとなく面白くなかった。

裕穂、なんとか威を説得しようとしています。

今回も本編にあまり出てこない人の話がだいぶ出てきて話が遅々として進みませんでした。

ちなみに隼人は剣人が正妻の子供ではないことを知りません。ゆえに剣人のことは尊敬しており、洸野の事は蛇蝎のごとく憎んでおります。

瀬良昴は『至空シリーズ』の他の話の主人公で、彼の友人は理が麻樹家に引き取られる前の幼馴染です。

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