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その1

人が消えたあの日から、今日でちょうど三週間目。

 三週間あれば、いくらなんでも東京に着けると思うだろうが、残念ながらまだ東京に近づけた実感すらないのが現状であった。

 食料確保や単なる寄り道などでちょくちょくルートが変更になるので、よく道に迷うのだ。

 そんなものあっても仕方ない、と地図も使わないので、試行錯誤の繰り返しである。

 「今日はこのあたりで休むか?」

 と二人に聞くが、返事がない。

 バックミラー越しに後部座席を見ると、児玉が横になって眠っていた。

 助手席を見ると、黒田も可愛らしい寝息をたてて眠っていた。

 二人とも寝ちゃったか、そうつぶやき、視線を前に戻す。

 二人が寝ている理由、それは四時間くらい前まで話がさかのぼる―

 

「ねぇ!カズッち、ちょっとストップ!」

 突然黒田が停止を要求してきた。

 「何だ?いきなり。」

 「いいからいいからっ。」

 理由も分からないまま車を止める。

 車を完全に停止させてから、改めて黒田に理由を聞くことにした。

 「で、何なんだ?」

 「カズッチよ、毎日車の座席に座りっぱなしで移動しかしないのは、運動不足になりかねない、てか多分なってる。違うかい?」

 「まあな、でもこれといってすることも…」

 「そこでわたくし、これから運動をしてこようと思います!」

 「どこで?」

 「じゃじゃーん!」

 黒田は車を降り、誇らしげにある方向を指し示す。

 「えっと…、○○アスレチック公園?」

 なんと、そこにはアスレチック公園の入場門があったのである。

 でもこの名前、どっかで見たことあるような…

 「ということで、ちょっくら遊んできまーす。優ちゃんも遊びに行こっ!」

 当然その誘いを児玉が断る理由もなく、というか更に乗り気になったようで、勢いよく車の扉を開け放つと、公園の入場門で待つ黒田のもとへ駆けて行った。

 「ちょっと待て!黒田。」

 ん?と黒田が振り返ると、高山は問うた。

 「いつから誘導していた!」

 黒田は一瞬驚いたような表情をした後、分かりやすく、

 「ばれちったか。」

 という分かりやすい表情とともに、いたずらっ子のような口調で言った。

 「やっぱりな!」

 「ということで、」「「行ってきまーす!」」

 仲良くそう言って、女子二人は園内へと駆けて行ってしまった。

 何が、ということで、だ。

 当の高山はというと、もっぱらのインドア派。当然、アスレチック公園なる明らかに体力を使いそうな場所で遊ぶのは勘弁、と車から出ることはせず、助手席に手を伸ばすとグローブボックスを開け、中から文庫本の小説を取り出し、栞を外して読み始めた。

 ちなみに、黒田に誘導されたと気づいたきっかけは、ここに至るまでに何回か見かけたこの公園への案内看板だった。

 その時は、このあたりにはアスレチック公園があるのか、程度にしか思っていなかったが、今思い返してみると、黒田はその看板が指し示す道どおりに高山にアドバイスしていたのである。

 きっと、昼休憩の時点で看板を見つけていたのだろう。

 そして、高山が気づかないように誘導していたのである。

 園内へ入っていくときのしてやったり顔にも納得がいく。

 その後、一時間以上たっても二人は戻ってこなかった。

 二人が戻ってきたのは、四分の一くらい読み終えていた文庫本が、もうすぐ読み終わりそうなころだった。

 汗と、水でびしょぬれになった二人が帰ってきたとき、高山はとんでもなく驚いた。

 一体何をしたらそんなになれるのか。もう夏は終わったはずなのに、なぜ透けるほど薄着なのだろうか?暑がりなんだろうか。あ、黒田はスポブラつけてんだやっぱ見た目通り小さいな、なんて脳みそで煩悩が暴れだす。

 とりあえず、急いで二人に体を拭いて着替えるように言い、高山は運転席で一人、言いようのない罪悪感にさいなまれていた。

感づかれていないようでなによりだった。


 着替えが終わり、移動を再開したら現在のように二人とも爆睡、という結末である。

 いつもと違って深い静けさにつつまれる車内、響く車のエンジン音。町はどこまでも沈黙を守り通していた。

 運動していないとはいえ、これだけ静かだと流石に眠くなってくる。眠気覚ましにミントタブレットを一粒口に放り込むと、すぐに口内がミントの爽快感で満たされた。

 徐々に引いていく眠気を感じながら、高山は仕方がなく、二人のガイドなしで今夜の野営地を探すことにした。


                 *


 日が沈むか沈まないかという時に、大分前に一度見たことのあるスーパーの店舗を発見した。

 丁度いい、とハンドルを切り、スーパーの駐車場に入る。

 後ろと横で寝ている二人を起こさないように、いつもよりゆっくりブレーキを踏んで停車し、エンジンを止めた。

 二人とも相当疲れていたようで、まだ目を覚ました様子はなかった。

 夕食はまだだったが、爆睡している二人を起こすのも申し訳ないな、と思い、夕食を非常食系で済ませることにした。

トランクスペースに所狭しと押し込めてあるボストンバッグの中から、総菜パンとカロリーメイトの小箱を三人分取り出すと、車内に戻り、黒田と児玉のそばに一セットずつ置き、高山はそれらをさっさと食べ終えると、薄い毛布をかぶり、そのまま眠りについた。

おやすみ、明日はどこまでいけるだろう。


                     *


ふと目が覚めた。

気づいたらあたりはもう真っ暗で、室内照明のLEDランタンの明かりも消えている。

どうやらあの公園でひとりきり遊んだ後、そのまま車内で眠ってしまったようだ。

そして当然、

「お腹減った…」

どうやら夕食まですっぽかしてしまったようだ。夕食の時くらい起こしてくれたっていいのに、と心の中で彼に文句を言いつつ、体を起こそうとすると、自分の体に毛布がかけられている事に気付いた。

まったく、こういうところは気がきくんだから、と上半身だけ起き上がる。

すると今度は、膝のあたりに何かが乗っている事に気付いた。

滑り落ちそうだったので、あわててそれをつかむ。

紙の箱とビニールの袋。カロリーメイトと総菜パンだった。

前言撤回、彼は最後まで気の利くやつだった。

かなり遅めになってしまったが、夕食にすることにしよう。咲ちゃんはもう食べたのだろうか。ここからは見ることができなかった。

運動後の空腹のせいもあり、あっさり平らげると、また眠りについた。

おやすみ、明日はどこまでいけるだろう。


                   *


そうして夜は更けていった。

人のいない夜は、どこまでも静かで、どこまでも透き通っていた。

夜はそう遠くないうちに終わり、やがて新しい朝を運んでくるだろう。人が消えてもそれは変わらない。

そうして、三人の旅は続いていく。



全体的なストーリーに、少し追加事項を入れたくなったので、順次古い話から更新していく予定です。

数行追加する程度ですが、もう一度読んでいただけるとありがたいです。

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