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夢見の家 回想8

麻樹あさぎたける 十六歳・秋の夕暮れ――――

自己嫌悪────それが目覚めて一番最初に威の頭に浮かんだ言葉だった。

(まさかこの年齢としになって泣きながら眠るなんて)

眠る前に来ていたはずの制服はいつのまにか脱がされており、代わりに威が寝巻きがわりに使っているスウェットに着替えさせられている。壁を見ると、予備用の理の制服の横に並べてかけられていた。

(あれ……と、いうことは)

誰かに涙でぐしゃぐしゃになった自分の顔を見られたという事実に辿り着き、威は恥ずかしさのあまり顔を覆った。

こんなことをしてくれたのは誰だろう。この家に仕えている誰かか、父……それとも、洸野が訪ねてきた可能性だってある。

「だめじゃん、俺」

彼を一人にしないために戻ってきたのに、過去ばっかりを振り返ってしまっていた自分は実質彼を孤独にしてしまっている。こんなことでは理に再会した時に呆れられてしまう。

「ごめんな、どんなことをしてでも連れ戻すと約束したのに、守るって約束したのに、少し忘れかけてた」

自分の悲しみだけに目を向けて、守るべき少年を放ったらかしにしていた。

威は自分の情けなさを再確認しながら、視線を落とした。もう夕暮れ時が近いのだろうか、視線を落とした手元はオレンジ色に照らされていた。

もう、夕方なのか、と視線を窓の外に向けると地平に近づき大きく見える光を放つ球体がその色を白からだいだいへと変化させ、沈み行こうとしているところだった。

鮮やかなオレンジの光線は、温かく包むように世界を自分と同色に染めようとしているようだ。

「そういえば、由宇香が好きだったよな」

温かな色に染まるこの瞬間を妹はとても愛していた。朝日が差し込むようにと設計されている彼女の部屋からは決してみることの出来ない夕陽を、妹は義兄さとるの部屋まで来ては鑑賞していた。

『そんなに好きなら、部屋を替わろうか?』と理が申し出ると、彼女はくすくすと笑いながら『お兄ちゃんたちが揃っている部屋で見るから楽しいのよ?』と笑って答えたものだ。

その時は由宇香の答えの意味が解からなかったが、今なら理解できる。温かい光の中にあの楽しかった過去の風景が重なる。

それを取り戻すために自分は戻ってきたのだ。例えすでに由宇香はこの世に居ないとしても、彼女の好きだった風景を取り戻す義務が自分にはあるのだ。

威はぐっと拳を握るとベッドから降りた。

誰もいない部屋でこれ以上夕陽を見ていても仕方が無い。

自分のすべきことを探すためには、まず『異能力者』としてはスキルの高い父・良弘と色々相談しなくてはならないだろう。それから、あの時に知り合った『リュウファ』という名前の風の子供や、それに何かを知っていそうな洸野自身とも話をしなくてはいけない。

「よしっ!」

もう一度、威は自分に気合を入れなおすと理の部屋を出て階下へと向った。




階段のところで、威は一旦、立ち止まった。何故か階下が騒がしい。

(父さんが帰ってきたのかな)

この家の当主であり、巨大な企業体コングロマリットの長である母・みのるがこの時間に帰ってくることはまずない。

逆に父・良弘よしひろは威たちの通っている学園の教師で、担任や顧問を請け負っていないので早く帰ってこようと思えば、至極迅速に家に着くことが出来る。

(あれ……そういえば)

あの時は頭に血が上っていて考えていなかったが、次の授業は父の受け持つ物理だった気がする。

普段は温厚で優しい父ではあるが、単なる八つ当たりみたいな状況で授業をサボるのを簡単に許してくれるような甘い人ではない。

(と……とりあえず、謝っておかないと)

威が階段を折り始めたところで、メイド長の大森美智子の声が耳に届いた。

「奥様、だんな様、お帰りなさいませ」

その言葉に威は目を見開いた。これは珍しいこともあるものだ。何か用事が会って示し合わせて帰ってきたのだろうか。

威が驚きの表情を隠さずに階段を下りていくと、そこにはスラリとしたパンツスーツを来た実の姿があった。威は視線で母と一緒に帰ってきた筈の父・良弘の姿を探した。


やっと現在に戻ってきました。

サブタイトルどおり、回想……自分でも長かった気がします。

威も大分浮上してきました。後はとどめを両親ならびに幼馴染こうやに刺してもらうのみです。

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