夢見の家 回想7
予測どおりだったのだろう、威の主張に対して理は背中に生えた翼を大きく動かしてみせた。
彼の背中に広がる白い白い翼は、すでに答えが出ていることの証でもある。
「こんな翼をつけて?」
「彼女のようにしまっておけばいいだろ」
それでも、反論をしなくてはいけなかった。
縋るように言い募る威に理は今度こそ重く頭を振って見せた。
「だめだな・・・絶対に何かしらの不備が出てくるはずだ・・・お前が帰るべきだ」
告げられた言葉を聞きたくなくて、威は耳を塞ぎ思いっきり頭を振った。
「条件を出そう」
そんな威の心を宥めるために、理は一つの提案を申し出た。
「威は、一旦地球世界に帰る。そして山下や月路、それから威たちの能力の封印をしている良弘義父さんと一緒に俺を地球世界に戻す手段を考えてくれ」
そこで一旦、理は言葉を切った。
「俺もできる限り此方の情報を集めて、二度とこんなことが起きないようにした上で変える方法も探す。もちろん、自力で変える方法を見つけたら、即刻帰ると約束する・・・わかったか?」
(理はずるい……)
逆らえないような提案に威は下唇を噛んだ。もうこれ以上彼を困らせることは出来ない。
「わかった」
威は視線を少し落とすと、渋々その言葉を呟いた。
彼の承諾に理は優しく義弟の身体を抱きしめてやった。
「俺が帰れるまで、みんなを守ってやってくれ」
当たり前の願いに、威は何度も頷いてみせる。
5歳の時、理が麻樹家に引き取られてからずっと離れたことなど無かった。やがて大人になったら、道が分かれるかも知れないと思ってはいたが、それは『現在』ではなかった。
(どうして、どうして)
威は何度も頭の中でその言葉を繰り返し、涙を流しながら理の言葉に頷きつづける。
だが、いつまでもそうしているわけにはいかないことなど威も理解していた。何とか涙を自分の腕で拭うと、ゆっくりと立ち上がり祭壇へと視線を戻した。
「水晶……地球への扉に案内してくれ」
威の言葉に答えるように、水晶は光る壁の一点から一条の光を黒い鏡の様な石へと注いだ。
『扉ハ元来コノ世界ヲ創ッタ者ガ残シテクダサッタ……ソノ鏡ニ闇マタハ光ノ力ノ干渉ガアレバ扉ハ開キマス』
威は心の揺らぎを悟られないように、まっすぐに鏡の石の前へと向った。その歩調が少しゆっくりになってしまったのは、未だ、納得できない心のためだろうか。
石に近づくごとに先ほど目覚めたばかりの能力の欠片が反応して、彼の身体は淡く紫色の光を放ちはじめる。そして呼応するように鏡だった扉の石の闇が深くなり、あと一歩で辿り付くほどの距離になると底知れぬ深き闇を内包する状態にまで変化していた。
威は決意の限りに自分の両手の拳を握り締めた。
「理・・・・約束だから・・・絶対に俺は・・・・俺たちは理を連れ戻す方法を見つける」
決意が鈍らないように、理の方には振り向かずに静かに静かに決意を告げる。
「ああ、待ってる・・・俺も戻る術を探しながら、ずっと待っている」
その言葉に何とか止めたはずの涙がまた溢れた。
威はそれを悟られないように深淵の闇を称えた石へと手を伸ばした。
その表面に触れるかと思えた指先は何の抵抗もなく石の中へと吸い込まれる。
もう止められない。石に吸い込まれる力に任せて、威は最後の一歩を踏み出した。
「地球世界のことは頼んだ」
「ああ、まかせろ」
背中に掛けられた理の言葉に、威は答えるように振り向いた。
自分の瞳に映る義兄の姿を忘れないように心に刻み付け、威は意を決して闇の中へと飛び込んだのだった。
何とか連続でUPです。そして回想シーンも何とかおわりました。
これでもう少し手早く更新できるはず。(と、言っても明日・明後日は自分の都合上更新は絶対に出来ないのですが)