表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/41

夢見の家 回想14

「僕は戻ってきた理くんをぼっこぼこにぶん殴るために協力は惜しまないから、全員で道を探そうね」

裕穂はにやりと口元で笑って見せるとぱんぱんっと威と洸野の背中を叩いた。

「では、そういうことだから、ここで胸につかえている鬱憤などは取り合えず吐き出しちゃおう。そうすれば案外、楽になるもんさね」

彼女の言葉に反応を示したのは洸野だった。彼は威よりも彼女との付き合いが長いためか、彼女が何を言わんとしているのか理解しているようだ。

「あのさ、威、ひとつ聞いていいか?」

投げかけられた問いに威は息を飲んだ。だが取り合えず、了承の意を彼に返す。

今は、どんな言葉にも、どんな問いにも無視をしてはいけないのだ。それが彼女が言おうとしていたことなのだろう。

「お前は、異世界あっちに残りたかったのか?」

威はその問いに大きく目を開いた。どうしてそんな問いをするのか、と見上げた洸野の目が何処となく揺れていた。

(ああ、そうか)

洸野の瞳を見て、威は地球世界こちらに戻ってきてからの自分の態度を改めて自覚した。

確かに、あんな態度をとっていれば自分もあちらの世界に残りたかったように見えるだろう。

本当に自分しか見えていなかった事に威は十分に反省するとゆっくりと首を横に振った。

「そんな意味の無いことを思ったりしないさ。ただ二人で戻ってきたかったのに、それが出来なかったことに不甲斐なさを感じてただけだ」

本来、自分たちは4人だった。それが『ただ一人の少女つきじ』は親の勝手な都合の犠牲となり自分たちの元から遠い異国の地へと行かされ、そして『自分たちの中心にいたさとる』を突然、異界から吹いた風にさらわれた。

それに対して自分は周りも見えず、嘆いていただけだった。

「だから、今度はきちんと俺たちの手に取り戻そう」

威の言葉に洸野は目を眇めるようにして笑った。

それはあの初夏の日からやっと見せた微かな笑みだった.

「そうだな、きちんと取り戻して、殴って、抱きしめよう」

洸野の言葉に裕穂はにやりんと口元を歪めると、くくくっと喉を鳴らしながら笑ってみせる。

その姿に、その場にいた男3名は背筋に寒いものを感じざる終えなかった。

「理くんの場合、洸野くんの涙のほうが効くと思うよ。僕がよく使う『自然に涙流す方法』伝授してあげるから、再会の瞬間に使ってみる気ない?」

とんでもないことを言い出す少女に剣人は頭を抱え、洸野は「あはは」と少し退いた笑い声を上げた。

そしてその策略に唯一乗り気に反応したのは、やっと吹っ切れたおかげで自分の中にある自分の思いにきちんと向き合えるようになった威だった。

「いいですね、それ。山下、それ習っておいて実行してみよう」

そうだ、自分勝手にも自らが残ることを決め、それが本当に正しいことだと思い込ませて、『地球世界こちら』にいる人たちにこれほどまでの思いを植え付けた『彼』には報復が必要がある。

それには始終喜怒哀楽が激しくて表情豊かな威自身や、腹に一物も二物もある月路がやるよりも、普段から感情を押さえて周りに迷惑かけないような洸野の方がうってつけだ。

「でしょでしょでしょ。この涙は、今まで一度だって剣人にばれたことの無いほど完璧な涙なんだ。やってみる価値あるって」

裕穂は自分の意見に賛成してくれた威に天使のような笑みで笑って見せると、未だ判断をつけかねている自分の恋人とその弟に振り返った。

「協力してくれる、よね?」

「協力してくれる、よな?」

二人から送られる迫力ある笑みを伴った問い掛けに、山下兄弟は揃ってこくこくと頭を縦に振った。

「「やったぁ」」

手を取り合って喜ぶ天使のような少女と明るさを取り戻した少年の姿に、剣人と洸野は目を見合わせると小さく肩を竦めてみせた。

無敵の子悪魔、御園みその裕穂ゆうほ本領、発揮です。

でも、未だこの時点では威は『優しい先輩』と勘違いしています。

これで『回想』は残り1話となりました。連続でアップできるか、その時間が残っているか今から勝負です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ