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プロローグ
店の中ではかちかちと、時計が静かに音を立てる。
静かな静かな空間に、その音だけが響いている。
時計は古くて大きな柱時計。
それなのに正確に時を刻んで、止まることを知らない。
中天に、真円を描く月が浮かぶ。
それと同時に、ぽーんと柱時計が刻を告げる。
この店に人の来る、合図だ。
刻が来れば、店は静かに、静かに、町に現れる。
――まるで、誰かに誘われたかのように。
――あるいは、誰かを誘うかのように。
店の名前は『観月館』。
どこにでもあって、どこにもない、そんなレトロなカフェーである。
そして人は、この店をしてこう呼ぶ。
――『願いを叶えてくれる喫茶店』と。
……そんなまことしやかな噂の流れる、フシギな場所である。