五章 「この世界は」 その3
「そうですか…、では手短に…。―皆さんは、「砂」を見たことがありますか…?」
「砂……?」
砂なんて、そこらじゅうにあるじゃないか?それがどうしたんだ、と言おうとしてところで、
「あの砂が?あんたの仕業なの?」
「ああ…、やはり児玉さんはご存知でしたか」
「砂って?なんのこと優ちゃん?」
黒田が、混乱気味に聞いてくる。
「―高山君、最初に車に乗った時の事、覚えてる?」
「……あ、ああ」
高山は児玉の勢いに若干気圧されたように返す。
「その時に、運転席に白い砂が残っていたの、覚えてる?」
「……確かにあったな。でもそれが―」
「……それが『人だったもの』です」
は?
一瞬で自分たちの理解の範疇を超えられて、脳がフリーズする。
「何を言って―」
「……児玉さんが車内で見た砂は、おそらくその車の持ち主です……。僕はあの日に『風』を吹かせましたし……」
つまりなんだ、こいつの言う『風』が吹いて、人が砂となって消えたのか?
でも、さ
「その『風』で人が砂になったってこと?じゃあなんで私達生きてるの?」
「……たまにいるんですよねぇ、影響を受けない人が。何故でしょうか?」
つまり、今自分たちが生きているのは、偶然にも『風』の影響を受けなかったからなのか。それでも、世の中の大多数の人間が消えているのに変わりはない。
それにしたって。
「なんでそんな事したんだ」
至極当然な疑問だった。
家族が、クラスメイトが、皆の顔が浮かんでは消えていく。
なぜ彼ら彼女らは消えなければならなかったのか。
「さあ、何故でしょうねぇ……」
男の返事は、当事者意識のかけらもない、簡単なものだった。
湧き上がってきた怒りを抑え、もう一度聞く。
「……今のは聞かなかったことにしよう。何故こんなことを、人を消すようなことを、したんだ?」
今度は返事までに間があった。
「さあ、よくわからないですねぇ……。しいて言えば、なんとなく、でしょうか?」
限界だった。
「テメェのなんとなくで人類消してんじゃねぇよ!!自分がなにしたのか分かってんのか!!」
もう怒りで脳が支配されていた。
人が今まで犯した罪の清算だとか、環境を荒らし過ぎたとか、そんなことを言われたらここまで怒り感じなかっただろう。
怒りに身を任せ、男につかみかかろうとする。
つかみかかろうと、した。
透明な膜のようなものが見えた瞬間、
「ごぁっ!?」
全身に何かにぶつかった様な衝撃と痛みが走り、思わずその場にうずくまる。
「高山君大丈夫!?」
「カズっち大丈夫!?」
二人が駆け寄ってくる。
ぶつかっただけ(?)なので、幸い怪我などはしてないようだ。が、触った額は熱を帯びて腫れており、体中のいたるところがしびれるように痛んだ。
「あ…、言っておきますけど、無駄な抵抗はしないほうがいいですよ…。これやるのすごく面倒なので……」
男は平然と言い放つ。大概チートじみている。
「……では、用がないのであればこれで失礼します」
「ちょっと待て」
言うだけ言って去ろうとする男を呼び止める。
「『風』で、今後俺達が消える可能性はあるのか?」
「……ありますねぇ」
もう驚きはしなかった・
「消えないといっても、いつかは消えるので…」
それだけ言って、男は歩み去っていった。




