雨の日の二人
「こんにちは」
「どうも」
「今日も一人?」
「そうよ」
「今日は雨だね」
「ええ、そうね」
「君は雨が好き?」
「……嫌いじゃないわ」
「それはどっちなの?」
「……嫌いじゃないの」
「じゃあ好きなんだね」
「そうかもしれないわね」
「あなたは?」
「僕?」
「ええ」
「僕は……嫌いじゃないよ」
「どっちなのよ」
「どっちなんだろうね」
「……」
「ちょっと前までは嫌いだったんだ」
「そう」
「でも今は君と二人でいられるから」
「……」
「君はどうなの?」
「何が?」
「僕と二人でいること」
「どうって?」
「そういうこと」
「……嫌いじゃないわ」
「ふふ、そう言うと思った」
「……そう」
「晴れの日は?」
「陽射しが鬱陶しいわ」
「真っ白な肌が焼けてしまうね」
「そんなことはどうでもいいの」
「そうなの?」
「ええ。気にしたこともない」
「せっかく綺麗なんだから気にすればいいのに」
「……そうね」
「どうしていつも傘を持ってこないの?」
「傘をさすのは好きじゃないわ」
「ふーん。濡れるのが好き、とか?」
「いいえ。それに、いつも持ってきてないわけじゃないのよ」
「そっか」
「あなたは私といて退屈してないの?」
「してないよ」
「どうして?」
「分からない」
「意地悪」
「……またいつかにしよう」
「分かったわ」
「君は退屈してない?」
「ええ。楽しい」
「どうして?」
「……分からない」
「僕と同じだね」
「……そうね。悪い気はしないわ」
「ふふ。それはよかった」
「あなたはどうしてあの日、声をかけてくれたの?」
「あの日って?」
「私たちが初めて会った日」
「君が困ってたからだよ」
「じゃあ、あなたは困ってる人がいたらその全員を助けるの?」
「それはできないよ」
「なぜ私に傘を貸そうとしてくれたの?」
「……君に濡れてほしくなかったから」
「……そう」
「君はどうして朝から雨が降っている日にも傘を持ってこないの?」
「……朝は送ってもらうから」
「車から校舎までは走るの?」
「ええ。濡れてしまうわ」
「傘、持ってきたら?」
「持ってきていいの?」
「え?」
「私が傘を持ってきたら、こうして一緒に帰ることはないわ」
「……そうかもしれないね」
「……」
「君は読書って好き?」
「ええ」
「僕はいつか本を書きたいんだ」
「……」
「そうしたら君も読んでくれる?」
「……いいわ。楽しみにしてるから」
「頑張るよ」
「あなたは友達いないの?」
「……いないよ」
「そう」
「君は?」
「……いないわ」
「僕たちってもう友達じゃないかな?」
「……いいえ、違うわ」
「……」
「私たちは仲間よ。雨の日の仲間」
「ただの友達よりもかっこいいね」
「ええ」
「晴れの日って君はどこにいるの?」
「……どういうこと?」
「そういうことだよ」
「学校にいるわ」
「僕は見たことないんだよ」
「何を?」
「晴れの日に、学校で君を見たことがないんだ」
「そう」
「たまたまかな」
「ええ。校舎は広いもの」
「君は休日何をしてる?」
「いきなりね」
「そうかな」
「ええ」
「それで何をしてるの?」
「……お見合いみたいなことを聞くのね」
「そうかな」
「ええ」
「休日は何をしてるの?」
「……家の仕事を手伝ってる」
「そう。大変だね」
「そうでもないわ」
「でも、休みがほしくない?」
「休みは別にあるもの」
「そっか」
「あなたはどうなの?」
「お見合いみたいな質問だね」
「それはもうやったわ」
「ふふ、そうだね」
「それで、どうなの?」
「……読書したり読書したり、かな」
「そう。本が好きなのね」
「君もそうなんだよね?」
「ええ」
「馬鹿にされるかと思った」
「何を?」
「休みの日まで本読んでること」
「馬鹿になんてしないわ」
「……うん」
「私たちは仲間よ」
「……うん」
「あなたは高校生活楽しかった?」
「楽しかったよ」
「そう」
「まさか卒業式に雨が降るとは思ってなかったけどね」
「家族が気を利かせてくれたのよ」
「……うん」
「少し聞いてほしいの」
「うん」
「前は言えなかったけど、私は楽しかったわ」
「うん」
「あなたと一緒にいて、雨の日だけでも一緒に帰れて、本当によかった」
「……」
「これが最後の質問ね」
「何?」
「あなたは私のこと好き?」
「……好きだよ」
「そう。私もよ」
「……また会えるかな」
「分からない」
「……」
「でも、また雨の日に傘を忘れて困ってるかもしれないわ」
「……」
「その時はまた、声をかけてほしいの」
「……うん。約束する」
「ありがとう」
「うん」
「さようなら」
「また、会おうね」
「待ってるから」
「絶対、会いに来てね」
「ねえ、君、傘なくて困ってる?」
「ええ。ついでに人を待ってるの」
「……久しぶり」
「……ええ」